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アフリカ人女性として初めてビルボードHOT100で1位を獲得、最も身近な真実を表現するTemsとは?

Wizkidのシングル「Essence」で一躍その名が知られるようになったTems(テムズ)は、2021年にDrakeのアルバムに抜擢されたほか、翌年にはFutureBeyonceといったトップアーティストのアルバムにも参加。

また、10月に音楽業界にカムバックシングルとしてリリースされたRihanna「Lift Me Up」(2022)に楽曲提供をするなど、今、マルチな才能で注目を浴びている1人です。

ここでは、これまでの彼女のキャリアを振り返りたいと思います。

レーベル  : RCA Records, Leading Vibes
名前    : Tems
本名    :    Temilade Openiyi
年齢    :    27歳


出身地   :    ナイジェリア、ラゴス

プロデュース業を学んだ学生時代

ナイジェリア人の母と、イギリス人の父の間に生まれたテムズは、生後間もなくイギリスに渡りましたが、5歳の時に両親が離婚すると、母や弟と共にナイジェリアに戻り、転居を繰り返し生活していたようです。

私が意識する頃には、すでにママと一緒にいることに慣れていたわ。
弟2人もママに育てられたの。
最初に戻ってきたときはイルペジュに住んでいて、それからレッキ・フェーズ 1、アジャと移動していったの。
子供のころは遊ぶのが好きだったけど、本当におとなしい子だったわ。
高校の頃は友達が少なかったから、よく音楽室に通っていたの。
7歳の時にテレビでペプシ・カウントダウンのBeyonceを見てから、ずっと音楽が好きだったの。

幼少期にBeyonceに心を奪われ、海外の音楽にハマり、中でもAdele「Hometown Glory」がお気に入りだったそうです。

私の母親は音楽が好きな人ではなく、クリスチャン・ミュージック以外の音楽は聴かない人なの。
でも、だんだん大きくなって、ウォークマンにCDを入れるようになったわ。
Destiny’s Child、Lil Wayne・・・彼らは私のアイドルのようなもの。そしてAaliyahね。
初めてちゃんと歌えるようになったのは、12歳のときで、Alicia Keysの「If I ain't Got You」だったわ。
音楽の選択肢が増えたとき、Burna Boy、Asa、Lauryn Hill、Adeleを聴くようになったんだけど、Adleがブレイクするまで白人だとは知らなかったわ。
彼女の歌声にはとても共感できて「Hometown Glory」という曲があるんだけど、大好きな曲のひとつだわ。

高校では合唱団に入り、大学では経済学を学んでいた彼女は、在学中にプロデュース業を学び、音楽の知識を増やしていくことに。

ある休日にプロデューサーと仕事をしたいと思ったんだけど、話を聞こうとしたプロデューサーはみんな条件が多かったんだ。何か対価が必要だったんだけど、私はお金を持っていなかったの。
でも、自分が何を求めているのかがわかったから、自分で勉強してみようと思ったの。
YouTubeで動画を見始めたら、すぐにできるようになったわ。
まだベストとは言えないけど、自分が何をしたいのか、どんな雰囲気にしたいのか、他の人が知らない秘策を知ってるんだ。
他のプロデューサーが作ったビートも聴いたことがあるけど、私はいつもTems的な要素が必要で、それは説明できないけど、曲を作っているときに得られる感覚なんだ。

退職し、音楽の道へ

大学卒業後、生活のために就職を選択した彼女ですが、音楽への思いが尽きることはなく、23歳の時に会社を辞め、2018年にセルフプロデュースしたシングル「Mr.Rebel」をリリースして本格的なキャリアをスタートさせます。

