一般公務員の専門性とは

公務員は事務職が多いと言われています。

実際に、デスクワークやの窓口対応等を行う職員は多く、総務省によると、令和2年度の調査で地方公務員の一般行政職のみで857,734人おり、水道事業などを所管する企業職や地方独立行政法人職員を加えれば、100万人近くの事務を行う職員がいます。

こうした一般職または行政職と呼ばれる公務員も専門性を身に着けるべきか考えてみました。

私は、専門性は自らを自由にし、将来の可能性を広げることから、身に着けることを意識して、日常の業務を行うべきと考えます。

1 専門性とは?

そもそも、専門性とはいったい何を指すのでしょうか。実用日本語表現辞典では、『特定の分野についてのみ深く関わっているさま。 高度な知識や経験を要求されること、またはその度合い。』と記載があります。

特定の分野と言われて思いつくのは、仕事のカテゴリーです。福祉分野、教育分野、環境分野など、地方公務員にも『局』または『部』として、分野別に組織されています。

例えば、大阪府であれば、知事、副知事の下に「政策企画部」「総務部」「福祉部」など、それぞれの所掌範囲に部長がおかれ、統括しています。

市町村においても同様であり、山形市では、「総務部」、「市民生活部」、「環境部」が置かれており、部の下に『課』、課の下に『係』『グループ』などが置かれている自治体が多いと思います。

さて、公務員はそれぞれの部の下で専門性を身に着けるべきなのでしょうか。

技術職として採用されている職員ならば可能かもしれませんが、多くの職員にとっては、困難であると思います。なぜならば、人事異動が頻繁にあるからです。

2 異動による弊害

しっかりとした統計があるわけではないのですが、地方公務員は3年周期で異動を行うことが多いと思います。

私事ですが、最初の職場において「1年目で学び、2年目で実践し、3年目で改善してバトンを渡せ。」と言われました。

3年周期の異動がある理由は、特定の関係団体との癒着を防ぐこと、幅のある職務経験を積んでゼネラリストとなること、職場に刺激を与えることなどと言われています。

いずれにしても、3年ほどで移動があるという事実は変えられず、特定の分野を深く掘り下げて専門性を身に着けることは困難です。

例えば、高齢福祉分野に配属され、3年間介護保険などの知識を深めたとしても、異動があれば、次は環境計画の担当となり、プラスチックごみの処分方法について勉強しなくてはいけないということが、特に若手では往々にしてあります。

色々なことを知りたいから、それはそれで良いという職員もいます。私もそうです。一方で、特定の分野に関する深い知識は身につきません、知識は異動して離れてしまえば忘れてしまいます。

一般職の公務員が、分野における専門性を身に着けることは難しく、分野ではない実務の専門性を考える必要があります。

3 実務の専門性とは?

私は、専門性とは分野における専門性と実務における専門性があると考えます。実務における専門性とは、どこの分野に言っても、公務員として活用できる技能を指します。具体的には、広報、財務、議会、法務、対人サービスなどです。実務は、異動したとしても廃れることがありません。

広報であれば、住民や記者の方に分かりやすく伝える能力、資料の作成、記憶に残る広報物の作成の技能は、どこの職場に行っても重宝します。自治体からの記者発表は、どこに行っても行う機会がありますので、広報の実務は非常に汎用性の高いものです。

財務も同様です。所属する職場が継続するためには、予算が必要です。予算部門との調整や根拠を持って積算する力、もっとざっくり言ってしまえば、自所属にお金を引っ張ってくる力は、一目置かれやすいように感じます。

議会は、公務員にとって切り離せないものです。予算にしても条例にしても、議会の承認がなければ効力を発揮できません。公務員の案が実行されるには、選挙で選ばれた住民の代表との議会における議論の末となります。議員との調整、質問に対する答弁作成の方法など、議会対応も身に着けておくと、公務員として働く上で大きなアドバンテージです。

法務も影響力の大きい分野です。「法務課」「政策法務課」など、専門の部署を置く自治体もありますが、公務員の行動は当然ながら法律に縛られます。施策を行う際に、どの法律に基づくのか、または法律に違反していないか、解釈してアドバイスや思考できるのは非常に大きな力です。

対人サービスはイメージがしやすいと思います。窓口や電話対応など、公務員は住民と対話をすることが日常茶飯事です。相手に気持ちよく帰ってもらう、納得していただける、来てよかったと思っていただける、基本的なサービスではありますが、ずば抜けてできる職員は大変希少です。

例えで、5つ挙げてみましたが、他にも有用な実務は多くあります。どこの所属に行っても困らない自分の武器がある職員は有望であると思います。なぜなら、どこに異動しても組織に貢献できるからです。

4 専門性を身に着けることのメリット

「○○は財務対応がずば抜けている。」と認知されていた場合、人事面接でも、それを前に出すことができます。業務においても、自らルールを決めて、対応について提案することができます。私は、そのメリットを今回のコロナ対応で、つくづく実感しました。

新型コロナウイルス対策などの有事の際は、専門性や自分の武器がない場合、誰でもできる仕事に回されることが往々にしてあります。届出のカウント、単純な入力作業など、大事な業務であり、有事の際は終わりがないものです。

私の職場でも、膨大な数の届出の入力作業やダブルチェックに従事する職員
は、深夜まで作業を行うなど、疲弊しきっていました。

一方で、何かしらの強みがあり、周りに認知されている場合、有事の際に動員がかかります。その能力を買われて、従事するため、かなりの範囲、自分で決定権を持って仕事をすることができます。

例えば、議会対応に強みがある場合、コロナ関係の質問について、議員との調整方法、幹部の答弁の作成方法、幹部との勉強会の設定など、自分でルールを作って提案することができます。

どのような事柄でもそうですが、自分が主体的に、裁量権を持って業務行う場合、人はストレスを感じにくいとされています。(参考:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト こころの耳)組織である以上、上司の指示には従う必要がありますが、自由度のある環境で業務ができることは、仕事をするうえで大変重要であると考えます。

5 専門性の身に着け方

では、どうやって実務の専門性を身に着けていくのでしょうか。これは単純に、日々の業務の中から発見していくしかないと思います。目の前の仕事に集中し、アンテナを張って得意分野を見つけることで、自分の強みを発見できます。

「なんでこんな簡単なことが褒められるのだろう。」「理由は分からないけど非常に高く人事評価された」など、発見のチャンスは、日々の仕事の中にあります。

自分は苦も無くできるけど、他の人は大変な思いでやっているものがあれば、そこを伸ばしていくことに注力すべきです。

若手職員は特に、最初の10年は様々な職務を経験することができます。自分の優位な点を、できるだけ早く見つけ、アピールして日々の仕事を進めやすくするためにも専門性は大切です。

専門性は自らを自由にし、将来の可能性を広げます。ぜひ、日常の業務から自分の専門性を見つけ出してほしいと思います。

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