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中途採用の公務員

先日、飲み会の場で「新採用で入ってくる職員が減ったからか、中途採用の割合が増えてきたよ。」と上司がつぶやいていました。

確かに、私が入庁したときと比べて、一度民間企業に就職してから、公務員となる人が増えているように思われます。

地方公共団体の勤務条件等に関する調査によると、2018年には2191人だった経験者採用者数が、2022年には9174人となっています。わずか4年で4倍です。
総務省|地方公務員制度等|勤務条件・採用試験等 (soumu.go.jp)

また、中途採用試験においても、経歴を問わない試験、何かの資格が必要であったり、○○の経歴があることといった要件のない試験による採用者が全体の半分ほどになっています。

採用難の時代に、どうにか人員を確保しようと、自治体も様々な取り組みを行っているようです。

確かに、国も地方も「官僚離れ」が進んでいます。空前の人手不足で、言い換えれば超売り手市場です。今、まさに春闘が行われていますが、若手・新入社員に対する賃上げは史上最大規模となりそうで、民間企業の給与も右肩上がりです。

人口減少社会において、一人ひとりの公務員の役割は重く、公務員は激務のわりに給料が安いというイメ-ジも先行しているようで、思うように人が集まらないと庁内外から耳にします。

1 中途採用者が自治体にもたらすもの

少し前に、NHKで官僚離れの特集が組まれていました。国家公務員を志す人が減り、若手の退職も増えてきたことから「国家の問題解決能力が落ちかねない」と警鐘を鳴らしています。
止まらない官僚離れ どうする霞が関の人材獲得 カギは“中途”? | NHK政治マガジ

優秀な人材がいなくては、現代の複雑化した国家の課題を解決できないし、地方自治体においても基本的な住民サービスの提供に支障が出てきます。

その解決のカギが中途採用者であると、この記事では述べています。
公務以外のその職場での経験、やり方や考え方を持っている方が公務に入ることによって、より合理的、効率的、能率的な職場が実現できると思う。多様性があることで、イノベーションというのは起こりやすくなる。

確かにその通りでしょう。多様性によるイノベーションの起こりやすさは、よく言われていることですし、公務員の習慣や自治体に染まってしまった人間では見えない課題の発見や効率的な公務遂行方法の提供など、一度外を見た人の影響力は大きなものがあるでしょう。

特に、自治体のDX化、デジタル化の推奨を求められている現代において、アナログ意識の高いと言われる地方自治体を転換させるには、民間経験のある中途採用者の視点や経験が不可欠だと思います。

そして、こうとも述べています。

国民が望む行政サービスをきちんとお届けするために、公務は昔も今もこれからもずっと大事だ。公務の魅力がうまく伝わっていない。

2 中途採用者にとってのメリット

公務以外の職場経験を持つ人が公務員組織に入り新たな視点や考えをもたらすことは組織にとってのメリットの話です。

一方で、多くの中途採用者(公務員への転職組)にとっては「自分が転職して国や地方自治体にイノベーションをもたらす!」と思って入庁する人は、正直そんなに多くないと思います。

確かに、民間から公務員に行く人が増えている以上、民間からの転職者にとって、公務員に魅力を感じる何かがあるのは間違いないと思います。

ただ、自分の自治体の中途採用者の方や、民間を経由して公務員になった友人に話を聞くと、その理由はもっと素朴です。

「前の会社が激務で職場環境も酷かったから」
「結婚を機に安定的な職に就きたかったから」
「昼夜を問わない職業はもう懲り懲りだと思ったから」

総じて安定を求めている気がします。
国家であれ地方公務員であれ、公務員が職を失うことは、犯罪でも起こさない限り、そうありません。また、最初にもらえる額は少ないものの、一度得た給料の額がある時急に下がることも大変稀です。

少なくとも自分の周りの中途採用者は、公務のやりがいを求めるよりも公務員の安定さを求めて転職を決めた人が多いように思います。

もちろん自分の人生をどう生きるかが一番大事であるため、その選択は全く持って正しいものです。

やりがいよりも実を求めているため、組織が公務のやりがいを前面に打ち出して、中途採用者を求めても上手くいかないのではと思わなくもありません。

組織が期待するのは結果であることから、公務員を希望する人も目的がどうであれ、民間で得た経験やスキルを地方自治体の中で生かしていければ、WIN WINの関係となるため、それでいいのではないかと思います。

3 中途採用で公務員を狙うことについて

初めから公務員第一にしないという考え方はどうでしょうか。

中途採用においては、自分の自治体も含めて、学力よりも「人物本位」な採用が広まってきたように思います。学力試験よりも、面接試験や自己PRなどに重点を置く傾向が強まっているように感じます。

そのため、中途採用者にとっては、仕事をしながら公務員試験の勉強をしなくてはならないというハードルが下がっているのではないかと思います。今の人手不足の影響もあってか、門戸が広くなっているのではないかでしょうか。

違う自治体の幹部をやっている親戚に、「『公務員は後からでも入れるから最初は民間に行く』と思っている若い人が増えてきたように思う。」と投げかけたところ、同感だと返されました。

公務員は踏襲主義なところがあり、いきなり急に出世したり、多額の給料をもらえるわけではありません。

職としては、安定的ではありますが、人的資本が高くリスクの取りやすい20代前半であれば、自分が新採用で公務員となっている身で言うのもなんですが、最初は民間企業へという選択肢は大いにありだと思います。

・奨学金の支払いもあるし、給料の高いところへ行こう。
・今後のキャリアを考え、最初は成果を厳しく求められないところへ行く。

色々な視点はあり、結局決めるのは本人ですが、中途採用でも公務員になりやすい環境が整ってきた現状もあり、あえて、新卒で公務員と言う選択肢は、今後減ってくるのではないでしょうか。

私の所属する部のトップは民間企業からの転職者です。出世においても、新卒から公務員か中途採用か、といったことは議論になりません。

新採用から公務員と言う人が減って、中途採用者が増える、こうした傾向は今後も続いていくのではないかと思います。

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