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風船ガム ぱちんって 弾けたら 出かけよう

《地下アイドルの記録①-オーディション-》

大学入学とほぼ同時に、私はライブアイドル、ううんもっと言うと、"地下アイドル"になった。少し前にはAKBやでんぱ組など地下のライブハウスからブレイクするアイドルが出てきたこともあり、大小いろいろの事務所や、SNSから発信で広まるアイドルが激増した《アイドル戦国時代》とも呼ばれる時代。
十八才は、その中に飛びこんだ。
前回の記事まででつらつらと書いた、ずっと抱えていた"自己肯定感の低さ"は、いろんなふうに形を変えて、次は私をこんな賑やかな世界まで運んだのである。


私はネットで見つけた事務所に応募した。数日後に返信があり、緊張しながらも原宿に面接に行った。
まず当時のマネージャーと話したのだけれど、大体の活動内容や交通費が出ないことなどを説明してもらったくらいで、思っていたよりもかっちりした面接じゃなくてリラックスできた。
このまま合格になりますように…!と心の中で祈っていたら、突然、社長とおぼしき人が事務所に入ってきた。
その姿を一目見て本当に驚いた。
肌が真っ黒に焼けて、歯は綺麗に真っ白。派手な柄シャツを羽織り、こちらを一瞥する視線はするどい。もう、"ドンだ…!!"という感じだった。

「この子?」と彼が近寄ると、マネージャーがあわただしく席を外して交代。私は社長と向かい合うことになった。そのいかつさにかなり緊張しながらも、私は笑顔を浮かべたまま、彼に聞かれたことに答えた。

「どういうふうになりたいの?」
「ソロアーティストになりたいです。」

「いつからレッスン来られる?」
「もう、明日からでも。」

それから少しやりとりをして、社長は慣れたように私に言った。
「ソロアーティストになるならまずグループで実力をつけるといいよ。うちは現場主義だからライブいっぱいできるし、グループで活動していた子で今はバリバリソロやってる子もいるよ」
そして、今あるグループに入れるんじゃなく、これから新しくつくる予定のグループがあるから、そこに入るのがいいな、とひとりごとのように付け足した。

話を聞いていると、合格!とか言われたわけじゃないけれど、なんとかクリアしたみたいだった。社長の言葉で次々にこれからのことが決まっていって、ライブもすぐに出れると言うし、聞きながらどれだけ胸がときめいたか。書いてる今、ああ恵まれてたんだな、とうれしくてせつない気持ちになる。とにかく、私は夢中で「ハイ!」と返事していた。


"今後のことはLINEで連絡する"と社長とLINEを交換して、その日は終わりだった。
帰りがけに、ようやく周りを見回す余裕ができて、私は事務所がけっこうカラフルなデザインだということにはじめて気づいた。大きな棚にはこれまでのアイドルグループのCDがぎっしりと収納されていて、壁に貼られたポスターの中で笑顔を浮かべる女の子たちは、巻き髪やショートカット、ポニーテールなど、若さがはじけてかわいかった。私その仲間入りするんだーーと、心が弾んだ。
社長は第一印象はこわすぎたけど、「いい目だね。笑顔も」と言って、"見といて"と所属しているアイドルグループのフライヤーを何枚もくれた。
もらったフライヤーを大事に鞄にしまって、はずむみたく事務所を出た。

古着屋マクドナルドクレープ屋古い駅舎に向かって。
人混みでせまい竹下通りが、その時の私にとっての目抜き通りだった。
頑張ろう、頑張ろう、と本当に思った。


高校からひっそり続けていた鍵付きのcroozブログを見返すと、《二〇一五年六月四日》付けで、当時の心情が短く更新されていた。


直視するの、けっこう心が苦しくなるけれど、ちゃんと書きたいならこういう感覚にはかたなくちゃねということで、ここに残しておきます。ワァア

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