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話したがりの彼と聞いてほしがりの私の話

仕事から帰ってくると、あるいは出張中に電話をすると、彼は「あのね、あのね、」と言って話し出す。
私が全く興味を持っていない彼の趣味の話も含め、聞いてもいないのに次から次へ話したいことを話し出す。

彼は、話したがりだ。

彼が話している間、私はたまに思う。
「(聞いて欲しいことあるんだけどな・・・。)」

それは例えば昼間に届いた書類のことだったり、買い物中にあった嫌な出来事だったり。
人付き合いの少ない私の嬉しいことや楽しいことといえば、ほとんどが彼に関することか、個人的な趣味に関することで、私はそれらを彼に話したいとか聞いて欲しいとかあまり思わない。私の個人的な話を、彼が面白がるとは思えないからだ。

だから私が話すのはいつもどうでもいい話ばかりで、そういう自覚があるから「ちょっと聞いて。」と自分から話し出すことができない。
面白くないとか面倒くさいとか、思われたくない。
私の話、ひいては私という人間が、そういう風に思われそうで怖い。

私がそんなことを考えている間にも、彼は楽しそうに何かを話し続ける。
この人はどうしてこんなに素直に話せるんだろう、と思った。

それはたぶん、信じているからだろう。
自分と、自分の話したいことと、そして私。
その全てを信じているから、自分が好きなものや楽しい嬉しいと感じたことを、私に話してくれるんだろう。

そして私は、信じていない。
自分を信じていない、つまりは自信がないし、自分が信じていない自分を他人に信じてもらえるとも思わないから、他人も信じていない。
信じられないから、傷付けられるに違いないと怯えていて、それは私の弱さだ。

だから本当は聞いて欲しいのに、自分から話さない。
相手が「どうしたの?」「何か話したいの?」って聞いてくれるまで、
「こっちが聞きたいんだから、遠慮せずにどうぞ話して。最後まで興味を持って聞いてあげるから。」って言ってくれるまで、
待っているんだ。

それなのに私は、そうやって自分から話し出せないことを、話したがりの彼のせいにしていた。そうすることで、自分の弱さに気付かないフリをしていた。
でも本当は心の奥底でとっくに気付いていて、受け入れたくなかっただけなんだと思う。

何より、私が聞いてほしがりで彼が話したがりだから、私は彼を好きになった気がする。面倒くさいと思うこともあるけれど、それでもやっぱり好きとか嬉しいとか楽しいとか、そういうことを幸せそうに話す彼がいいなと思う。

開口一番「話したいこといっぱいあるの!」と言ってくれる彼を、そして彼が話したいと思う相手である私を、私はいつか信じられるようになりたい。

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