【おすすめ本】僕が僕になるまでの長い助走(西加奈子/サラバ!・夜が明ける)
今週もこんにちは。日本に帰ってきました。思ったより、寒い! セーターを着ています。
帰路の飛行機と車で西加奈子さんの本を続けて読みました。「サラバ!」(2014年)と「夜が明ける」(2021年)です。西さんは「サラバ!」で第152回直木賞を受賞しています。
「サラバ!」は主人公の歩(あゆむ)の一風変わった家族や友人、恋愛や成長を描いた長篇小説。「夜が明ける」は主人公の「俺」とその親友アキの人生を貧困や過重労働をテーマに描いた作品です。
▼▼今回の本▼▼
個性的な「サラバ!」と匿名的な「夜が明ける」
西さんの近著2作ですが、共通点と対照的な点があります。
共通点は、どちらもひとりの男性の生まれてから30代半ばまでの人生の軌跡が描かれていること。どちらも挫折を味わい、自分の生きていく道を定めるまでが作品の主題となっています。
対照的な点は、「サラバ!」の主人公歩が個性的な人間であるのに対し、「夜が明ける」の「俺」は、名前がない匿名的な存在であること。この違いは書き出しの一文から明らかです。
「サラバ!」はいかにも主人公!な登場ですが、「夜が明ける」は主人公ではなくその親友アキの話から始まっています。「サラバ!」は主人公である歩に、「夜が明ける」は主人公の周辺の人物や社会に、スポットライトが当たっているのです。
キャラクターと明るさ
西さんすごいなと思ったところは2つあって、ひとつはキャラクターの強さ。脇役一人一人もくっきりした輪郭があって、魅力的。「サラバ!」の主人公の親友(鴻上なずな)が好きでした。
部屋が汚いのは平気でも、ものが増えるのが苦手な女の子。気持ち分かるなあと思ったり。
2つ目のすごいところは、どちらもかなり重たい内容なのに、どこか爽やかな明るさがある作品に仕上がっていること。無理して明るく書くのではなく、自然と明るい作品に仕上げるのは、西さんの魅力だと思います。
(でも「サラバ!」の主人公が、あるエジプト人の一家に「また会いに来る」と約束をしたのは気になりました。途上国にいる現地の人と関係性をつなぎ続ける、というのは、僕自身が一生かけてやろうとしていることでもあって、すごく大変なことなのに、簡単にきれいに描かれてしまった気がして、かなしかったな)
両作品とも全篇緻密に書き込まれていて、そこも魅力でした。ひとつひとつの小さな出来事が転がり、かけ合わさって、固有の形に膨らんでいく。一気読みできる作品をお探しの方にお勧めです。
(おわり)
▼▼前回の本▼▼
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