卒業後、ナイジェリアへ戻って仕事に就いたわ。
というのも、生活が苦しくて一人暮らしだったから、就職して貯金をしてから音楽を始めようと思ったの。
家族からは、音楽が自分にとってどれだけ本気なのかわからず、何をしているのか聞かれ続けたから、責任を取るために就職したわ。
そして2018年、23歳になって、この先数年は会社員でいることを考え、「会社員になるなら、なんで音楽で一生懸命トレーニングしたんだろう、それも自分の得意分野じゃないのに」と思っていたの。
当時、私はある会社でデジタルマーケティングをやっていたわ。
なぜここで苦労しているのか、自問自答を繰り返して、会社を辞めたの。
何もないところからのスタートで、大変だったわ。
請求書も全部、払うのにかなり苦労したわ。
そんなとき、Instagramに動画をアップしてみることにしたの。
何人かの人が声をかけてくれて、Audioに会ったんだけど、彼らは2人組で、本当にクールな人たちで、スタジオを使わせてくれたんだ。
まだ自分の技術を完成させようとしていた私は、数週間後に曲をリリースすることに決めて、その曲が「Mr.Rebel」だったわ。
自分のラップトップで一番ひどい曲でもあるんだけど、気楽にリリースできて、そんなにヒットしないってわかってる、一番シンプルな曲をリリースしようとしたんだ、そんなにいい曲じゃないから。
でも、イントロダクションにはなる。
そしたら、だんだん盛り上がってきて、みんなが私に声をかけてくれるようになったんだ。

Tems - Mr.Rebel (2018)

本人は「あまり自慢できる曲ではない」と明かしましたが、この曲はナイジェリアのアワード「The Headies」で2部門にノミネートされています。
その翌年に発表したシングル「Try Me」(2019)は、YouTubeで1000万再生を記録しており、彼女の知名度が爆発的ににナイジェリア国内で広まっていきます。

Tems - Try Me (2019)

FutureがサンプリングしたデビューEPとは?

2020年、アメリカのシンガーKhalidとイギリスのエレクトロニックミュージックデュオDisclosureのシングル「Know Your Worth」のリミックスにDavidoと共にゲスト参加。

また、同年に待望のデビューEP「For Broken Ears」(2020)をリリース。
このEPには、ナイジェリアのApple Musicチャートで1位を獲得した「Damages」や、2022年に全米チャートで1位を獲得したFutureのシングル「WAIT FOR U」でサンプリングされた「Higher」などが収録されています。

「WAIT FOR U」がヒットしたことで多くの人が「Higher」を評価し始めましたが、彼女自身はずっとこの曲を評価してきたと語ります。

「Higher」をみんなが評価してくれるずっと前から、私はこの曲の価値をわかっていたの。4年前くらいに書いた曲なんだけどね。
今までリリースした曲のどれも、自分にとってのその曲の本当の価値や意味を知っているわ。
なぜなら、この曲たちは非常にパーソナルなものだからね。
より多くの人に聴いてもらい、共感してもらえるのはありがたいことだけど、より深い感謝の気持ちを持つという意味では、曲そのものは変わっていないような気がしているよ。
私はいつも、曲に深い感謝の気持ちを抱いていたように思うわ。

Tems - Higher (2020)

Future feat. Drake, Tems - WAIT FOR U (2022)

また、テムズがこのEPをリリースした目的は、自分の色やスキルを見せたい、そしてファンのことをもっと知りたいということだったようです。

おそらく私のサウンドは理解されていないと思うから、そのトーンを示したいと思っていたの。
私は何でもありで、あらゆる音楽を作るという意味で、何でもできるということ。
音楽を作り始めた頃は、ジャンルというものを知らず、ありとあらゆることをやっていたの。
アフロビーツについては当然知っていたけど、この業界に入ってから、みんなが曲をR&Bやソウルなどに分類していることに気づいたわ。
このプロジェクトは、自分の幅、できること、現在のレベルなどを示すことを目的としているの。
でもプロジェクトに全部は入りきらないから、できることをまとめきれていないわ。
また、自分のファンがどこにいるのか、見極めたいとも思っているの。
だから「Try Me」から少し時間を空けたんだ、みんなが 「Try Me」を手放し、ちょっと失望してもらわなきゃいけなかったんだ。

