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「人工知能を使ってどう生きるのかを考えよ」落合陽一先生監修メディアアート展示会『みちっとむちっと展』レポート&学生インタビュー

“人工知能”が急速に進化する現代社会で私たちはどう生きるのか――。2023年度の夏期集中講義「メディアアート」は、落合陽一特任教授によるそんな問いかけから始まりました。

講義1週間、制作1週間、展示1週間というスピード感で行われる「メディアアート」。今年度、落合先生から学生たちに与えられたテーマは“人工知能”でした。

「展示会のタイトルである『みちっとむちっと展』は「未知」と「無知」を書け合わせた造語です。メディアアートはこれまで、人間のプロデューサー、人間の作り手を必要とする、とても時間のかかる領域でした。しかし、ChatGPTをはじめとしたAI(人工知能)の登場により、時間・労力ともに削減されました。AIを使ってどう生きるのか。それが私たちに課せられたテーマでした」

そう話すのは、今年度の受講者の一人、伊藤 詩奈さん(2年)。note取材班は、集中講義の総まとめである「成果発表会」に潜入取材。各作品の紹介とともに、落合先生からどんなことを学んだのか、受講生へのインタビューをお届けします。

会場内を案内いただいたのは伊藤さんと、新保 友康さん(2年)です。

左:神保さん 右:伊藤さん

作品紹介

会場となったのは、デジタルハリウッド大学駿河台ホール。広い会場には、学生たちによる10の作品が展示されていました。

01. Scan Your Story(作者:やはぎ / Yahagi)

作者・やはぎ / Yahakgi さんの好きな本のジャンル「ライトノベル」に興味を持ってくれるひとを増やしたい――そんなコンセプトで構想されたのが、Scan Your Story。自宅からそのまま取り出したかのような雰囲気のある本棚には、端から端までびっしりとライトノベルの単行本が並んでいます。

バーコードをスキャンすると、本棚に備え付けられたディスプレイに書籍の情報が流れます。「お気に入りの一冊や思い出の一冊を本棚から探してほしい」と、やはぎさんは話しました。

02. わしのきいろ(作者:Sheena)

幼いころから、黄色にあこがれと執着があったという作者のSheena(伊藤)さん。作品のキャプションにはこう綴られていました。

黄色になりたいと思う。身にまとうのではなく、黄色そのものに。翼のように多きく広がり、みんなにエネルギーを与える色に。
でも現実の私は“黄色”ではない。私は周りからエネルギーをもらい、いろんな色を反射させながら生きている。
時には赤く燃え、時には青く冷める。理想と現実の間で揺れ動く私は、自分の色を見失うこともある。
この作品は、そんな私の葛藤を表しています。

作品紹介より

象徴的なのは、右が白色、左が銀色の翼です。黄色が「理想」を表す一方で、左側は「現実」を表す。そして床に置かれた「カプセルの中の折り鶴」は、自分らしく振る舞うことができず、殻を破れない自分を表しているといいます。

そんな「現実」の翼にはマイクが埋め込まれていて、自分が今エネルギーを感じていることを話しかけると、会場を照らすライトの色が、青・紫・緑……と、言葉のイメージによって変化していきます。

「私の作品は、見てくれた皆さんが参加してくれてできあがるものでもあります。たくさんの人に楽しそうに参加してもらえて良かったです」(Sheenaさん)。

03.魔法の世界へようこそ(作者:花:D)

「小さいころからずっと魔法少女になりたかった」というのは、作者の花:Dさん。会場に飾られたお花にスマホをかざすとメッセージが表示され、スマホがまるで魔法のステッキに様変わり。

お花のあるポイントを探しながらブースを回ると、自分の“未来”を見つけられたり、キャラクターが出てきたり。幼少期に多くの人が憧れたであろう魔法使いになった気分を味わえます。

04.「マイミー」ver.1.0(作者:舞舞)

作者の舞舞 / Maimaiさんは、高校3年生のとき、病に冒され入院した経験を持ちます。当時、母親のお腹にぎゅっとつかまると安心して眠れた――そんな原体験から生まれたのが「マイミー」ver.1.0です。

