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【九州篇】日本全国の支援団体と繋がりたい「全国出張プロジェクト」


こんにちは。
NPO法人ダイバーシティ工房アウトリーチ事業部スタッフの春本です。

ダイバーシティ工房では、今年度の9月から3月にかけて「全国出張プロジェクト」と称して、
全国各地の子ども若者支援に取り組まれている団体さんの活動を直接見に行く取り組みを開始しました。

プロジェクトを通して、全国の団体さんの活動を勉強して私たちの本拠地・市川市の地域づくりへ還元したり、
むすびめに来られる全国の利用者さんへの情報提供・連携に活かすことが目的です。

「むすびめ」とは
こどもと家族の総合相談LINE窓口です。
生活をする上でのちょっと誰かに話したいこと、知りたいことどこに相談していいかわからないことについて、
情報をお伝えしたり、一緒に考えたりする無料のLINE窓口です。内容や年齢にかかわらず、だれでもつかうことができます。
誰かの手を借りたいなと思った時に、ちょっと相談してみると、新しい繋がりが見つかるかもしれません。
生活の困りごと、悩みごとを、ちょっと話してみませんか?

プロジェクトの記録を公開しながら、日本全国の支援団体から得た学びを共有したいと思います。


過去のレポートはこちらです。


福岡の特定非営利活動法人SOS子どもの村JAPANさんを訪問

今回の訪問先は九州地方。
むすびめの相談では、九州在住の利用者さんの割合も5%弱ありますが、私達も九州の地域資源についてはまだまだ知識不足であること、
最近は子育てや家庭の悩みで相談にいらっしゃる利用者さんが増えていることもあり、子育ての支援団体、工房と事業内容が似ている団体さんを訪問させていただきました。

参加したのは、
保育園の訪問にわくわくが止まらない、保育事業部の浅川と、九州初上陸!の生活支援事業部スタッフの池田、
そして今年アウトリーチ事業部に入職した私春本の3名です。
私自身はむすびめでの連携に活かす目的のほか、居場所づくりに興味もあり、全国の団体さんの運営方法を参考にしたい思いもありました。

3人中2人が方向音痴。逆方向の電車に乗ってしまったり、違う道をどんどん進んでしまったり。そのたびに「こっちじゃないですか?」と気づいてくれる人がいたから、なんとかなりました。

1日目「特定非営利活動法人SOS子どもの村JAPAN」
2日目「認定NPO法人トナリビト」
3日目「そらのまちほいくえん ひより保育園」

特定非営利活動法人SOS子どもの村JAPANさんは、福岡県を拠点として、「地域社会から子どもと家族をとり残さず、すべての子どもが愛のある家庭で暮らせるように」と、子どもの村での育親(里親)事業、子ども家庭支援センター、子どもショートステイ、里親、ヤングケアラー相談窓口など、様々な事業を行われている国際NGO団体です。

案内してくださったのは、事務局次長の藤本正明さんと、ヤングケアラー事業担当の西原雅子さんです。
西原さんは、昨年ダイバーシティ工房の地域の学び舎「プラット」へお越しいただいたご縁もあります。


増加している子育て家庭のショートステイニーズに応える

子どもを一時的に預かり、さまざまな支援に繋いでいく役割を担う「子どもショートステイ」は、どんな理由でも預かりを受入れ、その需要は大きいと伺いました。

むすびめの相談を受けていても、相談者さんから「少しの間子育てから離れたい」という声が少なからずあります。

福岡市の事業方針としても「理由を聞かないで預かる」とのことで、ショートステイ事業を市役所の窓口が受け付けているのは前衛的と感じたし、公的機関が地域のニーズに合わせて、地域の団体とともに子育て支援をやっていこうとしている様子はとても心強いものだと感じました。

また、ショートステイでは、より正しい・望ましいと思うことがあっても、その子どもが家庭でいつも通り行っていることを、同じように実現できることを大事にしているそうです。
例えば、こちらから見ると不自然な歯の磨き方をしていても、その子どもにとっては当たり前で家庭の習慣となっているのなら尊重する、と言ったスタンスをとるとのこと。

そんな価値観の違いに丁寧に気づいて対応しながら、増加している子育て家庭のショートステイニーズに応えているのは本当にすごいと思いました。

育親(里親)をチームで支える

子どもの村では、さまざまな事情で家族と離れて暮らす子どもたちを、SOS子どもの村の育親(里親)が、スタッフや子どもに関わる専門家とチームとなって一緒に育てています。
育親の養成についても力を入れていて、特に自己覚知が大切とのことでした。育親になる方が、自分が子どものころに育てられた経験を通じて、自分自身の養育傾向を知っておくことは、子どもを受け入れる際にとても重要になるとのこと。

