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サステナブルな行動デザインツールキット:The Change Pointsを試してみた

こんにちは。ACTANTの伊集院&堀澤です。
ACTANTでは金曜日夕方にメンバーで集まり、最近参加した学会や気になっているテーマなどを共有し合うゼミを不定期で開催しています。

今回のゼミでは、The Change Points Toolkitという、サステナブルな行動習慣を促すデザイン手法のツールキットをみんなで試してみました。

これは、イギリスのシェフィールド大学とマンチェスター大学の社会科学者らが、政府、NGO、企業など様々なステークホルダーと共同で開発したツールキットです。社会的・物理的にロックインされた(人々が自分の行動の意味を理解し変えたいと思っても、文化・社会的要素によって行動習慣を変えることを制限されている状態)ルーティン行動(日常的に行っている行動)を解消するための介入策を見つけ出し、より環境負荷の低いルーティン行動へ変えるためのデザイン手法です。

例えば、食に関するルーティン行動に関連している文化・社会的な背景のつながりを見ていき、「フードロス」のような課題に対して、日常生活の中でどの行動を変えるべきかというポイントを見つけていきます。

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(↑Challenges and opportunities for re-framing resource use policy with practice theories: The change points approachより引用)

先日のnoteでも紹介していたソシオマテリアル・システミックデザインに関するリサーチにも関連しています。

実際にやってみよう

では、実際のワーク方法と、試してみた内容の一部を紹介します。このツールキットには6つのワークが含まれています。これらを一通り実施することで、参加者が「ルーティン行動」、「ルーティン行動に関連している文化・社会的な背景」、「ルーティン行動への介入方法」を検討することができます。各ワークにはディスカッションを補助するワークシートが用意されており、これに沿って6つのステップを進めることで、徐々に実践的な介入アイデアを検討できる構成になっています。

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ワーク01:プロブレムスコーピング

まず、このツールキットによって解決したい課題を定義し、参加者の認識を揃えます。設定する課題はどのようなものでもかまいませんが、個々人の動機、理想の状態など、課題に関する議論を繰り返し、より深い洞察を加えていきます。

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ACTANTでは「MOOCs(オンライン学習)が続かない」という課題を設定しました。サステナビリティに関するテーマではないですが、2〜3ヶ月ほど前に、とあるMOOCsが話題になって契約したものの、様々な理由にかこつけて進捗がない状況が続いてたので満場一致で決定。変化の方向性としては、「MOOCsをするための時間を捻出する」と「MOOCsの優先順位をあげる」という2点を設定しました。

ワーク02:関連するチェンジポイント

続いて、日常的に行っている数々の行動の中から「チェンジポイント」を特定します。チェンジポイントとは、課題と関連性が高く変容のきっかけとなりうる行動のことです。このワークでは、まず課題に関連した行動を時系列順に書き出します。そして、それらが課題にどのような影響を与えているのかをディスカッションしながら、チェンジポイントを選びます。チェンジポイントはひとつだけではなく、複数設定することも可能です。ただ、次のワークで、チェンジポイント一つひとつについて深掘りを行うので、3〜5つぐらいに留めておいたほうが無難かもしれません。

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メンバー全員の仕事に関するルーティン行動を時系列に書き出しました。通常ならば、その後に各行動が課題に与えている影響についてディスカッションするのですが、今回は簡易的に投票でチェンジポイントを決めました。その結果、「寝る前のSNSだらだら」「日中のミーティング」「甘いものを食べてリフレッシュする」という行動をチェンジポイントに設定しました。

ワーク03:ダイバーシティ

チェンジポイント(ワーク2で設定したルーティン行動)の「多様性」について検討します。冒頭でご紹介した通り、本ツールでは、チェンジポイントへの介入を通して課題解決を試みます。介入するといっても、そこから生じる影響は、社会的立場、家庭状況、使用しているインフラなど一人ひとりが置かれている状況にによって様々な可能性が考えられます。こうした多様性についての理解を深め、どんな人が、どのような変化を望み、なにを変えたくないかを整理して、チェンジポイントのパターンを設定します。これにより、次のワークで検討するインフルエンスマッピングをより広範に、かつ具体的に検討することができるようになります。

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今回は簡易的に行ったため、ワークシートは使わずにディスカッションのみで進めました。例えば、チェンジポイントに設定したのは「寝る前のSNSだらだら」という行動。とはいえ、一人暮らしとお子さんのいる家庭では寝る前の時間の使い方が全く違うように、行動の重要度や変化のリスク、変えたい方向性は人によって異なります。

ワーク04:インフルエンスマッピング

各チェンジポイントに関連する文化的・政治的・技術的背景をマッピングします。このワークのポイントは、チェンジポイントに影響を及ぼしている要因をより広い視野から検討することです。ここで文脈を広げておくことで、次のワークで様々な角度からチェンジポイントに切り込めるようになります。

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例えば、「日中のミーティング」というチェンジポイントでは、「複数案件の納期が重なって直前が忙しくなる」といった外的要因が、「寝る前のSNSだらだら」では、「スマホで様々なコンテンツに手軽にアクセスできてしまう」といった物的な環境やテクノロジーの要因があげられました。

ワーク05:リフレーミング

課題解決のためにチェンジポイントへの介入方法を発想します。これまでのワークで、チェンジポイントの多様性や関連する要因について検討してきました。これらを振り返りながら、チェンジポイントのどの要因に、どう切り込んで、どのような変化を生じさせたいかを検討し、そのアイデアを発想していきます。

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通常ならば最低1時間ほどはかかるワークですが、簡易版ということで10分程度でアイデア発想を行いました。MOOCsの時間を割くために「通常のミーティングを1時間から45分に短縮する」というアイデアが出ました。

ワーク06:アクションプランニング

最後に、発想したアイデアをどのように実現するかを検討します。ワークシートには、アイデアの実行計画を立てるための質問が用意されています。実現のために不足している情報や課題を明確にし、最後に、次に行うアクションの宣言までを行います。

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今回はこのワークは時間の都合で省略しました。アイデアの実現に向けて、具体的なロードマップの指針になるので、実際のプロジェクトでツールを使用する場合には、この箇所はかなり重要になります。

おわりに

このツールキットを使用することで、個人の日常生活に及ぼす無数の影響を整理することができます。日常の中で意識していなかった要因に気づくことができるので、社会的・物理的にロックインされている課題に取り組むにはとても有効な思考法だと思います。ワークシートや進行プロセスなど、日本の文脈では使いづらい部分、改善点も発見することができました。機会があれば改良して実践してみます。

以上、The Change Points Toolkitのご紹介でした。
皆さんも是非試してみてください。

不定期開催のACTANT FRIDAYゼミ、また気まぐれに開催予定です。次回のレポートもどうぞお楽しみに。