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#19 take a picture of a beautiful view

誰かが撮った写真、
そこに写る海を眺めていた。

黄昏時を写した写真の中で、優しい風が流れているのを

どこか〝その人のようだな〟と思った。

写真を撮ったその人が見ていた景色。

刹那、感じていたであろう自然の手触りを、
写真の向こうから感じる。

その人の視界と私の視界がひとつに重なり、
そのうち、

宵を待つ海辺に伸びた薄い影は、ふたつになった。

隣りでシャッターを切る横顔をみつめた。

息を詰め、静かに、このささやかなひと時が損なわれてしまわないように。

柔らかな夕暮れの色彩に染まるその人は、どんな心でこの写真を撮ったのか。

シャッターを切る心地のいい音が、

潮騒に交じって写真の向こう側から聞こえてくる。

自分の視界が撮ったその人と重なるような写真に出会うと、見たことも話したこともないその人のことを想像する。

どんな言葉を使うのか、どんな心の色をしているのか。

宵の入り口で、その人はどんなことを思っていたのだろう。

***

私は自分のことをずっと〝夜の生き物〟だと思っている。

心も体も一人になる夜にだけ、本当の自分のことをゆるせる気がする。

騒々しい世界から切り離された心のサンクチュアリ。

黄昏時の海を写した写真から、光の気配がした。

その人はきっと私とは全然違うことを思っているんだろう。

それでも一滴、たったひとしずくの交点がその写真からは感じられる。

心の色彩、そのグラデーション。

うつろっていく色のニュアンスが、きっと今の自分と同じなんじゃないかな。

たった一枚の写真から、そんなことを感じた。

ファインダー越しに混ざり合う時間。

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