また、収録曲「Free Mind」は2022年にシングル化され、Hot 97などのラジオ局でヘビープレイされており、全米Afrobeatsチャートでは1位を獲得しています。

Tems - Free Mind (2020)

マーベル映画に大きく貢献する

転機となる2021年、Wizkidのシングル「Essence」にフィーチャーされ、Justin Bieberが参加したリミックスは全米チャート9位を記録。

同年、Drakeのアルバム「Certified Lover Boy」(2021)にフィーチャーされ、アルバムリリース後にはDrakeと食事を楽しんでいる姿も目撃されています。

同月にはRCA Recordsと契約を結び、自身初のメジャーレーベルからセカンドEP「If Orange Was a Place」(2021)をリリース。
リードシングル「Crazy Tings」はUK Afrobeatsシングルチャートで3位を記録し、2022年のThe Headiesでは「Best R&B Album」を受賞しています。

Tems - Crazy Tings (2021)

私の曲はどれも計画的に作られたものではないわ。
どんな状況であれ、自分の最も身近な真実を表現したものがほとんどなの。
だから、このプロセスで起こることは、私がどんな感情を持っているか、みんなが自分なりの解釈を見つけることだと思うわ。
そうすると、私の感情は移ろいやすくなり、リスナーは自分の視点や現実にマッチしたシチュエーションにそれを振り向けることができるようになるの。

2022年には、前述のFutureのアルバム「I Never Liked You」から「WAIT FOR U」にサンプリングされ、アフリカ人女性として初の全米チャート1位を獲得したほか、Beyonceのアルバムにもゲスト参加するなど、今年に入ってからは客演で多くの作品に名を残しています。

7月には、Bob Marleyの名曲「No Woman No Cry」のカバーを歌い、マーベル映画「ブラックパンサー・ワカンダ・フォーエバー」のトレイラーにKendrick Lamar「Alright」と共に使用されています。

Tems - No Woman No Cry

さらに、10月に発売されたRihannaのシングル「Lift Me Up」(2022)に楽曲を提供し、これが映画のサウンドトラックに収録されるなど、この映画に大きく関わっているようです。

おわりに

Wizkid、「Essence」をはじめ、「Free Mind」「Higher」まで、メインストリームレベルで認知されるまでにかなり長い時間がかかりましたが、その事について彼女はこう話しています。

聴いてくれる人が増えるのはありがたいことね。
素晴らしいことだと思うわ。人生だもの。
何かをリリースしたとき、誰かが 「え、この曲何?誰?」と思うようになるには、また別の何かが必要なんだと思う。
私にできることは何もないわ。私はただ音楽をリリースし続け、自分のベストを尽くすだけ。何の不安もない。
メッセージがいろいろな形で広がっていくのはありがたいこと。
すごいことよ。

また、音楽を作る上で一番大切にしてる事は、内に秘めた情熱や気持ちだと語っています。

私はできるだけリアルでありたいと思っているわ。自分の気持ち、自分が誰であるか、そして情熱に正直でありたい。様々なタイプの人用にいろんな音楽が常に存在するけど、私は決して順応するつもりはないわ。私が作るものに共感してくれる人は誰でもいい。私は賞賛や何かを必要としない、それらは私が音楽を作る理由ではないわ。
ただ自分の音楽を共有したいだけ。それが「Mr Rebel」をアップロードした理由なの。
私にとって重要なことはそれだけ。

今までにリリースされた曲数は少ないものの、その歌声は聴く者を魅了し、瞬く間にナイジェリアの輝く星となったテムズ
ヒットを狙うという、あざとさとは到底無縁な、"自分の最も身近な真実を表現する"という彼女の作曲スタイルは、今後も重宝され、シーンに大きな影響を与えそうです。

また近々リリースされるであろうデビューアルバムにも大いに期待を寄せたいところです。

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