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市場価値の高いデジタルマーケターに共通する、能力の三本柱

デジタルマーケティングカンパニー・DIGITALIFTの鹿熊亮甫が、第一線で活躍するマーケターとの対談を通じ、デジタル時代のマーケティングを解剖していく連載シリーズ「次世代マーケ論考」。第二回は、デジタルトランスフォーメーションに強みを持つ外資系マーケティングコンサルティング会社・Media.Monks(MightyHive Japan)の青木駿汰さんをゲストに招き、「市場価値の高いデジタルマーケターの共通点」をテーマにお話を伺いました。コロナ禍によるECの急成長、3rd Party Cookieの規制など、ゲームチェンジの真っ只中にある広告業界で、今後生き残るプレイヤーに求められる素養とは一体なんなのか。——具体事例を交えながら、詳細に解説していただきました。

広告業界で巻き起こるゲームチェンジ

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鹿熊:マッキンゼーのレポート、ご覧になりましたか?

昨年と今年を振り返ると、コロナ禍の影響で、オフラインを主戦場にしていたお客様も、一気にデジタル領域への投資を進めていたように思います。

青木:国土面積が広いアメリカでは当たり前だった「移動のハードル」が、国土面積の狭い日本でも当たり前になったのがこの2年間でした。

私が思うに、日本人はもともと、直接足を運んで自分の目で見て買うのが好きな人種です。でも、外出が制限されたことで、インターネットで購買活動をする機会が格段に増えました。本来ECで購入することなんて考えられなかった香水でさえ、D2Cのサービスが生まれ始めています。

鹿熊:いよいよマーケターが、デジタル化の波から逃げられない時代になりましたね。

特に運用型広告では、その傾向が顕著です。ECの急成長だけでなく、広告運用業務の自動化や個別専門領域(コンバージョン計測やGoogle Cloud Platformの操作)の高度化、さらには3rd Party Cookieの規制も影響し、エンジニアリングへの理解や、データを扱う能力なくして、高い成果を上げるのはほとんど難しくなっています。

手を動かすだけのデジタルマーケターの価値は相対的に低くなる……といっても過言ではないでしょう。データ・イズ・キングの時代に、データを扱う能力がないのであれば、当然生き残るのが難しくなります。

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青木:おっしゃる通り、3rd Party Cookieの規制はトレーディングデスク業界で働く人材に大きな影響を与えますよね。「広告運用ができる」というのでは不十分で、異なる領域に知見を広げ、それぞれの専門領域をコラボレーションして成果を上げることができる“接着剤人間”を目指す必要があると思います。

鹿熊:3rd Party Cookieの規制は、業界にゲームチェンジを起こすレベルの出来事です。もちろん対応策はありますが、それを実行するにはコードを書かなければいけないなど、エンジニアリングへの理解が求められます。トレーディングデスク業界では、マーケティングとエンジニアリングの境目がなくなっていくはずです。

でも、その変化に対応できていない会社がほとんどです。いわゆる優秀なマーケターたちは着手し始めていますが、それでも課題を解決できず、弊社にご相談いただくこともあります。

この流れが加速していくと、エンジニアからマーケティング業界へと転職する人材も出てくるでしょうし、彼らの市場価値は相当高いと思いますよ。

データとクリエイティブを司る“接着剤人間”になれ

鹿熊:トレーディングデスク業界で、“接着剤人間”になるには、どのような素養が求められると思いますか。

青木:鹿熊さんがおっしゃった「データ」に加え、「クリエイティブ」の理解が必須だと思います。

広告の運用はAIが代替していますが、「AIにどのようなデータを渡すかを決める」「AIが学習しやすい環境を整えてあげる」という作業は、まだまだ人がやるべきものです。つまるところ、広告運用そのものは人がやるべき仕事ではなく、AIに仕事をさせるのが人の仕事になります。これが、データを扱う能力が必須になる背景です。

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クリエイティブとは、要するに「人の心を動かす」ための能力です。ロジカルとエモーショナルの二軸がありますが、前者はある程度結論が一緒なので、後者を操る能力がなければ頭一つ抜けることは難しくなっていきます。コピーライティングやデザインのスキルがない限り、先細りしていくだけです。

鹿熊:ちなみに、データとクリエイティブのどちらが重要だと思いますか?

青木:大前提として、双方を持ち合わせていないとキツいと思います。ただ、双方の領域でプロレベルを目指す必要はありません。どちらかで80点、残りの領域で20点を取れれば十分です。まずは、「得意分野がありながら、共通言語を持っている」という状態を目指すべきだと思います。

鹿熊:遠くない未来では、そうした人材しか残っていない状態になると思いつつ、現状で言えば、全プレイヤーのうち10%程度もいない印象です。だから、大手代理店に一人のプレイヤーが勝つこともザラにある。運用型広告の業界は、ゲームチェンジのど真ん中にあるんだと思います。

https://recruit.digitalift.co.jp/tomonaga/

広告運用でみられる「もったいない事例」

鹿熊:青木さんが所属するMightyHiveでは、ゲームチェンジが起きているこのタイミングで、どのようにクライアントを支援しているんですか。

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青木:3rd Party Cookieの規制がスタートするにあたって、「兎にも角にも1st Party Dataを集めましょう」ということを伝えています。自社で顧客のデータを集めて、それらをしっかりと整理する。言葉にするとシンプルですが、それが全てだとも言えるんです。

