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239 メンチカツカレー

はじめに

受験シーズンになると食べたくなる味があります。大学生の頃、無料塾を仲間としていたころのことです。受験前日まで、中学生や高校生が塾に足を運んでくれていました。
普段は、普通のカレーしか出せませんでしたが、受験前日の日は、近くの精肉店から大ぶりのメンチカツを買ってきて、ご飯とカレーの間に1枚ずつつのせて出すことにしていました。
今日の教育コラムは、そんな思い出を少しお話ししたいと思います。

精肉店のおばちゃん

無料塾を初めて2年目の年のことでした。その頃になると地域の方々にも声をかけていただくことが多くなっていました。
お子さんを安心して預けられるということで、塾を開いている土日には50人近い児童生徒の皆さんが利用してくれていました。
その年は、受験の山が7回ありましたので、受験前日も7回ありました。無料塾では、お昼と夕飯にカレーを食べたい子には出していましたが、受験の前日は決まってメンチカツカレーを明日受験という子には出すようにしていました。メンチカツは、近くの駅前にあった精肉店のメンチカツを買っておいて温めてカレーにのせて出していました。
その年、センター試験を受験する高校生が17人通ってくれていました。私は、17枚メンチカツをおばちゃんに頼んでおいて、取りに行く約束を前の日の夕方、大学の帰りにしておきました。おばちゃんは、毎回、何十枚とメンチカツを頼みに来る私に、無料塾のお兄ちゃんというニックネームをつけてくれていました。
次の日、私は17人の高校生に夕食のカレーを出すために、メンチカツをとりに精肉店を訪れることにしました。するとおばちゃんは、紙袋に入ったメンチカツを手渡し「スペシャルね!」と言って紙袋に入ったメンチカツと揚げたての唐揚げをくしに2・3個刺して、ニコニコとした表情で手渡してくれました。熱々の大きな唐揚げを食べながら、まだ温かいメンチカツの袋で暖を取りながら塾へと戻ったことが今でも思い出されます。

手のひらサイズのメンチカツ

塾に帰るとちょうど高校生たちもお腹が減り、少し集中力も切れかけていました。私は、ご飯を大盛にして、熱々に温めたカレーを準備し、買ってきたメンチカツを袋から取り出してご飯の上に置きました。
おばちゃんの「スペシャルね!」の意味がやっとそこで分かりました。おまけの唐揚げかと思っていたスペシャルは、実はいつもの3倍の大きさのメンチカツだったのです。彼らが喜んだことはもちろんですが、なんと私たちの分までおばちゃんは袋に入れてくれていたのです。
食べ終わり、勉強を終えていつもより早めに家に帰って寝ることにした彼らを駅まで送る途中、おばちゃんの精肉店の前を通り過ぎようとしたときに、高校生の一人が、「おばちゃん美味しかったでーす。明日頑張りまーす。」と明るい大きな声でシャッターの降りたお店に挨拶をしたのです。私たちもつられて、「ご馳走様でしたー。」と大きな声であいさつするとアーケードにその声が響きました。
すると、二階の窓がガラッと空いておばちゃんが顔を出してどでかい声で「頑張んなー。」と声をかけてくれました。頭に寝癖を防ぐカバーのようなものをかぶって、厚手のはんてんを着込んだ力強いおばちゃんの声援に受験生も右手のこぶしを上に突き上げて応えていました。

その後

高校生17人は、無事に受験を終えて希望の大学に合格しました。春、卒業式を終えて、無料塾に挨拶に来てくれた彼らは、それぞれの大学に進学する準備を進めている様子を楽しそうに話しながら、いつものカレーを食べて帰っていきました。
後日談ではありますが、17人の高校生は受験の成功したお話を友だちや家族にした際に、おばちゃんの精肉店のスペシャルメンチカツの話をしたそうです。その話が広まって、それ以来、受験の時期になるとおばちゃんのお店には「合格メンチカツ」というメニューが登場するようになったそうです。ちなみにおばちゃんは、3倍のスペシャルはあの時の特別仕様で、お店では2倍の大きさまでにしているようです。
ということで、みなさんも受験の前は勝負めしでゲン担ぎと栄養補給をして、本番に臨んでくださいね。

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