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組織の不正や人的トラブルをどのようになくすか?『図解 人的資本経営』

2024年1月26日発売の『図解 人的資本経営』は、2023年3月期決算以降、上場企業に対して情報開示が義務化されたことで注目されている「人的資本経営」について、その全体像と自社への適用の仕方が誰でも平易に理解できるよう[50の問い+フレーム+具体的な事例]をもとに解説している1冊です。

今回は本書より、企業の不正やトラブルを防ぐ方法について紹介します。

※本稿は『図解 人的資本経営』を一部抜粋・再編集したものです。

トラブルを引き寄せる3つの要素とは

「会社で働く7.4人に1人」。これが、何を示す数字か分かりますか?

不正に関与したり、目撃したりしたことがある人の割合です。つまり、1,000人が働く会社では135人が何らかの不正に関与したり、目撃したりしているということです。
不正の発生は会社の評判に大きく影響することはもちろん、そこで働く人の幸福度や就業意欲にもマイナスに働くとされています。

こうした不正やいわゆるコンプライアンス違反はなぜ生じるのでしょうか?
一般的には3つの要素が絡み合って生じると言われており、これを「不正のトライアングル」と呼ぶこともあります。

<会社で不正が起きる3つの要素>
A:動機(本人が抱える問題や会社からのプレッシャーがある)
B:機会(不正をするチャンスや権限がある)
C:正当化(不正を正当化できる状況や本人の特性がある)

例えば、多額な借金がある経理社員がいて(動機)、会社としてお金の管理がルーズで(機会)、その社員が給与に不満を持っていた(正当化)とします。こうした状況が揃えば不正が起こりやすいとされています。ある意味、「個人側の問題」と、「組織側の問題」の掛け合わせで不正が生じるのです。

「北風」と「太陽」のミックスで不正を防ぐ

では、こうした不正はどのように防いでいくべきなのでしょうか? 強制したり、注意を厳格化したりするだけでは根絶できません。イソップ物語『北風と太陽』の「北風」と「太陽」のミックスで対応することが有効です。

「北風」と「太陽」の対処法

「北風」とは、「内部統制フレームワーク」を用いてハード面(仕組み面)をきっちりと整えることです。こちらの詳細は専門書に委ねますが、簡単に説明すると、以下の6つの方法を組み合わせて対応します。

<内部統制フレームワーク(「北風」的対処法)>
①統制環境・・・経営方針や組織風土、権限設定や人材管理の方法
②リスク評価・・・リスクを識別して、評価して、対応する仕組み
③統制活動・・・分掌・管理規程や業務マニュアル、現場でのチェック方法
④情報と伝達・・・必要な情報が正しく管理・処理され関係者に伝わる仕組み
⑤モニタリング・・・管理者や第三者などによるチェックの仕組み
⑥IT への対応・・・IT の効率的活用や、運用・安全性確保の仕組み

これは世界標準の方法論として普及しているもので、内部統制にかかわる方はよくご存じでしょう。しかし、内部統制はその厳格さを突き詰めていくと、性悪説(人間の本質は悪である)に基づいた人の取り扱いになってしまいます。

例えば、備品ひとつ購入するのにも、規程やルールでガチガチに固められており、上司のチェックが何度も行われ、監査もされるという状況があったとします。
こうした会社で働きたいでしょうか?
おそらく「自分は信じられていないんだな」と感じ、モチベーションが下がってしまうかと思います。また、当然のことながら業務効率も下がりますし、内部統制コストも大きくなってしまいます。

ゆえに、人間らしさを尊重した「太陽」のアプローチも組み合わせることが重要です。具体的には「不正のトライアングル」で挙げた動機・機会・正当化の状況をソフト面(職場環境の整備など)でほぐしていくのです。