枕をぎゅっと抱くと、聞こえてくるのは心音と胎内音。病気の子どもをターゲットに作ったという舞舞さんですが、展示会でたくさんの大人に体験してもらい、好評を得たことから「年齢を問わず使ってもらえる商品にしたい」と考えるようになったと言います。

note記者も体験。どこか安心します

「病気の原体験をもとに、つらいときに誰かの支えになるような作品を作りたかった。これからも、皆が幸せになれるようなものを作っていきたいと思っています」(舞舞さん)

05.刻限界のゆらぎ(作者:Ken-ichi Kawamura)

「40年後の自分と対峙する」がテーマの「刻限界のゆらぎ」。自分の顔を撮影すると、AIによって生成された40年後の自分が目の前の暖簾に現れます。

「過去は変えられないけれど、未来は変えられる。投影する先をスクリーンではなく暖簾にしたのは揺らいでいるから。未来って決められたものではなく、ゆらぎのあるものだと思うのです。なにげない意思決定の積み重ねでできている。未来の風を起こすのは自分の意志ひとつです。時間の大切に気づき、行動を変えて欲しいというメッセージを、この作品に込めています。」(Ken-ichi Kawamuraさん)

06.Regard(作者:Namuh)

この作品は、鏡のシチュエーションを作り出し、同時にAIがメディアとしてもたらす変化を表現するために、機械的な視点をシミュレートして表現する。メディア、鏡について考えさせ、内容を促す場を提供します。

作品紹介より

制作のきっかけになったのは、川の水面に写る自分を見つめたこと。それを再現するために、映像にあえて“揺らぎ”を生み出したといいます。

07.心粋渾抗淆解AI(作者:赤羽そよ)

2面が黒い板で囲まれ、何が入っているか分からない箱。近づいていくとのぞき穴が現れ、覗き込もうとすると逃げていく――。不思議な体験ができる作品、それが赤羽そよさん(新保さん)の「心粋渾抗淆解AI」です。

「逃げるのぞき穴」の秘密は、Webカメラ。会場上部に取り付けられたWebカメラによって「のぞき主」の位置を測定し、座標によって穴が動く仕組みを作っています。

コツをつかんでようやく穴から見えたのは、自然のものをイメージした鉱石のようなランダムな柄と、人工物をイメージした規則正しい格子柄。

「実は、のぞき穴を映しているモニターは2007年製のもの。同じものをそろえるために、中古の家電店を何件も回りました。のぞき穴を載せている什器も手作りです」(赤羽さん)。本note後編のインタビューでは制作秘話について伺います。

08.星の輝きと希望の旅 - StarDream 物語(作者:薔薇音ひめ)

アイドルが大好きだという作者の薔薇音さん。自身もアイドルになってみたかったものの、なかなか一歩踏み出せなかったといいます。今回のメディアアートをきっかけにアイドルグループを作ってみようと、AIに「理想のアイドルグループを作ってください」とプロンプトし、メンバー構成、メンバー名、衣装コンセプト、曲の作詞作曲、MV用のイラストなどほぼすべてをAIで制作しました。

驚くことに、人の手を加えたのは「現物の衣装の調達」と、AIが作ってくれたコード進行を「曲になるように整える作業」、実際の歌唱程度なのだとか。

「私はまだ1年生なので、あと3年半をかけてAIをつくる側に回れたらいいなと思っています」(薔薇音さん)。

09. MA(作者:篭橋映水(一畳一間))

公衆電話をコンセプトに作られたこの作品。電話ボックスを模した箱の扉を開け、受話器を上げると「ツー、ツー・・・」という音とともに、視界にはAIによって生成された映像が流れます。流れるのは、現実からやや離れた、不思議な雰囲気のものばかり。扉一枚隔てているだけなのに、周囲と切り離された世界を体感できます。

10.怒りの物性(作者:えんじてゃ)

