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かんたんでいいんだよ アニメ『Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-』感想

DIY。Do it yourself。日本の古い言い方だと、「日曜大工」になるだろうか。プロの仕事に任すのではなく、簡単なものなら自分で作ってしまおう。そんな趣味のことを指すことばだ。

この単語に対して自分は正直よいイメージを持っていなかった。その理由は、単純に自分が不器用すぎるから。ガンプラですらうまく作れない自分が、木材から、家具を作り出したりできるはずがない。そんな諦めと、こうした趣味にハマれる人への羨望の気持ちがこの単語にはあった。

そんな自分がアニメ『Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-』を視聴した。

タイトル通り、DIYを軸において作られたこのアニメ。Youtubeでたまたま出会ったOPの素晴らしさに惹かれて視聴しはじめたのだが、正直、自分のコンプレックスをほじくり返されるんじゃないかというドキドキがあった。気軽にDIYをしていって、とんでもないオシャレな作品を作り出す女子高生たちに醜く嫉妬してしまうのではないかと。

全然そんなことはなかった。むしろ、長年の自分の不器用さや要領の悪さに対して、救いのようなものがあったような気もする。少なくとも、DIYに対しての苦手意識なんかはなくなってきた。


テーマ

この作品の中で、すごく好きなセリフがある。まずはそれを紹介したい。

ひょんなことから廃部寸前のDIY部に入部した不器用少女「せるふ」が、部員集めに奔走する、というのが一言で書いた本作品のあらすじだ。

第3話では、12歳の天才少女がアメリカから飛び級で転校してくるところから物語は始まる。その天才少女が、放課後、DIY部の部室の前で一人シクシクと泣いているではないか。

せるふたちは事情を聞いたり、DIY部に勧誘したりもするが、天才少女は
「DIYなんてそんな原始人みたいなことしないワヨ笑」
と馬鹿にする。それでも定期的にDIY部の部室を訪れて、彼女らをからかう。それにカッときた部長は、思わず
「じゃあ部室にもう来るな!」
と怒ってしまう。


その後から、部室に来なくなる少女。少女は、同い年もいない異国の土地で、淋しくて、構ってほしくて部室を訪れていたのだろうなと思うと、言い過ぎたと反省する部長。
気まずくなる部員たち。そんな時、主人公のせるふが、こう言う。
「じゃあ迎えにいこうよ!」

それを聞いて、部長がこうつぶやく。

迎えにって、そんなかんたんに…
いや、”かんたん”でいいんだな、こういうのは。


なんだが、すごくジーンとしてしまった。複雑な人間関係だったりとか、細かい思いやりとか、そんなごちゃごちゃと考えずに、シンプルに、かんたんに、「一緒にやろう!」なんて、そんな一言を最後にいえたのは、いつだろうか。

そして、この「かんたんでいいんだな」というセリフは、この作品を通して一貫しているテーマな気がした。


趣味ってこういうことだよね

本作品の主人公、「せるふ」はとんでもなく不器用な主人公。

顔や足なんかにつけられた絆創膏からわかる通り、ぼーっとしていて、いつもどこかしらにケガをしている。不器用な視聴者が感情移入できるように作られたキャラなのは一目瞭然だ。
こんな不器用さでDIYなんてうまくやっていけるのか?と思っていたら、案の定、なかなかうまくいかない。

アニメ的に誇張された彼女の日常生活での不器用さは、「そうはならんやろ」なツッコミが入るレベルだった。しかし、何か作業する際の不器用描写は同じく不器用な人間が見ていると、少し胸が痛くなるくらい、共感できるものだった。

曲がって入る釘、書かれた線通りに裁断できず歪になった木材。すっごくわかる。手先が器用な人間にとっては、なんの苦もない作業なのだろう。自分も頭の中ではなにをすればよいのかわかっている。しかし、それを実行すると、全く異なる形になって出てきてしまう。

せるふが最初に打った釘。
まがって、木材にも傷がついている。


じゃあ彼女が立派なDIY職人の少女に成長する話かと言えば、そんなこともない。彼女はずっと不器用なままだ。彼女が作り出す作品は、どこかしこに失敗があるようなものばかり。

でも、それでよいのだ。だって、お金をもらってプロとして仕事をしているわけではない。あくまで、楽しむために、「自分で」作っていくことこそがDIYの楽しみなのだからと、周りのキャラクターは彼女の作品を肯定する。


最近の趣味というと、やれインスタ映えだので、オシャレで優雅で自慢できるものじゃないといけないというプレッシャーがあるように思える。

DIYが趣味です、なんて言うと、間違いなく他人からのイメージは、オシャレなウッドデッキや小物を作っているような映像になるだろう。そうじゃなくてもよいのだ。自分が楽しめれば、ネジが歪んで不格好でも、かんたんなものでもよい。それが趣味で、DIYだ。

彼女と、それを支えるDIY部の仲間たちを見ていると、自分のなかで勝手に上がっていた、DIY、ひいては「趣味で〇〇やってます」と宣言することのハードルが下がっていく。自分もこういうことを趣味にしていいんだなと思わせてくれる。趣味なんて、かんたんでもいいのだ。


動きを優先したキャラデザ

ちょいとメタイ話になるが、今作品はすごくキャラデザも「かんたん」だ。言い換えると、シンプルなキャラデザ。

必要な線は少なく。ハイライト何かもすごくシンプルにしていて、影なんて必要最低限の入れ込みしかしていない。


これがすさまじいのが、手抜きっぽく感じさせていないこと。何も考えずに見ていたら、何も違和感なく視聴して、かわいい少女たちの会話を楽しむことができるだろう。

このセンスが凄まじい。そして、このシンプルさは楽をするためではない。


今作品、日常アニメだけども、すっごくよく動くアニメーションが描かれる。単純にヌルヌルと動かすのではなく、アニメーターがのびのびとキャラたちを演技させているのがよくわかるのだ。階段の上り下りや物を運んだり、そんな日常の動作も見ていて面白い。

この作品、どこかの4コマ漫画をアニメ化したような内容に見えて、実は完全オリジナル作品なのである。だからここまでシンプルなキャラデザにし、そしてそれに合うような背景美術にすることができたのだろう。

脚本や絵コンテなんかも、4コマを無理くりアニメにしたような不自然さもなく、24分をかけてしっかりと1つのお話として作っている。

アニメーター、ひいては関わるすべてのアニメスタッフが、のびのびと好きな作品を作ろう。そんなメッセージを自分は感じた。


オリジナルで作ってくれてありがとう

オリジナル日常アニメ、となるとなかなか売れづらいジャンルだけども、そこによく挑戦してくれたと、まず感謝をしたい。先ほどあげた、脚本やキャラデザの自由さを感じられたり、原作がないからこそのワクワクを体験できるのはオリジナルならではだから。

しかも、既存IPがなくただでさえ不利な状況で、あえて「かんたんな」ストーリー、キャラデザ、シチュエーションで勝負していく。この男気がすばらしい。

キャッチーなあらすじも、複雑な設定も、映える美麗なイラストもない。
でも、アニメ作品としてクオリティが高く、魅力的な作品になっている。
そんな、すごく難しいことを成し遂げた作品だと思っている。

あまり日常系アニメが好きじゃない自分が、完走してこんな長文記事を書いてしまうくらい、すばらしい作品。日常系アニメを見たいなと思っているなら、強くオススメしたい。


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