【小説】SAVERS特別作戦任務 ラストバタリオン 第11話 助く者、進む者


 ――――助けてくれなかったくせに助けてやれなかったのを、今でも後悔している
 思いが交差する。
 復讐の鬼を鎮めるのは、鉄の拳と肉の拳の打ち合いだった。
  何度も拳を交わした末、その瞳に光る粒を認めた時。

「お前という存在が居なければ、私はお前を望まずに居られたのに!」

 叫びが谺する。
 吸う空気は、今や重く肺を燻り、息の逃げ道を潰していく。

 これが、最後になるかもしれない。
 諦めに似た感情が、零れる。
 目の前には、復讐鬼の拳が今振るわれようとしていた――――。

 刹那、胸元の弾丸が暴発する。
 その音に怯んだ佐塔が、後ろに引いた瞬間。
 
 たった一発の拳が、奴の胸元に命中したのが見えた。

 と同時に、視界がこと切れていった――――。


 「そこまで食い下がるか、人間ッ―――!」

 宙を舞いながら、二つの影は落ちていく。
 大破した壁に乗り、それを蹴っては黒衣の魔人に斬りかかり。
 魔人はそれを腕でいなし、手刀を振り下ろすがそれは交わされ、蹴りが魔人の胸に飛び込む。
 その衝撃によってもたらされた距離に、斬撃がグリードの胴に一文字が刻まれていく。
 痛みに声が漏れながらも、グリードは思考する。

 ――人間にしては、異常な戦闘能力を前に。
 否、人間性すら捨てた、執念の攻撃に。

「無茶をするな――倉次郎! このまま落ちれば俺は助かるが、お前は無事では済まないぞ!」

 狂気めいた瞳で、尚刃を向けて源大尉――源倉次郎は吠える。

「ありがたいな。鬼に慈悲をかけられるとは」

 燃え盛る町を背にして、旧日本軍の軍服の男は外套を翻しながら落ちていく。

「馬鹿――――」

 グリードが手を伸ばそうとした刹那。
 源は電柱に下がる電線に手を伸ばし、軽やかに電柱へと上って行った。
 
 まるで、忍者―――隠密そのものだな。
 そんな思いを胸に笑い、同様に源の向かいの電柱に立ち、睨む。
 睨んだ先の、刀を握る源のその手は電流に焼けていた。

「お前が目的の障壁となるならば、やはり優先的に特攻すべきだったのだ」
「目的……?」
「――天護の師団、部下だった者達の無念を、晴らしてやることだ。彼らの無念が、この体を突き動かしてならんのだ」

 緑の魔眼を輝かせ、グリードが解析するとその体には――無数の怨念が、彼の体を構成していた。
 それらが、彼の体を覆いつくし―――痩せこけた体、本来であれば死んでいてもおかしくないような重症らを隠しているのも彼の目には見えた。

「勝てぬ戦に駆り出されては戦勝を謳わされ、散れたこと。散れなかったことのなんたる恥か。いざこの時代に呼ばれてみれば、この国のなんたる様か」
「――日本人。お前達はよく頑張ったじゃあないか。自分の国を守りたかっただろう? お前たちが居たから、今もこうして、日の本の言葉を話せているし、統一されたままの土地があるんだろう」
「国の生き恥を晒してか!? この様でか! 弱者への甘さを情けとはき違えた大人、金に狂った外の国の連中がのさばり土地を荒らし、女子供を肉と骨の髄まで騙し利用する。学も無く、力も無いままで生きる方法すら示し教えてやれず子供達はただ、与えられた機械からの徒に与えられた情報ばかりにかまけている。恩義の返し方も知らずに! 拙者は奴によって召喚されてから、人間を観察してきたがこの無様はなんてことだ! 憎い。全てが憎い!」

 涙を流しながら、震える姿。
 血の付いた刀を、業火を背景として振る姿。
 その主の叫びは、目の前の魔人のみが今や知るのみ――――。

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