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131 問題の本質


はじめに

賄賂とは、公務員またはこれに準ずる者が職務に関して受け取る違法な報酬のことを意味します。また、これは金銭・物品ばかりを意味するのではなく、人の欲望を満たす一切のものを含みます。
「こうした行為をしてもなお、国会議員であり続けている人物がいるわけですがこれが不思議です。」という質問を頂きましたので、今回はこの質問を通して社会的に様々な問題についてどのように考えていけばよいのかをお話ししたいと思います。

国会議員とは

国会議員を知るためには、「国会議員の地位」を知る必要があります。
国会議員には特別な地位があるのです。地位とは、位であるとか身分を意味します。職務や果たす役割から見た位置を指すわけです。
国会議員は、主権者である国民の信託を受け、全国民を代表して国政の審議に当たる重要な職責を担っているわけですから、この職責を果たすため、国会議員の地位には、一定の身分保障が与えられています。
ですから、法律の定める場合を除いては、国会の会期中は逮捕もされませんし、議院で行った演説、討論または表決について、院外で責任を問われることもないとされています。

現職の国会議員の逮捕は、大きなニュースとして日本中に波紋を広げています。この事件は、「日本風力開発」という団体が風力発電の事業参入に有利になるように現職の国会議員が国会で質問をし、その影響で参入ができるようになるという便宜をはかったことに対して、6000万円の賄賂を受け取ったというものです。
この議員は、国会での自分の質問と賄賂の関係性を否定していますが、賄賂を渡した企業の社長は、「国会質問の謝礼の趣旨もあった」と賄賂性を認めています。こうした巨悪に対しては、東京地検特捜部が捜査を進めるわけですから、事件の実態は次第に明らかになっていくはずです。

問題の本質

国会議員の地位は、先に確かめたように「主権者である国民の信託を受け、全国民を代表して国政の審議に当たる重要な職責を担っている」わけです。
「信託」とは「信じて託す」という意味を指します。
今回の出来事は、この「信じて託す」という行為そのものに多くの国民が改めて疑念を持つことになったという意味でも重大なわけです。特定の人物に便宜を図ることで、その他の利益を損なわせ、自己の利益を優先する度という行為は国会議員にあるまじき行為なわけです。
また、大きく国民の政治離れを加速させたと言える出来事ではないでしょうか。こうした賄賂政治というものは人類の歴史ではたびたび登場します。

田沼意次(たぬまおきつぐ)

江戸時代の学習で登場する田沼意次という人物がいます。彼が歴史に名を刻んだのは、老中という江戸幕府の中枢を担う役職に就いたからです。そして、その役職を悪用し、賄賂政治を極めたためだと言えます。
社会の教科書に名を刻むような人物ではないのですが、悪い意味で覚えておく必要があります。まさに、今回の事件のような場合にこの田沼意次という名前を用いて教訓を思い出すために存在していると言ってもよいでしょう。
この人物は、10代将軍徳川家治の時代の老中でした。
田沼意次の政治は、商人や手工業者の同業者組合である「株仲間」を奨励しました。この株仲間に大変な特権をあたえました。わかりやすくいえば、株仲間である分野の商売を独占させるのです。その代わり税をたくさん商人たちに納めさせようと考えたわけです。たくさん儲けさせて、たくさんお金を納めさせるという仕組みです。このやり方は幕府の財政がうるおうという点では成功しました。
また、商人たちの一部も優遇されますので、大きく経済的な発展を得る者も出てきました。しかし、こうした一部を優遇する仕組みは不公平感や不平等感が高まりました。幕府や一部の商人だけが利益を得ている状況が発生したのです。株仲間は、田沼意次に賄賂を渡すことでさらに優遇を得ていきます。政治は賄賂がものをいう世界になり、混乱が広がり、最後には田沼意次は役職を辞職します。
田沼意次の政治の負の遺産は、巨大な格差を生み出した点にあります。そのため、町人や農民たちの不満は大変大きく膨れ上がりました。事実、農民たちによる「百姓一揆」や「打ちこわし」といった行動が爆発的に表面化していきました。

不平等、不公平な世の中

田沼意次の政治の結末は、大変に単純な幕引きとなりました。
それは、百姓たちの一揆によって引き起こされます。年貢、今でいう税金ですが、この軽減を求めてついに武力反乱の一面が色濃くなっていくのです。打ちこわしも過激になっていきました。社会の秩序が崩壊していくのです。その理由は簡単で、上に立つものが秩序を失うと下の者も、自分も許されて当然であると考えるようになります。
これが、ゆがんだ平等意識というわけです。生活に困窮した町人や農民たちによる暴動の矛先は、裕福な商人の店や邸宅に及んでいきました。この社会の乱れを生じさせたのが、田沼意次という人物ということだけは忘れないでほしいと思います。
幕府の重鎮たるものが、自らの行いで幕政の根幹を脅かしたわけです。この現象に見える問題が今回の問題と重なる部分が多いことは容易に想像できるはずです。
国会議員の特定の業者に便宜を図る行為は、自らの利益のために行った国家への信頼に対する破壊行為になるというわけです。田沼意次が江戸幕府への信頼を失墜させた後遺症は、後々まで尾を引きその後の幕藩体制の崩壊へとつながる礎となったのかもしれません。


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