じごくゆきっ:桜庭一樹:不安定な楽しみ

「じごくゆきっ」(156/2020年)

久しぶりの桜庭、やっぱ好きだ、面白い。短編集、7作品。不安定なまま進行していく、不幸とも幸福とも取れる物語、桜庭ワールド、堪能させていただきました。

こんなのもあるんですね。何かピント外れかと思うけど、まあ凄いや。

「暴君」「ビザール」「A」「ロボトミー」「じごくゆきっ」「ゴッドレス」「脂肪遊戯」、どれも独特なスピード感があって好きですが、一番を挙げるならば「じごくゆきっ」かな。一番「謎」にあふれているし、ピンクハウスという時代のアイコンを鋭くとらえている。先生が生徒と田舎に逃亡するという、どうでもよいような話なのですが、そのどうでもよい感じが、グイグイ迫ってくる、ピンクハウスと共に。

7作品のなかで一番どうでもよいのに『じごく』なんだよね、この感じ、桜庭の真骨頂かと思います。

逆に「ロボトミー」はザクザクと読者に積極的に切りかかってくるパターンの桜庭系。怖いし、悲しいけど、儚い優しさを味わえる。こんな母親、本当に会いたくない。

どれも楽しめる。苦しいかもしれないけど、楽しめる。人が生きていく上で必ず直面する不安定な感情や状況をさりげなく切り取る。安定は楽しくない。どこに行くか分からない感じこそが生きていく意味なのだ。

「じごくゆきっ」の先生の一気に不安定に落ちていく感じがたまらない。そして、落ち続けるのではなく、本当に適当の戻ってくるいい加減な感じが更にたまらない。こんな気持ちにさせてくれる桜庭に、感謝!


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