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ユーザーに愛される企業のファンコミュニティ:ファンイベント編

リサーチの仕事は、企業の中では販売・接客の仕事に次いで「お客様のことを直に知る」機会に恵まれた仕事です。そのマーケティングリサーチの現場でここ3~4年で急速に進んでいる大きな変化が、企業自らお客様を知ろうとするプラットフォームづくりです。

自社でアンケートやインタビューを取ったり、アンケート会員・モニター会員を組織したりして、広告代理店やマーケティング会社に丸投げせず、ダイレクトに顧客理解をする場づくりを進め、「ユーザーに愛され続けるサイクル」を着々と踏み固めています。

中でも目立つ施策が、「ファンイベント」と「ファンサイト」の運営です。前者は「ファンミーティング・オフ会」、後者は「オウンドメディア」の施策に代表されるように、いずれも飽和したマーケットにおける新たな企業競争力の源泉として注目されています。

この記事シリーズでは、「ユーザーに愛される企業のファンコミュニティ」と題して、末長く・幅広く商品・サービスブランドのファンを獲得している企業の取り組みについて、前半と後半に分けて書いていきます。

今回は、「ファンイベント」をテーマに、①メルカリ(座談会イベント)、②マザーハウス(立食パーティー)、③フェリシモ(ポップアップストア)の取り組みについてまとめます。

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▼ ①メルカリ(座談会イベント)


メルカリは普及期に入って以降、「広い世代の関心を取り込む」ことにチャレンジしています。各世代にアピールするには、「若年層に強いフリマアプリ」という限定的なイメージから脱する必要があり、2019年前後からは潜在ユーザーを意識したマーケティング展開が強化されるようになりました。

年始に行われたキャンペーンのメッセージは「はじメル」。メルカリ内でよく売買されている「スタートキット」(釣りや盆栽など)に着目して、「サービスの名称は知っていても利用するきっかけが無い」ユーザーに、新しいことをはじめるにあたってのメルカリのベネフィットを伝えています。

こうした流れの中で行われたのが、メルカリ初のユーザーを招いた座談会です。60歳以上のメルカリユーザー約20名が参加し、「中高年層にとってのメルカリ活用法」を情報交換するために行われました。(リリースによると20名の募集枠に170名が応募)

実施レポートを見ながら会の内容を追っていくと…

冒頭はメルカリ社員から調査結果のプレゼンテーションでスタート。イベント前に発表された調査レポート「一般家庭に眠るかくれ資産」・「50代~60代のメルカリ利用動向」をテーマにして、50代~60代にとってのメルカリ利用ポテンシャルや、この世代に売れ筋の商品(レコードなど)といった分析が共有されました。

本編の座談会は参加者同士の自己紹介からはじまり、メルカリ活用術を発表し合うワークショップを実施。参加者独自の出品術(出品時間帯・オリジナル商品・手書きメモなど)情報で盛り上がり、「終活を前向きに進めるきっかけになる」、「売り手と買い手がつながる体験が楽しい」、というサービスメリットが再認識されるきっかけに。

イベントレポートを見ていると、「中高年層ならではの使い方の特異性・活用ポテンシャル」がよくわかってきます。定量的なニーズを実証するにはサイトの購買データの方が有効ですが、前出の「終活に備えて使っている」「売り買いのつながりを楽しむ」という声は、座談会の参加人数以上に、ユーザーの意見として強い意義があります。

この事例は、単なるユーザーを招いたふれあい座談会イベントではなく、特定ターゲット層の利用ポテンシャルを同世代の言葉で見える化し、レポート報告により実際のユーザーの顔と声を届けることで、新スローガンを普及推進するコミュニティ施策になっています。

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▼ ②マザーハウス(立食パーティー)


マザーハウスは、社長の山口絵里子さんが新しい起業家として「情熱大陸」で注目されて以来、高い知名度と強いファンを持つ企業です。皆さんも仮に商品は持っていなくても、会社の名前は聴いたことがある・目にしたことがある、という方が多いはず。

同社では途上国に自社工場を持ち、現地の職人を雇用して製品をつくることにこだわり、バングラデシュの伝統的な素材を使ったバッグ生産に始まり、現在は他のファッションアイテム、ジュエリーなどを手がけ、アジア中心に各国で店舗販売しています。

創業初期から続けている取り組みに、ファンユーザーを集めた「サンクスイベント」があります(私も後から知ったのですが、既に10年以上!)。今年は2019年9月に東京と大阪の2会場で開催され、東京はミッドタウン日比谷を使って大々的に行われました。

サンクスイベント全体は、「新作のファッションショー・商品展示会・クラフトワークショップ・出版記念講演会」などのプログラムから成り、1日を通じて、ファンユーザーに向けて新商品を発表したり、会社の今後の方針を伝える内容になっています。

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このイベントの1日のトリとなっている催しが「ファンミーティング」です。ファンユーザー60名ほどを公募で集め、マザーハウスのスタッフ(店舗や本部スタッフだけでなく、生産国からも職人を招く)とファンユーザーが交流する場になっています。