普段は怒りを感じることが少ないという作者のえんじてゃさん。先日、あることがきっかけで大きな怒りを感じ、「自分が怒った体験を忘れないように形に残したい」という思いがこの作品につながりました。取材中も、来場者が自分のさまざまな感情を込めて釘を打ち込む様子が印象的でした。

私たちが日常で経験する怒りや不満は、多くの場合、社会的な制約や環境から抑圧され、内部に封じ込められます。しかし、これらの感情は、適切に処理されない限り、私たちの心に重荷となって残ります。私は、そのような抑えられた感情を発散できる装置を作りたいと考え、藁人形というメディアを用いて、怒りの感情を物性化して表現することにしました。理不尽に遭遇した時や怒りが溢れ出す瞬間を思い出しながら、藁人形に釘を打ってみてください。

作品紹介より

会場を案内いただいた在学生へインタビュー

会場にいる作者を交えながら、10作品すべてを丁寧に紹介をしてくれた伊藤さんと神保さん。場所を移して、改めて二人にお話を伺いました。

“物理的にあるもの”を作る大変さ

――ハードスケジュールでも知られる集中講義・メディアアートですが、実際に受講してみていかがでしたか?

伊藤:授業そのものがハードだったという感覚はあまりありませんが、10人のメンバーの中でも私たちは特に制作が大変だったのではないかと思います。夏休みだけど、毎日学校に来ているような感じで。

新保:そうだったよね。DHUの通常の授業は、学校でPCを使って制作をして、授業時間内と自宅で少し作業をすれば終わるものが多いのですが、今回はたった3週間で実際に物を作って展示まで行うので、なかなか大変でした。

伊藤:毎日寝不足だったよね(笑)。よく考えてみたら、メディアアートの授業って、スケジュール調整、機材の調達、友だちに手伝ってもらうとしたら「何を」「いつ」「どのくらい」手伝ってもらうのかまで自分で考えなければならず、プロデューサーもマネージャーも制作者もすべて兼任するというようなイメージでした。それですごく忙しいと感じたのだと思います。

――具体的には、展示会までどのようなスケジュールだったのでしょうか。

新保:最初の授業が8月8日。講義は数日おきに何度かあって、制作を始めたのが8月21日でした。それから駿河台キャンパスに作業スペースができ、9月4日に駿河台ホールに作品を持っていき、9月6日から展示がスタートしました。

一番時間がかかったのは制作です。僕が作った作品は、古い液晶を中古家電店で調達したり、木材を買って自作したりしなければならなかったため、そこが大変でした。

――土台も自作されたんですね?

新保:そうなんです。無料で機材を貸し出してくれるホームセンターがあって、そこに7時間こもって好きな大きさに木材をカットしたり、組み立てたり、ホームセンターをラボみたいに使ってしまいました(笑)。

伊藤:私はアルミで羽を形作って、針金で模様をつけていく作業があったのですが、それは想像よりも早く終えられました。大変だったのは、ブースの見せ方。最初は壁だけを作っていましたが、「それだと文化祭みたいでチープだから、ちゃんと部屋を作ったら?」と先輩にアドバイスを貰って。画材店に行って、壁紙を特注印刷して貼って……。時間がない中で、細かいところまでこだわりぬいて作りきるのには、苦労しました。

伊藤さんの作品

伊藤:DHU生は、デジタルでプロトタイプを作るのは得意なほうだと思います。でも、それを「形のあるもの」に落とし込むのは経験がないし、素材から考えるのは本当に大変で。TA(ティーチングアシスタント)の方や友だちにいろいろ聞きながら進めていきました。

AIで作品作り。新たな挑戦によって得た気づき

――お二人はどのように作品のテーマを決めたのでしょうか?

