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もういちど日本人を学びなおそう

スイスの本社に帰任してから、日本支社と関わる機会が増えましてね。
そこで、あらためて異文化研修を受講することにしました。
その研修は、非日本人向けに日本人の特殊性をレクチャーするものでした。

以下に、その要点をお伝えしたいと思います。

地理的要因からくる日本人の4つの国民性

日本人の国民性を決定づけている、日本の地理的要因は次の4つです。
1) 島国である
2) 人口密度が高い
3) 自然災害が多い
4) 天然資源がない

一つずつみていきましょう。
1) 日本は、本州・北海道・九州・四国という 4つの主要な島と 6,800 の小さな島々からなる国です。驚くべきことに、これらの島々が合わさって一つの国家を形成しており、その周囲は海によって他国と隔てられた、自然に孤立した (naturally isolated) 島国です。
さらに驚くべきことを教えましょう。この国は、歴史上ただの一度も他国に侵略された経験がないのです!(WW2 で US に敗戦したときでさえも)

つまり、この国は外のカルチャーを強制されたことが一度もない、世界史上極めて稀な国だということです。

2) 国土の 70%が山地であるこの国が、なんと 1.3億人もの大人口を抱えており、世界有数の人口密度を誇ります。人と人の距離が近いために、日本人には非常に厳格な社会的ルールとエチケットを守る傾向があります。これは、他人との不要な衝突を避け、円滑な人間関係を確保するための高度な技術です。共感力の高さは、人口密度が高いことからくる、日本人の重要な特質といえます。

日本人が異常なほどの礼儀正しさを示すのも、他人の感情や反応を推し量ることの重要性を知っているからなのです。

3) 日本は、地震・火山・津波・台風の多い、世界でぶっちぎりナンバーワンの自然災害大国です。そこから生まれた日本人の特質は、忍耐と我慢強さの重視、”Never give up” の精神、そしてリスクを病的なまでに嫌う性向です。リスクを回避するために、日本人は何事にも慎重で、言うことがいちいち細かく、ルールとマナーで社会を雁字搦めにしたがります。一例として、日本のいたるところにこのようなマナー広告が見られるのです。

こんなポスターに囲まれていたら、気が狂いそうになると思いませんか?
あなたの国でこんな注意書きを見たことがありますか?
階段に “のぼり” と “くだり” が指定されているとか、信じられますか?

4) 石油や天然ガスといった資源に乏しい日本は、世界一のエネルギー輸入国です。
この国のほぼ唯一の資源 (resources) は、人 (human resources) なのです。世界のどこを探しても、識字率が男女ともに 99% などという国は日本だけです。日本の教育水準は世界一といっていいでしょう。

ただし、やはり島国であるせいか、日本の学校は極めて特殊です。
学校のクラスに、言語、肌・髪の色、宗教の異なる子どもが一人もいない、という光景をあなたは想像できますか?

日本人を理解するための4つの宗教・哲学

日本人は、「神道と仏教」という 2つの宗教的な思想を併せもっています。
こんなことわざ (saying) があります。

日本人は神道として生まれ、仏教徒として死ぬ。

このプログラムでは宗教について深くは語りませんが、ごく簡単にいえば、
神道は儀式・礼法 (ritual) を重んじ、仏教は和 (harmony) を尊しとする思想だとお考えください。

この 2つの思想を併せもつ日本人は、当然ながら、私たちには理解しがたい価値観を具有しています。
日本人には、真と偽や善と悪の観念よりも大切なことがあります。それは、人々との調和を保つ振る舞い (behaviour) です。
ビジネスをも含めた人と人の相互作用は、お互いの信頼と長期的な関係の上に築かれています。

3つめに、日本人を理解するうえで極めて重要な思想は「武士道」です。
武士道とは、もともと戦士階級=サムライの way という意味ですが、現在においてもあらゆる社会階層の “code of conduct”(行動規範)となるものです。
それは、高潔さ (rectitude)、主君への忠誠、集団のための自己犠牲の精神などを含んでいます。

4つめに、「儒教」です。
儒教とは、春秋時代の中国の思想家である孔子が説いた教えです。
儒教思想が日本人に与えた影響の一つは、上下関係を重んじる精神です。
先生と生徒。親と子。兄と弟。これらの上下関係は、両者の優劣に関係なく「目上の者」(≒年長者)を絶対的な存在としています。
日本人は、自分から見た相手のポジションを常に意識していて、その集積が社会のヒエラルキーをつくっているのです。

また、日本人の礼儀正しさは儒教に由来するものでもあります。
あなたが初対面の日本人と接するときは、やりすぎなくらい礼儀正しく振る舞うのが無難でしょう。礼儀正しすぎて怒る日本人はいません。
早く親しくなろうとして馴れ馴れしく振る舞うのはやめましょう。
最初の接し方を間違えると、関係の修復は極めて困難になることを覚えておいてください。

