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初めてのサーフィン(本編)

とにかく色々あってサーフポイントに着いて(前編御参照)、疲労困憊でとりあえず横になって、起きたらすでに陽が高くなっていた。

よしやるか!と思い、更衣室を探そうと周りを見渡すと、周りのサーファーは自分のクルマの周りで着替えている。

え、公衆の面前で着替えるの?

クルマを停めた駐車場には更衣室やシャワー等の施設があり、確かに使っているヒトもいるのだが、圧倒的多数はそれらの施設は使わず、自分のクルマの周りで着替えている。正確に言うと、着替えと言っても、僕が一寝入りして目覚めたその時点では、大半のヒトは海から上がって濡れ物を脱いでいる最中なのだが、シャワー設備も使っていない。まるで申し合わせたかのように各自持参したポリタンクの水を浴びている。シャワーを借りてもたった百円やそこらなのに。でも、これがサーファーの常識なのだろうと思い、僕もクルマの横で着替え始めたが、これが案外難しい。あまり見せてはいけない部分はあるわけで、バスタオルを腰に巻いて周りに気を遣いつつ、初めて着るウェットスーツを着用するのは、実は至難の技である。ウェットスーツは、身体とスーツの間にわずかに入り込んだ海水を体温で温めるように出来ているので、容易に海水が出入りしないように身体にぴったり縫製されているから、脱着がとても大変なのだ。しかも最初にうまくウェットスーツに足を通せたと思ったら前後ろ反対で、もう一度足を通し直したり…なんと言っても、このような場所で服を脱ぐ事や、着用を間違えた素人丸出しの恥ずかしさで顔が紅潮するのも手伝って、着替えているうちに汗だくになってしまった。

着替え終わり、とりあえずサーフボードにワックスを塗る。How To本は読んでたので、ワックスは素足で板の上に立つ時の滑り止めだからスキーのワックスとは目的も塗る面も逆な事はすでに知っていたけれど、これがなかなかうまく塗れない。サーフボードに付着するワックスが均一ではないのだ。隣のいかにも上手そうなヒトのサーフボードには小豆大の丸い型になったワックスが均一に綺麗に塗ってある。一方僕はと言えば、塗れた個所はベタっと着いているが全くワックスが付かない場所もあったりして、明らかにマダラで見た目が悪く、素人が塗った感満載である。ワックスの着き方ですでに勝ち負けが決まったような気分になる。

気を取り直して浜に出てみた。波は丁度良いくらいにあった、ように見えたが、今思い返せばフラットコンディションだった。いや、初日に波が無くて正解だったのだ。波が無くても相当思い知らされたので、この日、もしも波があったらサーフィンは続けてなかったかもしれない。

波が無い穏やかな浜で、とりあえず映画ハートブルーの冒頭の映像のように、波打ち際から沖に向かってサーフボードに腹這いになり颯爽とパドリングするつもりで腹這いになったが、すぐにラッコのように一回転してしまう。

パ、パドリングさえ出来ない!

そう、僕のサーフィン初日はほんとに"何も出来ない"1日だった。

とにかくHowTo本に書かれていたとおり、身体を反って、おへそのあたりだけでサーフボードに寝そべる。安定させるために足は広げる。ちょうど歴史の教科書に出てきた解体新書、ターヘルアナトミアそのものの体勢である。

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新装版 解体新書 (講談社学術文庫) https://www.amazon.co.jp/dp/4061593412/ref=cm_sw_r_cp_api_i_ClmuEbK3HBAB1

とりあえずこの体勢だとなんとかパドリングらしきものが出来たが、ウミガメソックリだ。とりあえずこのターヘルアナトミアを30分ばかりやっていると背筋が引きつってきて終了になった。。

着替える時は周りのヒトのようにクルマの脇で着替えたが、海水を落としたり濡れ物を着替えたりするのを公衆の面前でやるのはどうしても抵抗があり、シャワーは駐車場の有料温水シャワーを借りた。暖かいシャワーはとても快適ではあったが、とんでもないスポーツに先行投資してしまったなという絶望感がとても大きかった。

続けていく自信は全然なかったけど、先に道具を一式揃えてしまったのでそう簡単にやめるわけにも行かないというのが、それから半年くらいの海に通うモティベーションになった。ウミガメパドリングをした後に海から上がって、浜から上手いサーファーを羨望の眼差しで見つめるというのがその当時のお決まりのパターンだった。

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