伊藤:授業の中で、落合先生に「ChatGPTにインタビューしてもらうといいよ」と言われていました。実際にChatGPTからインタビューを受けてみると、ちょうど良い質問を投げてくれるんですよね。それに合わせて内省していくうちに「私は黄色に執着があるんだな」と気づいて。

――AIが、自分では気づけない問いをくれた、と。

伊藤:そうなんです。黄色への執着を感じた体験についてもそうだし、感情の中身についても聞いてくれるんですよね。「あのときあれが起きたから」という体験の部分は自分ひとりでも思い出せるけれど、そのときにどんな感情を抱いていたかって、自分だけではなかなか振り返らないじゃないですか。だから、ChatGPTに新しい視点をもらえたからこそ思い返せたと思っています。

新保:僕は、落合先生のアドバイスをもとにChatGPTに質問をもらいながら自分の人生を棚卸していきました。それで、自分が気になった過去の一瞬からインスパイアされて「のぞき穴」をテーマにしてみようかなと。

伊藤:落合先生の「アートで不快感を表現するのって斬新だよね」って言葉も参考にしていたよね。新保くんは、「家に持って帰れるような不快感を作りたい」って言っていた気がするよ。

新保:そうだった?(笑)

伊藤:落合先生の言葉が印象的だったみたいで、「電車で空いている席に座ったとき、生暖かかったら気持ち悪くない?」とか、日常のちょっとした違和感を見つけて私に教えてくれるようになって。メディアアートを通して、次の作品のコンセプトまで考え始めていたように見えました。

――AIと作品を掛け合わせたことでの気づきはありますか?

伊藤:私は物を作るとき、細部にわからないことがあると妥協して「これでいいや」としてしまうことが多かったんです。でも、AIの視点が入ると「なにがわかっていないのか」「なにをすればそれがクリアになるのか」が見えてくる。それが、今回の作品が文化祭レベルにとどまらず、クオリティ高く仕上がった理由だと思っています。

数年前までは、誰にも頼らずに自分の力だけで作品を完成させることが正義だと思っていました。でも、今回AIを使って作品作りをしたことで、共存していくツールなのだと気づけましたね。

新保:僕はAIとの新しい付き合い方を知ることができました。

たとえば、これまで分からないことがあれば、検索エンジンで「アプリ名 したいこと」と単語を並べて検索していました。ですが、今回使ったChatGPTの場合、必要な情報を得るために「このキーワードかな?」と考えなくても、今自分が考えていることをそのまま文章で入力すれば、その疑問に対してAIが答えてくれます。もちろん、まだまだ精度が低いから嘘を言ってきたりすることもあるんですが(笑)、その見極めも含めて、AIの新しい使い方・新しい付き合い方を学べたかな。

伊藤:AIとの付き合い方でいうと、いろんなAIがあって、シーンに応じて使い分けるのが大事なんだとも知りました。たとえばChatGPT以外にも、ChatPingとかAgentGPTとかいろんなツールがあって、できることや性質はさまざまです。シーンによって使い分けるとよりよいと落合先生にも教わり、今ではAIヘビーユーザーになっています。

メディアアートは夏だからこその学びの場

――メディアアートでの経験を、今後どのように生かしたいと思いますか?

伊藤:ひとりで“物理的にあるもの”を完成させるのは難しい、というのが今回の一番の学びです。自分のやりたいことの軸を持ち、周囲の人にも上手く頼る。今後の制作では、そういうことが上手くできるようになったらいいなと思います。卒業制作まであと2年あるこのタイミングで、それを身をもって体感できたのは本当によかったです。

新保:そうだよね。物理的に"ある"作品を作るのって、ほかの授業がたくさんある期間だと難しいと思います。今回みたいに一つの作品作りに熱中できるのは、夏休み中に開講されているメディアアートならでは。

将来自分が何か作品を作って展示会を主催する、となったときにも、今回の経験はいろいろ生きてくると思います。

――メディアアート、楽しかったですか?

伊藤・新保:はい!

伊藤:展示会が始まるまでは「本当に終わるのかな」と不安だらけでした。でも、会期中にいろんな人の反応を聞けて、すごく楽しかったしいい機会だったなと。特に私の作品は人に話してもらうことに意味がある作品なので、みんなで作品を作り上げられた感覚があります

新保:総じて、すごく楽しかったです。会期があと1日なのは本当にさみしいですが、撤収作業まで気を抜かず頑張ります!


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