猫との対話

静子 2. 食を求めて

── 『美味しいものが食べたいわ。特に温かい煮物の残りとか焼き魚はサイコーよね‥。』

その細身の体からは考えられないくらい、静子は大食漢である。野良猫のくせにしょぼい残飯を好まず常に、より美味しい食を求め情報を探る技にはこなれており、そのことになると人間にも平気で話し掛けて来るが、多くの人間に静子の声は聞き取れない。

── 『ネコはただ無意味にミャーミャー言ってるわけじゃないのに人間ったら、そんなことも分からないのね。バカよね、人間て。‥』

静子の脳に感覚を合わせて行くと彼女は常に愚痴を言っているように聴こえるが、静子をそうさせているのは我々人間の側だと言うことには多分誰も気づいていない。
── 「汚らしい、しかも目つきの悪い猫だ、保健所に始末させることは出来ないのかな。」
遠くで誰かがそんなことを思っているのが、私にも静子にもはっきりと分かる瞬間。互いに目を合わせ「酷いわね。」と声を合わせてその方角に念を飛ばす。


だが、ひとつ肝心なことに気付く。
静子は私を人間とは思っていない。
── 人間よりも遥か高度の知能と知性を持つ猫の仲間であり、当然猫語で会話の出来る相手。

静子は私をそういう正体不明の生き物だと思っており、「どうしてあなたは毛深くないの?なぜあなたは体を舐めないの?」としきりに質問して来る。

最近『スフィンクス』と言う毛のない猫がいて、静子は私がその種の猫だと思っているようだ。

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── 『何だかあなたって気取って洋服みたいなの着ちゃったりなんかして、可愛くないのよね。』(静子 談)。

す‥ すみません、可愛くないのは生まれつきなもので(笑)。

静子は私を箱入り娘(箱入りばあさん)だと思っており、
「一体なんでそんなコキタナイ箱ん中で暮らしてんのよ。ほら、静子さまのお通りよ、窓を開けなさい。」と言っては私の寝室の窓ガラスをポンポン朝っぱらから叩いて、朝ごはんの美味しいお店に連れて行けと言う。

猫語の分かる人間が猫を餌付けなどしようものなら、きっと我が家は猫界隈の馴染みの定食屋と化してしまうだろう。
だから私はどんなに可愛い猫に対しても、どんなにひもじそうな猫に対しても絶対に餌付けはしないと決めている。

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