自己覚知とは、自分が見聞きしたこと、触れたこと、体験したことから感じる自分の受け止め方や反応の仕方で自己を認識することである。

https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/h19-2/html/5_1_2.html#:~:text=%E4%B8%80%E6%96%B9%EF%BC%8C%E8%87%AA%E5%B7%B1%E8%A6%9A%E7%9F%A5%E3%81%A8,%E8%AA%8D%E8%AD%98%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%A7%E3%81%82%E3%82%8B%E3%80%82


実際に育親をされている方についてお話をお伺いした際、ひとりで3~4人も子どもを受け入れ育てていらっしゃることに驚きました。育親を、ファミリーアシスタントや様々な専門家で支え、多くのお子さんを育てているそうです。
子どもの村の居住施設内で専門家のサポートを受けながらともに生活を送る育親と子どもたちは、5~7年後には子どもの村を卒業して地域で暮らすようになります。

子どもの居住施設の設置については、過去に地域の反対を受けたこともあったそうです。そこから地道に話し合い、今では地域で温かく見守られながら暮らしていることは印象的でした。


公的機関との連携のあり方

ヤングケアラーとは、子どもが手伝いをすること=ヤングケアラーではなく、
「自分の年齢にそぐわない責任を負うような役割を担っており、子どもの権利が守られていない状況にある子どもを指す」
と改めて伺いました。

ヤングケアラーに関わる上で大切なのは、子どもに対しては、ケアしていることを否定しないこと。親に対しては、子どもが家族のケアをしていることを批判しないこと、だそうです。

ケアラーの体験談を聴いたりケアラー同士でお話をする場として「サロン」を対面とオンライン両方で開催されています。

現場で実践してみての実際の様子、当事者の声を行政へ伝えていくことも大事な活動の一つです。


熊本県の認定NPO法人トナリビトさんへ

認定NPO法人トナリビトさんは、熊本県を拠点として、親を頼れない10代~20代の若者とその関係者を対象に自立支援事業や就労支援事業などの支援を行い、地域コミュニティへの働きかけを通じて若者が自分らしく生きることができる社会を目指すNPO法人です。

シェアハウスを始め、相談窓口、居場所スペース、緊急シェルター、就労のサポートなど、「親を頼ることができない若者たち」を幅広く支援されています。

お話をしてくださったのは、代表の山下祈恵きえさん。

熊本には若者をサポートしている団体があまりなく、10代や思春期世代の受け皿がないのが、現状の課題だとか。
トナリビトでは、勉強や自立よりも先に、相手を愛して受け入れ、関係を作っていくことをまず大事にし、法人の土台にされているそうです。


生活の主体はあくまでも若者たちのシェアハウス

自立支援シェアハウスIPPOいっぽでは、平日の夜はご飯を提供し、朝食・昼食や土日の食事は各自でというスタイル。
「ここのシェアハウスに家賃を払っている以上は食いっぱぐれしない」というくらいの感じで、衣食住や必要なサポートを提供しつつ、自立に向けた準備ができる場であるよう気を配っているそうです。

自立することを目標としている中で、生活の主体はあくまでも若者たち、相手も一人の大人だというスタンスで関わっておられます。
シェアハウスは15歳の若者も利用しますが、ここで暮らす以上はお互いに大人として関わるよ、という話をしているそうです。

私たちも自立援助ホームを運営する中で、自立に向けた準備を進めることと、これまで安心して生活することが難しかった10代の女性たちが心身ともに休まりそれぞれのペースで進んでいってほしいという思いの間で、どのような関わり方が最善なのか考えることも多く、自立に向けた支援へのあり方やスタンスに、拠点から遠く離れたところで改めて目を向ける時間にもなりました。


代表みたいな人がたくさん増えるのは求めていない

山下さんやスタッフの方の人柄に触れ、なんて信頼感のある団体さんなんだろう!ということがメンバー一同の感想でした。

シェアハウスの入居面談では、山下さんと入居者でフラットな関係性を築けるよう深く話し、その後も毎日一緒にシェアハウスで食事をとり、若者たちといつでも相談できる関係性を保ちながら、寄り添っているとのこと。
学校に行けなくても、仕事につけなくても、生きていてくれればいい。「愛されている」と感じてほしい、という山下さんの思い。

同時に、「私(山下さん)みたいな人がたくさん増えるのは求めていない」と、スタッフがそれぞれの強みで役割分担できる工夫もされていました。

「スタッフが健康でないと若者のために動けない」と、スタッフが気持ちを吐き出せる環境・弱さを見せられる関係づくりを大切にしていました。スタッフの体調を考え居場所を1週間お休みしたこともあるそうです。
担当スタッフは閉めちゃいけない!と責任感で押し切ろうとしたけれど「それよりもスタッフの心身の健康が大事」と閉める決断をしたそうで、その判断をするのが代表だと山下さんは言います。