<人間らしさを尊重した取り組み(「太陽」的対処法)>
①動機・・・本人が抱える問題や会社からのプレッシャーをソフト面で解消する
②機会・・・不正をするチャンスや権限をソフトの面で解消する
③正当化・・・不正を正当化できる状況や本人の特性を把握し、解消する

まず、「①動機」について。
本人側の問題には立ち入ることが難しいかもしれませんが、上司と本人の間での信頼関係があれば、問題を共有してもらったり、一緒に解決していったりするチャンスが生まれるかもしれません。
会社からのプレッシャーについては、本人の仕事、組織文化、上司という3つの観点からの対応が必要です。まず個人の仕事として過大な目標を設定していないか、期限に無理がないかを確認することが必要です。そして、スピード重視のせっかちな組織文化に傾きすぎていないかもチェックするとよいでしょう。これは結局、上司(マネージャー)の口癖で分かります。「今すぐ」「なるはや」「スピード」「もっと」などが口癖になっている職場は危険度が高いので、対応が必要でしょう。

次に「②機会」について。
これは、会社側の仕組みやルールに抜け穴がある場合もありますが、「業務の属人化」も大きな原因になっています。「その人じゃないと分かりません」という状態だと、やりたい放題になってしまうばかりではなく、その人が休んだり居なくなったりすると、業務が止まってしまいます。
こうした属人化を解消するには、意図的に組織をかき混ぜることが有効です。例えば、公募や社内FA制度を活用する、組織横断プロジェクトを立ち上げるなどです。また、Google社では、週に1度、各チームからランダムに選ばれた人を強制的に自宅勤務させています。そのメンバーは他の人からの質問に一切答えてはいけません。これによって、仕事や情報の偏りを判断し、リスクに備えているのです。こうした意図的に“障害”を発生させ、本当の障害に備える手法は「カオスエンジニアリング」とも呼ばれています。

最後の「③正当化」について。
不正を正当化できる状況とは、「自分が正当に扱われていない状況」ということに尽きます。それは報酬面だけではなく、キャリア面(昇格・昇進)や長時間労働、上司からの扱われ方などさまざまな側面があります。

まさにここは、人の育成や活躍、維持がどこまで高いレベルで実現できているかが問われているのです。実は前述した「内部統制フレームワーク」も限界があります。例えば複数人(例えば申請者と承認者)が共謀して、本気で不正を働こうとする場合などは防ぎようがありません。ゆえに、素晴らしい職場や組織をつくりあげることで「それを壊したくない」という気持ちに働きかけることが最も有効な策といえるでしょう。

労務やコンプライアンス違反を防ぐ方法

ここまで不正というテーマに広く触れてきましたが、人と組織の領域に焦点を絞ると「労務管理上のコンプライアンス違反やトラブルをどのように防ぐか」ということが重要なテーマとして挙がると思います。労務上の違反は、社員と会社の間の紛争に発展しかねません。
近年の労働紛争で最も多いのが、「いじめ・嫌がらせ」で「労働条件の争い」「退職・解雇」などが続きます。こうした問題は結局「ルールがない・不適切」か「(主にマネージャーの)知識・意識が足りない」のいずれかで生じます。前者は適切なルールを整備すればよいのですが、問題は後者です。

知識や意識の醸成に向けては、研修やe-learningで「これは知っておくべき」「こんな言動をするとこんな悪影響がある」という内容を学んでもらうことが一般的です。しかし皆さんも経験があるかもしれませんが、翌日には忘れてしまいます。
そこで、知識の定着や意識づけにおいて有効なのが「自分ごと化」です。
例えば、総合エンタテインメント企業のセガサミーでは、管理職に「リスクマップ」を作成してもらい、自身が晒されうるリスクを実感してもらっています。また、グループ会社の社員とコンプライアンス基準や取り組みに関して討議してもらう機会を設定しています。これは「あの会社はこんなことまでやっているんだ」「自分もきちんとやらなきゃ」という気づきにつながり、社員からも好評を得ているようです。


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