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エッセイを読む理由

最近、エッセイをよく読むようになった。ここ最近の話だ。昔は読書と言えば小説が中心で、ノンフィクションだとたまーに歴史系の本を読むくらい。

正直、エッセイの魅力がイマイチ分かっていなかった。壮大な物語があるわけでもない。役に立つ知識があるわけでもない。日常が描かれているだけなのに、どうしてみんな読むのだろうと。すごく不思議だった。

ところが最近、なんとなしにエッセイに手が伸びるようになった。「これはおもしろいエッセイだ」と紹介されていると、スッと手がAmazonの購入ボタンを押している。


ということで、ここ2年くらいで、色んな人のエッセイを読んできた。
お笑い芸人の又吉直樹のエッセイ。これは思わず1記事書いてしまうくらい良かった。

他にもお笑い芸人のエッセイだと、オードリー若林のエッセイも好きだ。

俳優の堺雅人のエッセイも読んだ。演技だけじゃなくて、こんなに文筆がある人とは思わなかった。

23年ベスト本は、写真家の星野道夫のエッセイだった。

それぞれのエッセイの良さは読書感想メモのブクログに書いているが、エッセイというジャンルの良さは、言語化したことがなかった。若い頃には全く興味が惹かれなかったこのジャンルを、どうして読み始めたのだろうか。漠然と思っていたけど、答えがでていなかった。


先日、『グッド・フライト、グッド・ナイト パイロットが誘う最高の空旅』という本を読んだ。

タイトル通りの本だ。旅客機のパイロットをやっている筆者が、パイロットの目線で空の旅について語った本。ジャンルとしてはこれもエッセイだ。

この本を読んで、ようやくエッセイに惹かれる理由が分かった気がした。エッセイの大きな魅力の1つに、他人の人生を体験できるということがあると思う。

他人の人生を「知る」でなく、「体験」する。これがすごく大事な違いだ。事実として、ある人のことを「知る」ような本は「伝記」や「歴史」といったジャンルになるだろう。そうではなく、「体験」するのがエッセイなのだ。


この本はそういった意味ではすごく分かりやすかった。飛行機に乗るという行為自体は、自分も何度も体験している。世界にありふれた、少しだけ特別なできごとだ。

自分は、別に特段の思い入れもなかった。しかし、この本の筆者は違う。パイロットとして、なにより空の旅を愛する人として、様々な感情を持っている。

そんな彼が、離着陸のとき、長距離フライトのとき、見知らぬ土地で過ごすとき、どう思っているのか。あるいは我々と同じように自宅で何気ない日常を過ごす時、何を感じているのか。それが文章でたくさん書かれている。自分が退屈にすごしている飛行機の中で、こんなにも感動している人がいる。その事実に驚くとともに、少しずつ、飛行機の旅が好きになっていく自分がいる。読み終わるころには、もう飛行機に乗りたくてしょうがない、そんな気持ちになってしまっている。


最初に列挙したエッセイも、確かにそうだった。なんでもない日常や他人との会話に対して、どう考えるか、何を感じているか。それがつらつらと書かれているだけだ。

しかし、それを読んでいると、不思議と筆者と同じ感覚になってくる。読んでいる間だけは、自分は又吉直樹になったり、堺雅人になったりするのだ。これこそがエッセイの醍醐味だろう。こんな感覚で、この人は人生を過ごしているんだなと、一緒に体験できる。

優れたエッセイの書評に、「共感できる」なんて書かれ方をすることがある。自分も、過去そう書いてしまった本もあるが、ちょっと違うかもしれない。だって、自分は飛行機が好きじゃなかった。でも、この本を読んでいる間は筆者と同じくすごく空の旅を愛していた。そして、今は少しだけ、飛行機のことが好きになれるかもなと思っている。

他人の人生を体験し、それがちょっとだけ、自分の人生に残滓を残す。それがエッセイを読むことかもしれないなと思った。




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