学校教育がつくる日本人の4つの行動心理

日本の学校の授業風景を描写してみます。
日本の授業は、教師から生徒への one-way communication です。
生徒は、教師の話を聴いてノートをとっているだけ。
授業中に質問をする生徒はいません。
日本では、教師と教師が話す内容は不可分です。教師が話す内容にチャレンジすることは、教師にチャレンジすることと同じです。それはたいへん無礼な行為とみなされます。(儒教の話を思い出してください)

このような学校で教育された日本人と、あなたはビジネスミーティングをしなければならないのです。
日本人がミーティングで一言も発言しないのはなぜか、もうおわかりですよね。では、あなたはどうしたらいいでしょうか。
まず、しゃべり続けるのはやめること。ときどき話すのを止め、沈黙タイムをつくってあげてください。それでも日本人が発言しない場合は、できるだけ具体的な質問を振ってあげましょう。

もっと効果的な方法もあります。
会議の前に、少人数でのプレミーティングを設け、あらかじめ日本人の意見を聞いておくのです。
論点を事前にシェアして十分な準備期間を与えておくのも有効です。

一方、絶対にやってはいけないことがあります。
アドリブで何かをやらせたり言わせたりするのは絶対にやめてください!

日本人の行動心理の 1つめは、集団志向 (group-oriented) です。
日本人が自己紹介するとき、自分の名前より先に、所属する学校名や会社名を言うのを聞いたことがありませんか? 信じがたいことですが、日本人は、自分よりも所属集団ありきなのです。
ここで、日本語の “uchi” と “soto” の概念を紹介しておきます。
日本人は、世界を uchi(所属集団の inside)と、soto(outside)とに明確に分けています。uchi のメンバーとの間には無数の不文律があって面倒臭いのですが、無条件で助け合い気遣い合うルールになっています。
他方、soto の人間との間にはいかなる義務もありません。

2つめの行動心理は、”wa”(和)の重視です。
wa を乱す言動を日本人は極度に嫌います。wa を保つために大切なのは ”honne” と “tatemae” を使い分けることです。
プライベイトな意見(=honne)とパブリックな意見(=tatemae)は、日本人でなくとも異なるものですよね。
例えば、こんな状況を想像してみてください。

honne を言っちゃダメな場面でしょ?

では、日本人と非日本人とで何が違うのでしょうか?
それは、日本では集団の wa を極端に重視するので、honne の部分が極めて小さくなってしまうところです。

wa を重んじる日本人の honne を引き出すのは、はるかに難しい。

そこで Tips を教えましょう。

日本人とは 1対1 で話せ。
日本人の honne を引き出したかったら飲みに行け。

3つめに、“haji”(恥)のカルチャーです。
日本人にとっての haji を説明する前に、日本人独特のヒエラルキーについて触れておきましょう。
同じ会社で初対面の 2人が初めて会った場面を想定します。このとき、最初にする質問は、仕事内容ではなく、部署や役職でもなく、
「何年入社ですか?」

先ほどの儒教のお話とやや矛盾するようですが、日本の会社での上下関係を決めるのは、役職ではなく、年齢ですらなく、その社内での在籍年数なのです。1年でも長くいる人を “sempai”、短い人を ”kohai” と呼びます。

先輩は後輩を指導・庇護し、後輩は先輩に忠誠・尊敬を示します。

日本には、「恥の文化」があります。
これを正しく理解するには、個人主義と集団主義の違いを知る必要があります。
個人主義者にとって「恥」とは、自分と向き合ったときに感じる、内面的な罪悪感 (guilt) のことです。
一方、集団主義者にとっての haji とは、集団に対して感じる、外面的な経験なのです。

日本人にとって haji とは、集団の前で「顔 (face) をつぶされる」ことです。日本人にそれを経験させてはいけません。とくにやってはいけないタブーは、kohai の前で sempai に haji をかかせることです。

4つめは、行間を読むこと (read between the lines) です。
日本にはこんなことわざがあります。

9は文脈から推測しろ!

でも安心してください。日本人は、日本人同士でそのような技能を要求することはあっても、あなたにまでそんな超能力を期待してはいません。

日本人のような、言葉で明示的に言わなくても意図が伝わるカルチャーを「ハイ・コンテクスト」といいます。
異文化コミュニケーションの第一人者、Edward T. Hall 教授の研究によれば、日本はハイ・コンテクストの世界チャンピオンなのです。


(追記)
本記事「導入編」(1日目)の続き、「ビジネスマナー編」(2日目)です。


その続き、「コミュニケーション編」(3日目)です。