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【デザインシンキング・コンサル⑦】デザインシンキングのプロジェクトが「楽しい」とすれば

こんにちは。DONGURIでデザインシンキング・コンサルをやっています、矢口泰介(@yatomiccafe)です。

前回書いたように、GoogleジャパンのUXリサーチャー・Dara Gruberさんが発表したデザインリサーチの重要ポイントには、「楽しくする」ということがあげられていました。

今回は「なぜデザインシンキングには楽しさが求められるのか?」について、もう少しだけ、しつこく考察を進めてみます。

デザインシンキングは、本当に「楽しい」のか?

デザインシンキングというと、壁一面に貼られたカラフルなポストイットや、笑顔あふれるブレスト、手近なものを使ってすぐにプロトタイプが作り出される・・・といったイメージを想起される方も多いと思います(今回のカバー画像はそうしたイメージから選んでみました)。

しかし、実情として、本当にデザインシンキングは「楽しい」のでしょうか?

私の見解をいきなり言うならば、デザインシンキングを用いたプロジェクトは、楽しいです。

ただ、それは、「従来の会議と違い、クリエティビティを発揮できるから楽しい」という比較文脈での意味ではなく、「プロジェクトを通じてみんな笑顔になる」という結果論でもなく、

「楽しさ」がないと、デザインシンキングを用いたプロジェクトは成り立たない、つまり、デザインシンキングにおいて「楽しさ」は必要条件である、という意味合いからです。

デザインシンキングに「楽しさ」が必要な理由

これまで何回か述べている通り、デザインシンキングが機能する局面は、「不確実性」の高い状況において、何かしらの結論を出し、プロジェクトを進めていかなければいけない場合においてです。

・不確実性が高い(やってみないとわからない)
・プロジェクトの目的や求められる成果も定まっていない
・複数の人数が関わり、かつ立場や意見がバラバラである
・その中で何かの意思決定ないし合意形成が求められる

といったところでしょうか。

そういう状況は、新規事業開発や、あるいは組織開発など、あらゆるところで見られます。今まさに、直面されている方も多いのではないでしょうか。

そういう状況であるほど、「定性情報をもとにして、とりあえず結論を出し、次の検討ステップに進む」という性格を持つデザインシンキングは、機能します。

そのとき、プロジェクトを前進させるために、「楽しさ」が必要とされます。

「楽しさ」に求められる効果と役割

デザインシンキングにおいて必要とされる「楽しさ」は、「和気あいあいとした楽しい雰囲気」という曖昧なものではなく、場の「仕組み」として設計されるものです。

「楽しさ」は、私の感覚と経験では、以下を得るために必要とされます。

1. 参加者の「当事者化」を進める
その場にいるメンバーが、検討・決定のプロセスに主体的に参加することで、「当事者化」が進み、プロジェクトに合意形成が図られる。
2. 場の心理安全性を高める
その場の参加者が、検討・決定プロセスに参加する(参加するハードルが低い or 思わず参加してしまう)仕組みがあることによって、発言や意見表明、アイディア出しに対する心理安全性が高まる。
3. 意思決定のスピードを速くする
上記1〜2の結果(効果)として、以下が表れる。
・意思決定を妨げるヒエラルキーの構造がその場においては無効化される
・結果の確かさよりも、次に進むことが重要、というコンセンサスが取れる
・その結果、意思決定が速くなる。

上記は、ロジックで働きかけるのが非常に難しく、どちらかというと感情的なアプローチが必要とされるものですが、
その意味で、乱暴に言ってしまうならば、「楽しさ」は、不確実性の高い状況のなかでプロジェクトを前進させるために欠かせない手段/条件である、と言えます。

デザインゲームが有効な理由

前項の効果を満たすのに、仕組みと構造を持ったデザインゲームは非常に有効です。
いまビジネスの場においてボードゲームをプレイすることが注目されていますが、おそらく、意識的にか無意識的にか、「楽しさ」の仕組みを導入することが意図されているのだろうと思います。

また、2011年に発刊された「ゲームストーミング」は、ビジネスにおける検討・決定プロセスにゲームを導入することによって、意図的に「楽しさ」の状態を生み出すことを推奨しています。

「楽しさ」はプロジェクトの「質」を担保するのか?

ただ、私の実感として区別しておきたいポイントですが、楽しくする = プロジェクトの結果の質が高くなる、というわけではない、ということを述べておきたいと思います。

例えば、アイディエーションにおいて、いかに柔軟なアイディアが出るか、いかに制約条件を無視したアイディアを発散できるか、などは、「楽しさ」を設計することで、実現できます。

ただ、プロジェクト全体を通じた「質」のコントロールには、「楽しさ」の設計とはまたちょっと違った視点で、目の前の場と、プロジェクト全体との接合性が求められます。

例えば、新規事業開発においては、最終的に検討に足るアイディアが求められますし、例えば、組織開発のプロジェクトにおいては、メンバーの当事者化が求められたりします。

つまり、プロジェクトの「質」を担保するためには、そのプロジェクトの目的、当座求められているゴールを見ながら、その方向性に向けて、プロジェクト全体を舵取りしながら、その質をある程度キープする視点も必要なのだろうと思います。

前回述べたデザインリサーチャーの役割がおそらくそれですが、その役割を担うのは極論としては誰でもよく、プロジェクトによっては、PMがその役割を担うでしょう。少人数のプロジェクトにおいては、もしかすると明確な役割は個人にはなく、全員でコミットしていく場合もあるかもしれません。

「楽しさ」は、デザインシンキングにおいて必要条件でありながら、十分条件ではないのだと思います。

「楽しさ」は不確実性を切り拓く推進力

とはいえ、デザインシンキングを用いたプロジェクトにおいて、「楽しさ」は、推進力として必要です。

そもそも「不確実性に取り組む」というプロジェクトの難しさゆえ、デザインシンキングのプロジェクトは、その場に楽しさがなければメンバーのコミットが発生せず、プロジェクトが前進しない、という性格を持っています

なので、プロジェクトを進行する立場からすると、一回一回の場が勝負の連続です。その緊張感は「楽しさ」とはちょっと遠い気がしますが(笑)、自分の設計によって、その場に「楽しさ」が生まれたときは手応えを感じます。

「楽しさ」の設計や仕組みの発想の目的と構造は、まさにゲームデザインに似ていると思われるなど、「場」に取り組むための発想のヒントはいたるところに転がっています。

デザインシンキング的プロジェクトにおいては、毎日が工夫と勉強の連続です。それ自体がすでにデザインシンキング的と言えるかもしれませんが、その辺の体感については、また書いてみたいと思います(笑)。

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