見出し画像

日本の夏を遊ぼう

7月に東京出張と home leave を合わせて 1ヵ月ほど日本に滞在する。
私にとって東京で一番落ち着く場所は、四の橋しのはし商店街である。
四の橋から徒歩 2分のアパートに住んでいた期間が最も長かったからだ。

花の都・大東京のなかにあって、四の橋商店街は、住民とお店の人たちの顔が見える、住み心地の良いまちだった。
日本に滞在するときは必ずぶらつく場所となっている。

前回の帰国時、「必ず行くお店」は目黒のとんかつ「とんき」だと書いた。

四の橋にも「必ず行くお店」がある。
有名店「とんき」と違って、このあたりには地元住民以外にあまり知られていない名店がある。
メトロの駅でいうと、白金高輪・麻布十番・広尾の 3駅の重心にあたる地点である。つまり、どの駅からもジミに遠い、忘れられた場所なのだ。
なので、あまり人に教えたくない、といういやらしい気持ちもあるのだが、冥途の土産に 2つの名店について書いておこうと思った。

ひとつは「鈴木屋」というホルモン焼きのお店。
ほぼカウンターのみで 10人入れるかどうかという、小さな家族経営の名店である。
予約不可。とりあえず行ってみて、空いてたらラッキー。たいてい満席なので、席が空くのを待つことになるが、回転が速いので長く待つことはない。
モツの煮込み(あっさり塩味)が絶品である。

ホルモン焼きも、どれもおいしい。
そして、must eat の品は、つくねと生ピーマンのコンビだと思う。

つくねがおいしいのは言うまでもないが、生のピーマンをかじると、こんなにうまいものだったのか、と涙が出るほど感動する。
海外に住んでいると、デカくてカラフルなパプリカしかお目にかかる機会がなく、日本の由緒正しいピーマンがムショーに恋しくなるのだ。

もうひとつは「ジャンボ」という和牛焼肉のお店。
「鈴木屋」とはうってかわって、お値段も客層もいやらしくなるが、名店である。
ただ、「ジャンボ」に関しては、少々残念な気持ちもある。
以前は、隠れ家的な焼肉屋さんだった。
当時はカルビやハラミといった通常メニューがメインで、ミスジやザブトンといった高級部位は裏メニュー扱いだったのだが、それらが通常メニューにラインナップされた頃からおかしくなってしまった。
評判を聞きつけて、港区界隈の俗物どもが殺到したのであろう。
そして「ジャンボ」は商業主義に走った。
あるいは、もともとそういうビジネスだったのかもしれない。
 
料理のクオリティは落ちていないが、新たに参入してきた客層が私は気に食わなかった。家族連れが気軽に入れるお店だったのが、高価なスーツで身を固めた美男美女が訪れる高級焼肉店になってしまった。
 
それでも、あの美しいミスジを 1枚ずつアミに乗せ、両面 3秒ずつ焼いて、極上のタレをたっぷりまとわせて口中に運ぶ幸福感を私は忘れることができない。

なので、今回もジャンボを予約しようとした。
そしたら、こんな事態になっていた。

予約するには 1人 12,000円のデポジットを支払わなければならないらしい。
ノーショウによる損失が続いているからだと言う。
予約しておいて来店しない客のことだ。実損ではないが、いわゆる機会損失のことを言っているのだろう。

ジャンボよ。苦肉の策なのは理解するが、どうしてこんな事態になってしまったのか考えたかえ?
四の橋商店街の地元住民を相手に商売していた頃は、ノーショウなんてなかったはずだ。
人気が出て、評判が広まって、有象無象が来るようになると、こういうことになるんだよ。すると、昔からの常連客は離れていくんだよ。

「鈴木屋」のお客さんは、昔も今も変わっていないだろう。

私は、四の橋商店街が好きだ。
クリーニング屋のおっちゃん、コンビニのおにいちゃん、スーパーのおばちゃん。みんな、すれ違いざまに笑顔であいさつする。

ここの夏まつりも好きだった。
100メートルほどの小さな通りに屋台が出るだけの、ささやかなおまつりだった。
ここは、各国の大使館が集中するエリアだ。アルゼンチン大使館の職員らがチョリソの屋台を出し、ドイツ大使館はソーセージとビール、フランス大使館はフォアグラ、イラン大使館はケバブ、パキスタン大使館はカレーの屋台を出す。
近隣に住む外国人らも集まって商店街の店主・店員たちと笑い合っていた。

お隣の麻布十番のお祭りとはまったく違う。
東京じゅう、なんなら全国から人が集まる十番祭りと、近隣住民だけが集う四の橋の夏まつり。どちらが楽しいと思いますか?

夢の国、日本へ。
会いたい人がいて、行きたい場所があって、食べたいものがある。
海外在住者にとって、こんなに心がわくわくするイベントはありません。