若者との関わりの中では、自分自身とすごく向き合う場面があります。
しんどいな、と感じるときは、自分自身の内面で解決できていないことが理由だったりする。そういうのを手放していかないといけないし、「自分のアイデンティティと若者の支援とを結びつけてはいけない」ということも重要だそうです。

確かに私達も若者と関わる中で、うまくいくかどうかで自分自身も大きく左右されてしまうことになり、自分のために無意識に若者をコントロールしようとしてしまう恐れもあるかもしれないと感じます。

入居者との関係構築を大切にしていることや、支援者側の健康も重要視する視点、支援者はチームであるということが学びとして心に残りました。


街に出て行ってつながる企業主導型保育園2つを訪問

霧島市の「ひより保育園」と鹿児島市「そらのまちほいくえん」はともに企業主導型保育園。

「こどもの生きる力を育む」「食べることは生きること」「こどもたちの親友でありたい」というコンセプトを基にした丁寧な保育・食育と、SNSを活用した質の高い情報発信が特徴です。

案内してくださったのは、ひより保育園園長で、そらのまちほいくえん取締役社長の白水純平さん。
大学卒業後、コンサルティング会社に勤務。「大人と子どもが人生を楽しみ、豊かに暮らす場をつくりたい」という思いから、子育て中の友人4人とともに、保育園設立に動き出します。
その後2017年に、霧島市で初となる企業主導型保育事業「ひより保育園」を開園。2018年には鹿児島市内に姉妹園の「そらのまちほいくえん」を開園。

当日は、午前中に鹿児島市内のそらのまちほいくえんを訪問。
その後、法人が運営されている日当山無垢食堂ひなたやまむくしょくどうで、白水さんも一緒に食事させていただき、その後霧島市内のひより保育園を訪問しました。

保育園を商店街の中に配置することで、近くを通る保護者が増えて、保育園近くの空き店舗に保護者層をターゲットにしたお店が増えたそうです。

保育園利用者は周辺の商店街で勤務している方が多く、例えば子ども達が散歩で商店街を歩くときに、他の商店街の人とも接点を持てたり、親が商店街を利用したときに、「〇〇ちゃんの親」という形で輪が広がっていく。そんなふうに子どもを通して地域の人々がつながることができると白水さんからお話を伺いました。

「目的を持った交流だけになってしまうと、形式ばった交流になってしまう。それだけでなく、日常の延長として自然なつながりを持っていくことが大切。〇〇のお店の〇〇さん、そらのまちの〇〇ちゃん、という形で、一人ひとりとつながる」

0〜2歳の頃から、街に出て行って交流するというのが大事。大人と一緒に道中でのゆっくりしたペースでの街との関わりを大事にすることや、
4〜5歳になって、ただ「散歩で公園へ行きます」と公園だけが目的になるのではなくて、道中で知っている人、街との良いつながりや関係性を作っていけるように心がけているそうです。

食堂と保育園では、いずれも近隣の農家さんからの食材を使っているそうで、徹底して地域や街とつながり生まれる関係性を大切にしておられる様子でした。

自然のものが多く、遊具の少ない園庭:様々な大きさの岩を配置して、こどもが見立て遊びをしやすいように設計されている


保育園の中心に「調理室」があり、保育園内で移動するたびに調理室を覗ける。食に関心を持てるようなつくり


人の温かみが感じられる関わり方

今回は、子ども・若者・家庭への支援が充分に行き届いていない現状の中で、既存の仕組みにとらわれずに柔軟なサポートを提供している団体さんを訪問できました。
リアルな人とのつながりが不足している現代に、人の温かみが感じられる関わり方として、どんなことができるかとても考えさせられました。

また、地図やデジタルデバイスが発達しても、実際に歩きながら、各施設が街のどんな雰囲気の中にあるのかを体感したり、現地の交通機関の使い勝手を知ることで、当事者の気持ちになって、利用しやすさや行きたいと思える場所かどうか、考えを巡らすことができたのも良かったです。

実際に現地に行って直接顔を合わせて話したからこそ得られた信頼感があり、出張に行ってよかったと、メンバー同士でも話しました。
むすびめの相談者さんに「ぜひ紹介したい!」と思えたことが大きな糧でした。


まだまだ続く全国出張、引き続き学びを共有させていただきたいと思います。お楽しみに!

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「全国出張プロジェクト2023」は、厚生労働省による孤独・孤立対策のための自殺防止対策事業の支援を受けています。


ダイバーシティ工房は「制度の狭間で孤立しやすい人たち」が、困った時にいつでも相談できる地域づくりを目指し活動するNPO法人です。

SNS相談むすびめのほか、学習教室、コミュニティカフェ、保育園、食料支援、シェルター運営など地域の0歳~20歳の子ども・若者とその家族を主な対象に活動を行っています。

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