クライアントさんの話を聞いてみると、獲得したリードのデータとインターネット広告のデータがリンクしていない、オフラインのデータとオンラインのデータがリンクしていない、といったことがよくあります。

部署ごとに異なる目標を追っていて、その達成にしか目が向いていないためにデータが統合されず、施策がうまく連携できていないということも日常茶飯事。しかし、データは「集める」だけでは意味がなく、「整理する」ことで成果に結びつきます。その支援を徹底し、売上の向上を導くのがMightyHiveの役割です。

鹿熊:収集したデータがうまく活用されていない事例として、どのようなものがあるんですか?

青木:たとえば、リスティング広告でたくさんリードを獲得している企業があるとします。Webマーケティングの担当部署は、数字目標を達成できているのでハッピーですよね。

しかし、応募率や契約率・LTVの低いキーワードで流入を得ていた場合、売上には結びつきません。実質的には、広告費を垂れ流しているだけです。リード獲得系のビジネスでは、こうした「もったいない事例」が多々あります。

ほかにもよくある事例が、オンラインとオフラインの連携ミスです。たとえば店舗で購入すると特典がもらえるキャンペーンをWeb広告で周知した際に、Web上での集客と、実際に店舗に来てどのくらいお金を使ったかというオフラインのデータが紐づいておらず、正確な効果を計測しないままにしているケースがよくあります。

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鹿熊:リアルタイム性を無視している、ということですよね。実店舗に足を運ぶのが1週間後だったとして、Webの集客データを2週間後に渡しているようでは、意味がないと。

青木:そうです、そうです。部署ごとに目標が違うために、そもそも「データを統合する」という発想がなかったり、システムを構築するもの簡単ではないので、自社ではどうしようもできなかったりするんです。結果的に、実施したキャンペーンは効果を最大化できないまま終わってしまいます。

鹿熊:過去に挑戦してみたけどうまくいかず、そのまま放置しているケースもありそうです。

青木:あるあるだと思います。難度が高いので、「そもそも私たちにはできないものだ」と放り投げてしまっている会社さんも少なくありません。

でも、いずれはやらなければいけないことなんですけどね。

これからのデジマは、ハードスキルだけでは通用しない

鹿熊:青木さんのお話をお伺いしていると、これからのデジタルマーケターには、「推進力」が求められるのではないかと思いました。

青木:間違いないと思います。コンサルティングをするにあたり、組織の中に入り込んで部署間の統合を支援することがあるのですが、これを社内の人材でできるケースは滅多にないんです。

自部署だけで解決できる問題ではなく、技術的なハードルもある。面倒なので、なかなか優先順位の上位に入らないんです。「会社としての売上を最大化するには」という思考を持っている人材でもない限り、なかなか実践できません。

でも、実践すれば、会社の売上に貢献できます。目の前の仕事に必死になるよりも、飛躍的な成果につながります。ですから、会社からしてみれば、最も必要な人材のはずなんです。

鹿熊:会社を変えていく意思がないと、デジタルマーケターとしては生き残れないと。

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青木:少なくとも運用型広告のプレイヤーとして活躍するとするなら、広告運用ができるのは大前提として、データとクリエイティブの理解、そして推進力の“三本柱”が必要になると思います。

代理店であればなおさらで、売上の成長に大きく貢献できないのなら、「内製で十分」の烙印を押されてしまうと思います。DIGITALIFTさんの言葉を借りるなら、クライアントの“CdMO(チーフ・デジタル・マーケティング・オフィサー)”を目指すべきでしょう。

そもそもマーケターは、「売上をつくり、利益を上げる活動をする人」ですからね。

鹿熊:最後の質問になりますが、これからデジタルマーケターとして成長を目指す方に向け、アドバイスをお願いします。

青木:これからのデジタルマーケターは「幹事になる」ことを意識するのが大切だと思います。

これまで、成果を上げるにはハードスキルだけで十分でした。運用ができて、データがある程度理解でき、クリエイティブを押さえていれば、売上に貢献できたんです。

しかし、部署間での連携が取れなければ、成果を上げるのが難しくなっていくのは明確です。そうした未来においては、周囲を巻き込む力がものをいいます。「この人のためなら協力してあげよう」「彼は信頼できる人だ」と思ってもらえない限り、それは実現しません。

鹿熊:ハードスキルを持っていても、ソフトスキルがなければ活躍できないということですね。

青木:おっしゃる通りで、双方が不可欠です。

先ほどの話とは矛盾しますが、逆にソフトスキルだけで仕事が取れた時代もあります。しかし今後は、専門的な話ができて、それでいて周囲を巻き込む人柄がある人でない限り、活躍できない時代になります。

「技術さえあれば成果を上げられる」「人柄がよければ仕事が取れる」のは今のうちだけだと思っておけば、成果につながるデジタルマーケターになれるのではないでしょうか。

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