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祝祭のベクトル

(文2000字 写真40枚)



 北九州の夏祭り「黒崎祇園山笠」が7月21日から4日間の日程で始まった。この祭りの起源は、1205年(元久2年、鎌倉時代初期)花尾城を拠点として遠賀郡一帯を支配していた麻生氏が、麓の地で領内の除疫と豊穣を祈願して始めた「祇園会」。その後、およそ400年前から本格的な祭りとして行われているとのことで、福岡県無形民俗文化財に指定されている。

総重量2,5トンを超える8基の巨大な山笠は、それぞれ8つの町内会で1カ月間かけ、地元住民によってコツコツと製作されたもの。絢爛豪華な飾り付けと眩いばかりの電飾には思わず感嘆のため息が出る。
内部の子供による囃子は和太鼓(大太鼓、小太鼓)、鉦、そして法螺貝で構成され、勇猛な音色が、夕闇のビルの谷間に美しく響き渡る。関ケ原の戦いで黒田藩の使った陣太鼓の調子が取り入れられているとのこと。

山笠の周囲には、常に数十人の神社の氏子が担ぎ手となって取り囲む。若い人ばかりでなく、年配者の姿も時折見える。
大きな山笠の動きはまるで神が乗り移ったかのように、自由自在に疾走し、蛇行し、回転する。その様子は、衝突はしないものの「喧嘩山笠」とも呼ばれる勇壮華麗な動きで、実際に目の前で見ると迫力満点。道幅いっぱいを使っての動きは完璧にコントロールされ、ガードレールぎりぎりを掠めるように旋回していく。
交差点内に入ると、突然そのスペースを利用して山笠の回転が始まる。この時、4つある木製の車輪の一つに全重量をかけ、それを軸にして回転させる。しかも回転の途中から一段ギアをアップさせるように、勇ましい掛け声をきっかけにその回転がさらに速くなるのだ。去った後のアスファルトを見ると、数センチの深さに抉れているほど凄まじいパワーだと分かる。




動かすだけでも大変そうに見えるのに、何故山笠を回転させるのか、ネットで調べてもその理由は分からなかった。
しかしこの回転する様子を見て、とても興味深いと思う。何故ならエネルギーの流れは、直線的ではなく、回転するエネルギーが「らせん状」に進むとき、より強さが増すからだ。

ヒーリングメソッドの一つであるレイキヒーリングでは、エネルギーを頭頂部から身体へ伝達する時に、らせん状に身体を貫いて入っていくことを感じることがある。

人間の身体はまた、上半身と下半身それぞれ別々の方向にエネルギーが回転しながら流れている。
男性は頭から足先を見た時に、上半身は時計回り、下半身は半時計回りに回転している。女性はその反対に、上半身が反時計回り、下半身が時計回りに流れている。左右に体をねじる動きをした時に、偏りが生じるのはそのためだ。
男性の場合は上下の接点(丹田あたり)からエネルギーが上下に向かって流れていくのに対して、女性の場合は逆にその接点に向かって流れ込んでくるような形となる。男性と女性のエネルギー特性の違いがここにもよく現れている。

山笠の回転を見ていると、どの山も時計回り。これは結果として、数十人の担ぎ手たちのエネルギーが山笠を通して、地上から天に向けて立ち昇っていく流れを生むということになる。
ピラミッド構造もまた大地から集めたエネルギーを頂上から天空に向かって放出するのに適した形態であり、ピラミッド建築物の内部に入ると、特に斜めの角附近で上昇する気の流れを感じることができる。エジプトのピラミッドはそれ故に単なる墓ではなく、巨大なエネルギーの増幅装置ではないかと思う。現代建築以上の精度を伴い建造されたのは、それだけの精密さを必要としたからだ。



そう考えると、山笠もまたそれを操る数十人の氏子のエネルギーと、囃子の子どもたち、そして周囲を取り囲む人たちすべての想いを結集させる増幅装置として機能しているものではないかと思えてくる。

すなわちこの祇園山笠は、人間の祈りのエネルギーを垂直方向、すなわち天に向かって昇華させる儀式ではないかと。

私たちは日常生活において、意識のベクトルは大抵水平方向に向けられている。家の中のことから始まり、人間関係や仕事や世の中の情勢など、ありとあらゆる意識の対象は地平に沿って、水平方向に広がっていく。
しかし祭りの最中は、それら水平線上にあるものはことごとく意識から消滅する。どんなに問題や悩みを抱えていたとしても、それらは祭りの間は忘れてしまうだろう。個人的なありとあらゆる表面的なことはその瞬間消えてなくなり、名前のないただの素の人間となる。

「祭り」という特殊な時空間の中で、人は何者でもない、ただ一つの祈りの存在と化す。その時、人はそれぞれ自分の内にある最も大切な祈りを天に向けて差し出すことになる。

日常の中においても、こうした垂直方向のベクトルを意識することができたなら、その時、人は祈りと共にあり、人生そのものが祝祭となるのではないか。
そうなったらいじめも虐待も、戦争も消えてなくなると思う。





北九州市 黒崎祇園山笠2023(7月21~24日)

















































































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