繰り返し見る景色

まもなく詩を書きはじめて10年になる。
詩を書くときに繰り返し見る景色がある。

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わたしはどこかの森を歩いている。そこは靄がかかっていて、空気は重く密集している。空は青みがかった灰色で、わたしはなにひとつ荷物を持たず手ぶらで歩いている。緊張しているのか疲れているのか、心拍数が高く、心臓がどきどきする。靴が土を踏みしめる音と、轟々と生い茂る木々の葉が擦れる音がアンビエントの前奏のように聴こえる。
しばらく歩くと、唐突に木々が途切れて目の前に小学校の校庭くらいの大きさの湖が現れる。水面が気持ち良さそうにゆらゆら揺れていて、そこだけ靄が晴れている。わたしは落っこちないように湖の前に立ち、姿勢を正して耳を澄まして目を閉じる。

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現実のわたしは自分の部屋の机やベッドで三角座りをしてノートパソコンを開いている。或いは仕事帰りのドドールで陶器のコーヒーカップを爪で「カチカチ」と鳴らしながらテーブルにノートを広げている。或いは道を歩きながら携帯電話のメモ帳を開いている。

そして詩を書きはじめる。
意識は遠い靄のかかったあの森へ。

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20代前半のころは、わたしひとりだけ見ることができる特別な景色だと思っていたけれど、今では似たような景色を眺めている人はたくさんいるのかもと考えるようになった。それについてじっくりだれかと話したことはないけれど、きっとそうだと思う。
創作をしてもしなくても同じことだ。

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わたしも詩を書かないときに森に行くことがある。

大勢の人が集まる場所でだれの話も聴かずにその場をやり過ごすときや、または、親密なだれかと手を繋ぐときみたいに、現実とは思えないほどの幸福に身を包まれるとわたしは自然と森に入る。どちらの世界が真実なのか判断がつかなくなるけれど、そのだれかはわたしに話しかけてくれるので、ちゃんと現実に戻ってこれる。

幸福でも不幸でも、わたしはいつでも森に入ることができる。そこは一年中ずっと靄がかかっていて、湖の水面は気持ち良さそうにゆらゆら揺れている。


#エッセイ

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【エッセイ】

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