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あれから9年

こんなこと別に書かなくてもいいのだけど、むかし付き合っていた人と連絡をとるようになった。別れて数年は全く連絡をとっておらず、たぶんお互いにSNSをチェックすることもなかった。でもLINEはブロックせずそのままにしていた。どうして残していたのか自分でも分からない。相手の感情は測り知れないけれど、自分の感情もいまいち分からない。
いつもいつも分からない。

とにかく久しぶりに連絡をとってみて、どうやらお互いに恨み合ってはいないらしいということがわかった。近況を報告しあったり、3.11のときに電車が止まっていてふたりで潮見から笹塚まで30キロも歩いたよね、という昔話をしたりした。(当時同じ職場で働いていた)

・・・

それまでピクニックのような気楽な気分で歩いていたのに、東京駅のモニターで津波の映像を見た瞬間にふたりとも真顔になった。いや、真顔どころではなかった。これはふたりでどうにか生き抜いていかないといけないかもしれない、と思った。彼女は実家に住んでいたのだけど、そこまで歩くのは遠すぎるのでひとり暮らしをしていたわたしのアパートに向かった。

くたくたになってアパートにたどり着くと、本棚から本が散乱していて、育てていた観葉植物のユッカ・エレファンティペス(江國香織さんの「きらきらひかる」に登場する観葉植物で、ふたりともその本が好きだったので同じものを買ったのだった。「青年の木」とも言われている)が倒れていた。

散乱した本を本棚に戻し、ユッカ・エレファンティペスを起こして零れていた砂を植木鉢に戻してからテレビをつけた。
テレビには東京駅で見た津波の映像が繰り返し流されていて、行方不明者の人数が数分ごとに増えていった。

今までにない規模の災害である、とキャスターが言っていた。津波の音が怖いので、音量を小さくして茫然としながらそれを眺めた。

疲れていたし、コンビニには食料がなにもなかったのでその日はそのまま眠ることにした。テレビを消してからも、彼女は布団の中で震えながら「こわいこわい」と言っていた。もちろんわたしだって怖かったが、ここは男らしく堂々としなければと思い「大丈夫だよ、大丈夫」と言って励ました。

彼女は「眠れる気がしない」と言った。わたしもそれは同じだった。身体は疲れていたけれど瞼を閉じるとテレビで流れていた映像がフラッシュバックする。でも、これから何が起きるか分からないのだ。
少しでも眠っておかないと。

わたしは努めて明るく「ちょっとでも眠っておこう、たくさん歩いたね。30キロだよ?よく歩けたよ。ヒール履いてない日でほんとうによかった。さすがにおんぶして30キロは歩けないからね、わはは」と言った。
返事がないので彼女を見ると、もうすっかり寝息を立てていた。

いや、寝るのはや~。
一方わたしは不眠症なので朝方まで眠れず。

あれ、これどういう話だ?

とにかく、久しぶりに連絡をとったら楽しいことも悲しいこともたくさん思い出しましたよ、というお話ですかね?

あれから9年かぁ。


#エッセイ  

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