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座学だってデザイン次第の講義法(実践教育プロジェクト)

大学院で学ぶ「学習のデザイン」今回は、先生の教え方についてです。

4つの教授法

学校での教え方(教授法)は主に4種類あります。これまで受けてきた授業を思い返すと、だいたいどれかに当てはまるはずです。

  1. 講義法

  2. 発問法

  3. アクティブ・ラーニング

  4. トレーニング法

講義法は学校でよく行われる伝統的な先生の説明、いわゆる座学です。それに対して発問法は学生に問いかけて考えを深める方法、アクティブ・ラーニングは先生と学生で双方向の議論や制作を通じて思考を深める方法。トレーニング法は体育や音楽など実践を通して技能を身につける方法です。

この4種類は実際には混ざることもあります。例えば、前半はレクチャー中心の講義法で、後半に問いかけをする発問法を組み合わせるなど。

今回はその中で「講義法」を取り上げます。4つのなかで、一番つまらなさそうで時代遅れの感もありますが、長所短所を知って位置付けを把握したいとと思うのでまとめてみます。

授業ではこちらの本からの引用が多く使われていました。

なんで講義法はいまもあるのか?

いまでも学校教育で最も多く用いられているのは、講義法だと思います。その理由はこれです。

講義法は系統的な情報伝達が目的の場合は効果的である

ブライ(1985)

系統的な情報伝達とは、理論によってつくられた知識や概念のことです。例えば英語の文法を知るといったようなものです。系統的に対して経験的な情報伝達もあり、これは英会話などが相当します。

もちろんどっちも大事だけど、系統的な知識がないと、身につけられることが偏ったり亜流になりがちです。講義法はこのように基礎を学ぶのに適していて、とても学習効率の高い方法なので、多くの授業で取り入れられているわけです。

他には、こんな点での長所があります。

  • 知識定着が目的の場合は効果的

  • 短時間で教えられる(15分を1つを区切りとするのがよい)

  • 学生の能力がある程度均質である場合に伝えやすい

  • 意欲の高い学習者が多と伝達しやすい

  • 視聴覚で学ぶことが得意な学習者が多いこと

  • 多人数に教えやすい

一方で、この方法の短所や限界もたくさんあります。

  • 思考促進の効果が低い(学生は受け身なので)

  • 行為や技術を教えるのには向いていない(車の運転とか)

  • 関心や態度を教えるのにも向いてない(ハラスメント研修とか?)

  • 単調になりがち、つまならい

  • 学生が理解できているか先生はわかってない

なので、一般的に講義法は学生にとっては、やはり魅力的とはいいにくいです。(すごく関心のある学生や、逆に居眠りしたい学生にとっては別)

知りたい気持ちにさせるためには?

どうやって学生のモチベーションを高めて知識を身につけてもらうか、が講義法のカギともいえます。

さて、学生の知識が定着する、とはどういう状態かというと

覚えて、思い出せて、活用できること

実践教育プロジェクトの授業 より

です。その場で分かっただけではなく、時間が経っても別の場で記憶を取り出して使えることが、講義法で目指すことです。つまり、短期記憶ではなく長期記憶につなげる必要があります。

長期記憶に蓄積させるために、いくつかテクニックがあります。

  • 視覚と聴覚を併用する(図と口頭説明の組み合わせなど)

  • 繰り返す

  • チャンクに分ける(1カテゴリを3-4個に留める)

  • 既有知と関連づける、例え話を取り入れる

  • 注意を向ける、好奇心を持たせる、わからなさを潜ませる

これらに加えて、個人的には「自信を持たせる」ことが大事だと思います。一方向の教えは、学生がついていけない状況になりがちです。そうすると不安になってあきらめたり、やる気がなくなってしまいます。

本を読むことも受け身の学習です。でもこの場合は、本の内容が難しければ読むことをやめてしまいます。ここで先生が関わる意味が出てきます。

そのために「伝える」に加えて、「知ったこと」によって成長できた実感をもたせることも大切です。なので先生は「教える」だけでなく「学生に応援メッセージを送る」という意識が講義法で大事でないかと考えます。

どうやって授業を組み立てる?

先生が講義法を使って授業を設計する場合、おおきくは次の4ステップで考えていくことになります。

  1. ニーズ(教育機関や学生側の要望を把握する)

  2. スコープ(範囲を決める)

  3. シークエンス(教える順番を決める)

  4. レベル(難易度を設定する)

まず最初に考えることは、クライアントである教育機関が何を依頼しているのか?ユーザーである学生は何を学ぶ必要があるのか?という思惑を正しく理解することです。

こう書くとビジネス的だったり、僕の専門領域であるUXやデザインストラテジーそのものなのですが、まったく共通しています。この観点が抜けて考えると、ただ自分がやりたいだけの講義になるので要注意。教育機関だから特別だと思わずに、ユーザー視点は大事ですね。

次に範囲を決めます。先生の視点だとつい詰め込みがちですが、1回の授業で定着する知識は限られるので、絞り込みが必要です。

教える順番には基本のセオリーがあります。理解にはステップが関係するので、それを意識した構成にします。

  • 簡単→複雑

  • 既知→未知

  • 結論→理由

  • 個別→一般

  • 具体→抽象

  • 過去→現在→未来

  • 全体→詳細→全体

最後に難易度です。あらためて授業をうける学生は、どのような前提知識があるか、前後の授業つながりを考えた時のバランスを意識します。ちょっと難しいけど分かったときは嬉しい、というような挫けさせず意欲を掻き立てる度合いの見極めは大事です。

学んだこと

講義法は汎用性が高いけど面白くないと思われていることは、先生方も認識しているはずです。でもそのうえで、どうやったら興味を持って知識定着につなげられるかについて、これだけ体系化されているとは知りませんでした。

また、アクティブ・ラーニングの方に関心が集まっても、文法や法則、あるいは初学者の学生に対する基礎の伝達など、講義法を用いないと成立しない領域はたくさんある、ということも理解することができました。

地味かもしれないけど、適材適所でよい手法を使い分けるための知識って、意外と大事だと思いませんか?

今週はここまでです。

デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。