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『サクセッション(メディア王)』最終回。駒の演技と、プレイヤーの演技。

米ドラマ『サクセッション(メディア王〜華麗なる一族〜)』シーズン4最終回!見終えました!
ボクはU-NEXT入ってなかったんでかなり遅れて見始めたんですが、見始めたらあまりに面白くて、俳優たちの演技が素晴らしすぎて、一気に最後まで見ちゃいましたよ。いや~至福の時間だったなあ。

この最終回の感想を「収まるところに収まった」って書いてる人が多いけど、まさにその通り。 それぞれ考え方がまったく違う人物100人くらいがせーの!で、わ~っ!とそれぞれの人物らしく感じて・考えて・動きまくって、その結果こう収まりました!って感じのラストw。

ようするにシーズン4は、シーズン1~3で俳優たちが5年間かけて各々育ててきたキャラクター全員が「暴君ローガンの死」をきっかけに解き放たれて、自由に暴走しまくる様が延々と描かれていているんですね。
これって俳優冥利に尽きる最高の展開じゃないですか!めっちゃエキサイティングでした。

超リアルな人物表現!

そもそも『サクセッション』って正直言ってハッキリしたストーリー展開が無いと思うんですよねw。
それは製作者側が意図的なストーリー展開で面白がらせようとすることよりも、人間模様の微妙な変化がバタフライ効果的にどんどん世界を変えてゆくことを楽しんでいるというか、その人間模様の変化自体がストーリーになっていて。しかも人物の心理描写にウソが無いんですよ。

ジェシー・アームストロングたち脚本家チームによって書かれた『サクセッション』の脚本が凄いのは、すべてのキャラクターがなんらかの意味において傑出した才能を持っていて、そのせいで「超できること/全然できないこと」があり「認識できること/認識できないこと」がある、という人物造形。
これまさに最新の人物造形で『ベター・コール・ソウル』等もそうだったんですが、そんな彼らキャラクター達がお互いにぶつかり合って、軽蔑しあったり、怖れあったり、けん制し合って行動すること自体がドラマになっている。これってかなり我々が生きている現実世界に近いじゃないですか。

そして人物の能力描写が超リアルなんです。
ケンダル・ローマン・シヴの3人はそれぞれ父ローガンの素晴らしい才能の一部を受け継いでいる・・・が父ローガンのような哲学が無いので、今あるものを改良することはできても新しいものを思いつくことができない。

人たらしの才能があるフランクは番頭さん、論理的思考に優れたジェリーが目付け役、人の顔色を観察して一番の安全策に流れる才能があるヒューゴが広報担当重役・・・納得の人事w。
そしてトムには「一番の巨根に吸い付く(シヴ談)」才能がw、グレッグだって心が無いから誰でも裏切れるし誰にでも甘えられるという才能を持つ・・・こういう書き方をするとアレだけどw、彼ら全員が手駒として「飛車」「角」「桂馬」みたいな機能があっていろんな状況でいろんな働きをするように利用される。

そう、将棋にあらすじってないじゃないですか。戦況がどんどん変化してゆくだけ。捕らえた駒はすぐ敵の戦力として自分に襲いかかってくる・・・そんな感じで『サクセッション』の物語は進行してゆくんですよね。

で、唯一のプレイヤーであったローガン亡き後、どの駒がプレイヤーに昇格するのか???を駒たちが争いまくるのですが、最終的な結論は「駒はプレイヤーにはなれない」だったわけですよね(笑)。
で海外のプレイヤーであるマットソンが総取りしてゆく。いや~収まることろに収まってますw。

ケンダルの「絶望」の演技は絶品。

この手のドラマって普通は、どこかのタイミングで「ただの駒であったケンダルが何らかの理由によってプレイヤーに成長する」という展開があるものなので、『サクセッション』にもそれ的な展開があるんだろうなーとボクは思って見ていたんです。

だってシリーズ1第2話でのケンダルは「オレが長男だし、ローガンはオレが後継者だと言っていた。だから俺が後継者だ。異論は許さない!」と最低な態度で・・・これは無理だとw。だってプレイヤーの器じゃないもの。そしてシーズン1の最後で完全にぶっ潰されるわけですが(笑)。

そこでのジェレミー・ストロング演じるケンダルの「絶望」の演技が超名演だったんですよね。いやほんと素晴らしかった。よしココから巻き直しなんだな!ケンダルの成長がココから始まるんだ!と思ってたんですが、何度か逆襲しようとするんですが毎回同じ感じでペシャンコにされる・・・まったく成長しないんですよw。

シヴやローマンや他のキャラクターたちはどんどん成長するし、キャラクター性もどんどん膨らんでるんです。が、ケンダルだけが一向に成長しないし、膨らまないw。
いや脚本上ではむしろケンダルの成長を促すような出来事がバンバン用意されているのに、結局ケンダルは成長せずに何度も同じ失敗を繰り返すんですよ。

いやこれね、シーズン1の第2話を見たときにボクはこうなるんじゃないかなーと予感していたんですよ。いや、むしろそうならなければウソだと。
それは『サクセッション』キャストの中で、ケンダル役のジェレミー・ストロングだけが「内向的な演技法」でケンダルを演じていたからです。

