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There's nothing like this

92年製のMINIは、ガリガリと年季の入った機械音を立てながら進む。

外環道が尽きる街で、首都高速へ乗り換えた。


 環状2号から見る東京の夜景が好きだった。江戸川ごしにみるそれは、果てしない光の海。都会の現実はストレスの塊だけれど、こうして遠くから見るといつもより綺麗に見える。

 小さな感動をしたくて、よく高速に乗った。どこに用があるわけでもなく、ただ心が求める方へ。ふたりの間でそれが一致していたか確かなことは言えないけれど、そんな風に人生も過ごしていけたらいいのにね、と話しながらのドライブ。そういう生き方はできないって、知ってはいたけれど。



 お互い頭で考えすぎるんだ。状況なんて意外なほど変わるもの。今の状況で100%正しい結論も、明日になればもう小さなほころびが見えてくる。

 けれども頭で考えて可能性のなさに絶望する。もうそういう生き方はやめよう、といつも言葉にしては実行できない。


 

 PAでコーヒーを買った。それですら財布を取り出して自分の分を出そうとする彼女は、きっとすごく貴重だと思う。だからといってその貴重さが全てを担保してくれるのかというと、そうはいかないのであって難しい。難しいな、と思って今をやり過ごすのを待ってくれるほど、優しいものでもない。

 そんなことはわかっているけど、考えているうちに失ったものはけっこう大きかったかなとは思う。



 トラックに追い越されながら、MINIは走る。車内を水銀灯の光が照らしては消える。そのたび、映し出される横顔はとても特別にみえた。



♪ Didn't want to leave you with the wrong impression

Didn't want to leave you with my last confession

Of love, Of love..

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