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この世をば:永井路子:平安時代に生まれなくて良かった…

「この世をば」(85,86/2022年)

藤原道長のことをこんな長文で読むとは、全く想定外です。これがキンドル・アンリミテッドの醍醐味の一つ。今までの読書習慣では出会えなかったタイプの作品に没頭することが出来ます。
道長という人物なんて、歴史の教科書の流れの中で、一応キーパーソンとして何となく頭に引っかかっているだけでした。そもそも「藤原」という名字だけで、とりあえず平安時代の有力貴族であるという理解をして終了。たくさんいた藤原さんたちの性格や生き方なんて考えたこと、ありませんでした。

本作品では道長が「人間」として書かれています。そう、彼は生きていたのです、空想上の人物ではないのです。永井が描く活き活きとした言葉、セリフを読んでいると、道長もただの人に思えてきます。たまたま貴族の家に生まれてしまったので、小さいころから身につけた貴族ルールに従って、頑張って生きている男です。

ただ、このころの貴族ルールが難しいのは、政治活動上、経済活動上において、子供が生まれるかどうか、そしてその子供が男か女か、ということが非常に大きなウェイトを占めていることでしょう。当時の医学では、いや、今の医学でも解決出来ない「運命的」な事実に左右されて生きていく彼らの生活基盤は儚いのです。
でも道長は、その運命的な何かを受け止めてサバイブしていきます。抗っても意味がないのです。その運命の中で最善を尽くす努力をする姿は、凛々しいのです。

それにしても、平安時代に生まれなくて良かったです。政治的だけではなくて、文化的にも優れた人じゃないと生き残れないなんて、ハードル高すぎます。

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