ファンミーティングは立食パーティー形式で行われ、5名ほどでつくるテーブル単位でグループを組み、副社長から出されるお題ワークにチャレンジしました。そのお題とは、「マザーハウスでやって欲しい理想のイベントを考えよう!」というものです。

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運営側から配布されるキーワードリスト(ブランド・アイテム・生産国名・経営理論・過去イベント名など)をもとに、ファンユーザーが知恵を絞ってアイデアを出し、優秀アイデアは1年以内に実現させる!という経営コミット付きの即席コンテスト企画でした。

私も当日に参加していますが、グループ内には5年~10年というファンの方がいて、日本全国の店舗を回り歩いたり、初期生産のバッグを今も愛用していたり、お題を通じてユーザーのマザーハウス愛がよく引き出される集いになっていることが印象的でした。

同社では「ZADAN」というユーザー座談会をもとにした商品開発プロジェクトも行われており、(ベースは自社の理念と生産国の特徴に合わせつつ)要所でユーザーの声を採り入れ、ファンで居続けてもらうことに注力していることがわかる事例になっています。

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▼ ③フェリシモ(ポップアップストア)


フェリシモは、アパレル・雑貨を中心とする商品ラインナップを持ち、女性・子ども・ファミリー分野に強みを持つ会員制(定期便制)の通販サイトです。

同社が運営するサービスの中でひときわ人気を集めているのが、猫好きの人のためのコミュニティ「猫部」です。猫部は、「猫情報・猫写真の投稿、猫グッズの企画・販売、猫を支援するチャリティ企画」などから構成されています。

中でもメインコンテンツである「猫グッズ」は、会員アンケートをもとに開発されており、商品化されたものがサイトで買えるようになっています。

もともとフェリシモは本体サイトでも盛んにユーザーの意見を採り入れる商品開発を行っており、会員コミュニティ「モノコトづくりラボ」」では、アンケート・商品モニター・座談会などに参加できる機会が数多くあります。猫部でもこの企業体制は存分に発揮され、商品企画に強い企業色が垣間見えます。

活動の中でも注目したいのが、「ポップアップストア(期間限定店舗)」です。商品開発された猫グッズは先に紹介した通販サイトのフェリシモで購入することができるのですが、会員でない人も各地の商業施設や東急ハンズで買うことができるのです(!)

商業施設では各フロアー大小のイベントスペースを設けており、そこに2~3週間程度の短期間営業のテナントを誘致し、祭りの屋台出店のような区画運営をしているのですが、これを「ポップアップストア」と呼びます。

「猫部」のショップは各地の有力施設からひっぱりだこで、ウェブサイトの出店情報欄にはほぼ切れ目なく次の出店場所が公表されています。猫というテーマはファンが明快かつ強力で、アイテムもまた人目を引くので、テナントとして人気の理由がわかる気がします。

猫部ポップアップストアスケジュール

実はポップアップストアは、採算だけを考えると基本的には割に合いません。猫部の展開のように、全国各地様々な店舗・客層・空間に合わせて対応しようと思うと、空間制作・人員コストがかさみ、売上ベースで施策成果を計るとけっこう渋い結果になります。

たいていのポップアップストアの区画が3~4坪の狭いスペースになっているのはわけがあり、基本は「強い単品商品」を持つ事業者向けの区画なのです。すなわち、「チーズケーキ・和菓子・ジュエリー」など、取扱い商品がハッキリしている店舗向けなのです。

しかし「猫部」では、売上の一部を猫のチャリティ基金として運用しているように、「ロイヤルユーザーとつながること・その世界観をつくっていくこと」に注力しており、ポップアップストアはユーザー接点を広げる象徴施策として、ブランドの定着に大きく寄与しています。

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▼ まとめ

①メルカリ  (アプリの活用法座談会→新スローガンの普及推進)
②マザーハウス(周年記念立食パーティー→最重要企画コンテスト)
③フェリシモ (ポップアップストア出店→キラーブランドの定着)

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この3社の取り組みをまとめると、ユーザーとリアルの接点を持つというイベント手法は共通しつつも、目的に合わせてイベントフォーマットを変え、自社のサービス形態に合わせて最適なプロモーション活動を行っています。

各イベントは、単なるファンのおもてなし会ではなく、コアな事業展開につながるマーケティング&PRの場として運営されており、ユーザーを現場リサーチしつつエンゲージメントを高めていくコツを教えてくれる好例です。

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ファンコミュニティについて、もう少し勉強してみようかな、と思っていただいた方は、私が10月末に出版した『売れるしくみをつくる マーケットリサーチ大全』(明日香出版社)内に書いたコンテンツもぜひご覧ください。

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書籍では、「ファンミーティング開催法」という一節で、マーケティング活用・PR活用の観点からファンコミュニティについて論じています。本記事の事例を体系的に理解するのに役立つ内容なので、お近くの書店で見てみてくださいね。

次回は「後編:ファンサイト」をテーマに、①森永製菓、②オルビス、③無印良品の取り組みを取り上げる予定です。こちらもお楽しみに!

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