学習の到達方法を設計する(インストラクショナル・デザイン)
大学院で学ぶ「学習のデザイン」、今回はインストラクショナル・デザイン(ID)の学習到達方法についてです。
学習者にとって勉強の大半はつまらなさそうに見えますが、大人になって学校の教科書を読み返すとかなり面白いものです。このギャップを理解したうえで、興味を持って挫けずに取り組んでもらうための設計モデルをいくつか紹介します。
ARCSモデル
アメリカの教育工学者ジョン・M・ケラーによる、1980年代に提唱された、学習者のやる気を高めるためのモデルです。
IDでは「学習者が学べなかったのはすべて教える側の責任」という厳しい考えを持つので、やる気を高めるための授業設計は不可欠です。大きく4つのステップがあります。
A. Attention:注意(おもしろそう)
R. Relevance:関連性(やりがいがありそう)
C. Confidence:自信(やればできそう)
S. Satisfaction:満足(やってよかった)
AやRは、障壁を崩すアプローチです。マーケティングに関わっている人だと、AIDMA(注意→関心→欲求→記憶→行動)などとの共通点を感じるかもしれません。
CとSは、フィードバックに関することです。勉強というとインプットを注目しがちですが、止めずにアウトプットをして、そこから次のインプットを繰り返す循環につながることが、学習意欲の向上につながります。
IDEOのトム・ケリーとデビット・ケリーも、自分は創造性がないと決めつけず、恥ずかしがらずに表現する自信を持つことが、デザイン思考のフレームワークよりも大切なことと主張しています。これはデザインだけでなくすべての学習に当てはまると思います。
4つの項目にはそれぞれ具体的な指標やヒントなどがありますが、個人的には特にConfidenceがやる気を高める強い要素だと思います。
ADDIEモデル
9教授事象や成果5分類でも登場したロバート・M・ガニェによる、学習状況のどの段階で改善をするかを見直すためのモデルです。
A. Analysis:分析
D. Design:設計
D. Development:開発
I. Implement:実践
E. Evaluate:評価
仕事で何らかの開発に関わっている人であれば馴染みのある概念だと思います。PDCA、UXであればBuild→Measure→Learnのサイクル、ユーザビリティであればISO13407のプロセスが近いです。
PDCAとちょっと違うのは、1方向の循環サイクルではなく、Evaluationが起点となって他4つの活動の見直しを図る矢印がつながっている点です。やり方か、分析か、どこがボトルネックかを見極められないと、効果の低い改善策をとりかねないので、大切な視点です。
TOTEモデル
TOTEとはTest→Operation→Test→Exitの頭文字で、ゴールのためにテストの門を設定して、テストを通過できたらゴールできた、通過できなかったらそのための対策を取る、という分岐の整理です。
はじめにTestがあるので、最初にテストを受けて通過できたら、そもそもこの授業は受けなくてもよいよ、というムダを省くことができる効率的な手法です。主に知識や技能の領域で活用されますが、TOTEモデルの判断だけだと機械的になってしまうことは注意点です。
学んだこと
勉強は義務だからとラベルを貼ると最低限のことしかやりませんが、学習することは一生モノであって強制ではない営みです。なので学習者の主体的な意欲に着目することが大切です
ビジネスの世界では、ユーザーが興味を持ってくれなかったり途中で離脱してしまったりすると、事業に直接的な影響が出るので対策が求められます。
今回紹介したモデルも基本的には同じ考え方だと思います。ただし、ビジネスでの年間売上のような指標とは違って、学習はより長期的な効果や目標を見るべきです。これを同様に扱うと、受験のための勉強になり、その場では高い点数をとってもすぐに忘れてしまう結果を招きかねません。ここは分けて考えるべきだと思います。
今回はここまでです。
デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。