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帰ってくるの。

(先日の記事『週末ヒロインからの卒業』と内容がリンクしています。が、この記事だけでも読めます。)

日曜日の深夜。趣味のスポーツの遠征に出掛けていた夫が帰ってきた。
金曜日の仕事は休みをとって、木曜日の夜から出掛けていた。
足掛け4日の不在。ちなみにその前の週末も、土日両日とも彼は遊びに行って家を空けていた。
わりと寂しかったので、月曜日の夜、スマホをいじっている夫にこんなことを言った。

「一緒にいたいんだけど。」

すると夫は、スマホの画面から目を離すこともなく、こう言った。

「一緒にいるよ?」

いや、うん、そうなんだけど、そうじゃなくて…

「週末、出かけちゃっていなかったじゃん。先週も先々週も。」
「でも平日はいるよ。」
「いないじゃん、昼間は。」
「夜はいるよ。」

だから、その、そうじゃなくて…!

「帰ってくるの。」
「え?」


「俺は必ず帰ってくるの、ゆきさんのところに。」


そう言って彼は、心底嬉しそうに、幸せそうに笑った。
自分の言った言葉を、うん、そうだ、そのとおり、と噛み締めるかのように。

私は、何も言えなくなってしまった。

私のところに帰ってくることが、そんなに嬉しいのか。そんな風にくすぐったそうに笑うくらい、幸せなのか。私、そういう、大事な場所に、なってるのか…って、おい!鼻をほじるな!というか、ティッシュを使えー!!

「…帰ってくるの?」
何と言えば良いか分からず、私はティッシュを手渡しながら彼の言葉を反復した。
「そうだよ。帰ってくるの。」
聞いてなかったの?という感じすらなかった。もはや何も考えていない、これぞまさにオウム返しという感じの返答をしながら、鼻くそをティッシュで拭いている。ティッシュをゴミ箱に投げ入れると、すぐにスマホゲームの世界へ戻っていった。こちらを見てすらいない。

どうすればいいんだ私は。この出来事を、どう処理すればいいんだ。

狐につままれたようで、それ以上文句を言う気にもなれず、全くもって消化不良、不完全燃焼のまま、私はよろよろと立ち上がり、皿を洗いに行った。

必ず帰ってくる、かあ…。

相変わらず「恋の相手」でいたい自分と、「帰る場所」という新しい幸せに魅かれる自分。

二人の自分の戦いは、しばらく続きそうである。


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