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教え方の体系的モデルを学ぶ(インストラクショナル・デザイン)

大学院で学ぶ「学習のデザイン」。自分がこの大学院で学びたかった目的の1つ、インストラクショナル・デザインの授業が後期からはじまりましたので、今日はそのご紹介です。

インストラクショナル・デザインとは

まず言葉の定義から、それぞれ日本語にするとこうなります

  • インストラクショナル:教育の

  • デザイン:設計(組み立て方)

つまり教育方法の設計です。もう少し具体的に言葉すると、このように定義されます。

教育・研修の効果・効率・魅力を高めるための手法を集大成したモデルや研究分野、またはそれらを応用して学習支援環境を実現するプロセス

(鈴木克明 2005)

インストラクショナル・デザイン(以降はIDと略します)ができたのは、第二次世界大戦後、アメリカで教員不足が深刻な問題となり、誰でも一定の品質で教えられるメソッドが必要になったという背景があります。

今回は第1回目なので、IDの基本的なメソッドを3つほど紹介します。これをみて、IDの考え方を感じ取ってみてください。

メーガーの3つの質問

ロバート・メーガーはアメリカの教育工学研究者で、1974年に、次の3つの質問をすることで、授業を組み立てる考えを示しました。

  1. Where am I going?(どこへ行くのか)学習目標

  2. How do I know when I get there?(到達したのをどう知るのか)評価方法

  3. How do I get there?(どうやってそこに行くのか) :教授方略

まず学習によって達成したいことを定めて、それが達成できたかどうかを測る方法を定めて、そのあとに授業方法を組み立てる、という3段階での考えです。以前に紹介した逆向き設計の考えがベースになっています。

それぞれの設定にはいくつかポイントがあります。

  • 目標は「ジャンプすれば届く距離」にしよう

  • 評価方法は観察可能な動詞を使おう

  • 目標→評価→教授は連動して、実施と改善を繰り返そう

英語で例を考えてみます。学習目標は「英語で5分のプレゼンが行えるようにする」というように、少し難易度の高い設定します。評価方法は、実際に発表してもらうことでプレゼンを観察して点数づけします。そして効果的なプレゼンが行えるために、プレゼンの構成、原稿を書いた状態でのレビューや添削、発表の練習といった内容を授業に組み立てます。

適切な授業設計になっているかは、実際に文章に書き出してみることで確認できます。不十分な設計は評価方法があいまいだったり、学習目標と教授方法が一致していなかったりします。

IDの第一原理

第一原理というくらいなので、すべての教育活動の土台となる、構成主義心理学(知るということは自分の中に意味を構成することという考え)にもとづくIDの共通要素となる5ステップです。

  1. Problem(問題):実世界の問題につながること

  2. Activation(活性化):自身が理解したうえで使われること

  3. Demonstration(例示):Tell meではなくshow meで示すこと

  4. Application(応用):新しく学んだ知識を用いること

  5. Integration(統合):使えるようにすること

これも英語のプレゼンで考えてみましょう。まず最初に英語を学ぶと会話ができる価値を感じてもらい(1)、そのために今の状態ではまだ難しいことを自覚し(2)、先生のプレゼンの例を見て(3)、プレゼンのテクニックを学び(4)、そして自分なりに発表ができる(5)となります。

特徴は、リアル・具体的・自分ごと、という点です。授業というと理論上の話になりがちですが、それだけでは知識が活かされないので、ちゃんと実行力のある学びになることIDの土台として設定されているのは、とても大事な意味があると思います。

日本の教えで山本五十六の「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、誉めてやらねば、人は動かじ」に通じるところがあります。

9教授事象

ID創設者の1人、ガニエが提唱したモデルで、学習者の学びを支援する働きかけのとしての9項目です。これも英語のプレゼンの例で対比させると、次のようなステップになります。

  1. 学習者の注意を獲得する(英語で発表できるとカッコいいよね)

  2. 授業の目標を知る(英語でプレゼンできるようになろう)

  3. 前提条件を思い出させる(日本語を使わず5分話してみよう)

  4. 新しい事項を提示する(実は5分の中に構成要素があるんだ)

  5. 学習の指針を与える(構成に基づいて文章を書いてみよう)

  6. 練習の機会をつくる(文章が書けたら声に出してみよう)

  7. フィードバックを与える(良かった点と改善点を教えるね)

  8. 学習の成果を評価する(1人づず発表して講評しあおう)

  9. 保持と転移を高める(授業以外でも発表機会つくってね)

IDの基本的な態度として、学習者が期待通りに学べなかったらその責任はすべて教える側にある、という考えがあります。

なので、ただ知識を伝達すればよいとするのではなく、常に学習者の理解や関心を念頭において考えることが求められ、ステップ・バイ・ステップで学んでいく過程を重視されます。

学んだこと

あらためてIDの土台は何かを振り返ってみると「学習者の視点に立って考える」ということに尽きると思います。デザインでもユーザー視点であるべき製品やサービスを考える考えがあり、共通しています。

そしてもう1つは、科学的にちゃんと目的と手段を結びつける設計にするということです。目標(ゴール)から逆算して方法を考える視点や、測定して評価や改善できる仕組みにすることは、これまで学習者の立場では気づかなかった視点です。この組み立て方ができるかどうかが、プロかそうでないかの違いになるのだと思います。

1回目は基本的な考えの紹介までなので、これから専門性を深めていって、授業の終わりには教え方の素人ではない状態になっていることを、自分なりの学習目標として学んでいきます。

今日はここまでです。


デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。