自分に内向するケンダルの演技法。

『サクセッション』を最初見たときに驚いたのは、キャストのほぼ全員が「キャラクターを、他者との関係性の中で表現する演技法」で演じているということでした。

例えばトムとか、相手によって態度がコロコロ変わって、いい奴になったりやな奴になったり、そのコロコロ変わるところが魅力的に演じられていますよね。そこが最高なんですがw。
ローガンも相手によって状況によって暴君になったり優しい男になったり、ローマンやシヴも父と一緒の時とそうでない時で態度が全然変わって・・・それらコロコロ変わるいろんな側面をひっくるめてその人物だ!という風に演じられているんです。
登場人物がみな環境の変化に敏感で、人物像が「アウトプット」されるのではなく「インプット」に対する反応として演じられている・・・それはそれは見事だ!と舌を巻きました。

ところがケンダルです!

彼の初登場シーンを覚えてますか? 出勤中の高級車の中でヒップホップにノリノリ!というシーンだったんですけど・・・まずビースティー・ボーイズの曲にノれてない(笑)ヒップホップのリズムに全然ノれてなくてただドタバタしてる・・・リズムを「インプットできないキャラ」として登場してるんですよ。
インプットできない人は、当たり前ですが成長できないですからね。これは大変なダメ息子が会社のトップを継ごうとしてるんだなー、これは波乱が起こるなと思いましたw。

ケンダルはトップに立とうとしているのに、他人のことをよく見ていない。いつも内向的にボーッとしている。
そしてケンダルのセリフは相手に届かない。彼は自分の心情を表現しようとしているので、言葉を発しているだけで相手の心に影響を与えようとしてない・・・これがケンダルという人物表現の基本構造になるんですが、そもそもジェレミー・ストロング自身がそういう芝居をしがちな俳優さんなんですよね。
だから最高のキャスティングだったわけです。シーズン2のラス前までは。

駒の演技、プレイヤーの演技。

シーズン3以降、ケンダルが反撃する段になって、彼自身がカリスマに成長していかなければならない時も、ジェレミー・ストロングの演技法は変わらないので、画面上のケンダルは他人のことをよく見ていないし、言葉は相変わらず相手に届いていません。

なのにストーリー上では、野に放たれたケンダルは革新的なアイディアを次々と考えて行動している!みたいな描写があって、あれ?あれ?と。だって世界を観察できない人がどうやって世界を驚かせるようなアイディアを思いつけるのだ?と・・・演技と設定が乖離しはじめるんですよ。

「観察」・・・これね、ローガンの演技は違っていたんですよ。
ローガンはいつも凄く鋭い目で相手のことをじっと観察していました。自分の気持ちを相手に伝えようとするのではなく、むしろ相手を惑わすことによって相手の本音や本質を見極めようとしていました。
すべての人間を正しく見極めて、適材適所で利用しようとする・・・これがプレイヤーの居方なんですね。

このスタンスはスケール感こそ違いますがマットソンもそうでした。
マットソンも自分の気持ちを伝えようとせずに、むしろ積極的に惑わそうとする。そして相手の本質を分析して、どう利用すべきかをじっくり考える。だからこそマットソンがローガン亡き後の唯一のプレイヤーであり、ウェイスター・ロイコ社の継承者になったんです。

この「プレイヤー=駒を使う者」としての適性が無いので、ケンダルはどんなに頑張っても駒に過ぎないんです。これを身につけるには「アウトプット」の演技法ではなく、「インプットし反応する」という演技法を習得せねば。

結果ケンダルはシーズン4最終回に於いて、シーズン1第2話の病院のシーンでの「オレが長男だし、ローガンはオレが後継者だと言っていた。だから俺が後継者だ。異論は許さない!」とほぼ同じ態度をシヴとローマンに示してしまい、すべてを失います。
ラスト、海を見つめるケンダルの芝居・・・これまた名演でしたね。

成長してない!!!(笑)

『サクセッション』シーズン5は?

といったわけで、『サクセッション』シーズン4はすべてが収まるところに収まり、ローガンの地位は「ローガン・ロイ・マーク2」を自称する唯一のプレイヤー、マットソンが継承します。

いや~、ダメでしょ!これで終わっちゃ!
シーズン5を作るべきですよ。


このあとマットソンがウェイスター・ロイコ社をどんな地獄に叩き落すのか、トムやグレッグやフランクやジェリーがどんな業火に焼かれるのか、見たいじゃないですか!
そして母となったシヴにどんな変化が訪れるのか?
ローマンにどんな成長が訪れるのか?訪れないのか?
そしてケンダル、彼には生きる道が無いのか?彼が彼のまま幸せになる方法はないのか?

できれば3兄弟が勝利するのを見たいし、それがどんな形なら可能なのかを知りたいし、欲を言えばコナーも含めての4兄弟の勝利が見たい!

そんな気分でいっぱいになりながら『サクセッション』シーズン4最終話を見終わりました。うおー!続きが見たい。
まだ未見の方には超おススメしますよ。そして一緒に『サクセッション』について語り合いましょう。

小林でび <でびノート☆彡>


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