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日本の会社員が優秀なのは、研修が充実しているからだ

グローバル企業と日本企業の大きな違いのひとつは人材育成です。
とくに、ビジネス研修の質が全然違います。
グローバル企業は社員を育成する気がなく、研修などはないも同然です。
意外に思われるかもしれませんが、概して日本企業の研修制度は非常に手厚く、社内研修・社外研修ともに世界屈指のレベルを誇ると思っています。

この記事は、社員の研修に携わる人、部下を持つ人、ビジネスパーソンとしてもっと力をつけたい人に読んでいただきたいと思って書きました。

デジタルマーケティング研修

現在私が働く会社は、毎年 Top Employer Awardを受賞するくらい人事部門の評価が高いグローバル企業なのですが、社員である私がひいき目に見ても、ダメダメなのが研修 (Trainings) です。

まず、研修費の予算が悲しくなるほど少ない。
出張旅費の予算が 1億円ある部署(コロナ前)で、研修費の予算が 100万円程度だったりします。
その少ない予算の大半を占めるのは語学研修です。
それ以外はないようなもの。

本社が企画する研修もありますが、これがまたゴミ同然です。
デジタライゼーションチーム(最近この手の部署が増えましたね)が通年的に実施しているオンライン研修があります。
Circus Street という研修屋が開発したプログラムで、1単位 30分ほどのモジュールが 100個くらいあって、うち必修科目の 30個を年内に修了せよ、というもの。
めまいがするレベルですが、嫌々受けてみると、めまいぐらいじゃすまなくなります。
eコマースの概要、インターネット用語、デジタルリテラシー、データドリブンマーケティング、ソーシャルメディア、SEO 戦略、といった内容なのです。
私の業務と全然関係ないじゃん!

いつからうちの会社は GAFA の仲間入りしたんだよ。

この Circus Street って会社にいくらお金使ってんだよ。

どいつもこいつもデジタルに踊らされてんじゃねーよ。

FCF 研修

先日、本社から来た研修案内は FCF(フリーキャッシュフロー)研修。
全社 KPI に FCF を追加したので、そういう研修を実施することはまあ理解できます。
でもね。
受講対象者の顔ぶれを見ると、今さらこの連中に FCF の講義はいらんだろ、としか思えません。
MBAホルダー、公認会計士、公認内部監査人・・・

釈迦に説法かっ!

しかし、受けてみたら、もっとクソだった。
FCF 研修の内容は、新しい財務報告ツールの使い方だったのです。

こんなもん研修ちゃうわ!

ようやく私は気づきました。
グローバル企業は、ビジネススキルを高めるという発想が皆無なんです。

すでにスキルを持った人材しか採用しないからなのか。
それとも・・・
システムやツールを操作するだけの社員にビジネススキルなど不要、と時代が気づいたのか。

ビジネスリーダー研修

日本の会社で働いていた頃、私は多くの研修に参加させられました。
1日や 3日で終わるような単発の研修はあまり記憶に残っていません。
重要な研修とは、月 1回 × 12回(計 1年間)のような長期の研修です。
こういう研修は、今でも心の中に大切に仕舞ってあります。
研修の最大の果実は、同じ志を持つ人たちと過ごす濃密な時間と、その後も続く一生の交友関係だと思います。
研修で 1年をともに過ごした仲間とは、職場の同僚以上の強い絆で結ばれるものです。

私はこのような長期研修を 4つ(社内 2つ、社外 2つ)経験しました。当時の日本企業がいかに研修に力を入れていたかが窺えます。
なかでも心に残っている研修は、日本能率協会 (JMA) という機関が開校したビジネスリーダー育成プログラムです。
30歳のときでした。
この種のプログラムを日本で最初に開発した人物は、私の人生を変えるほどの傑物でした。
私はビジネスとマネジメントの真髄をその人からじかに学ぶ幸運に恵まれました。
私のビジネスの師匠ですね。
修了後の打上げで師匠から「コンサルになりませんか?」とお誘いを受け、一瞬その気になりましたが、「うちの入社条件は禁酒禁煙ですけど(笑)」とウーロン茶片手に言われ、「ムリじゃん(笑)」とビール片手にツッコんだのはいい思い出です。

この JMA の研修は、そのほかの講師陣やゲストスピーカーも大人物ぞろいで大いに刺激を受けましたが、合わない講師が 1名だけいました。

講師とのケンカもいい思い出

ビジネスリーダー研修ですから、「リーダーシップ論」の講義が何日もあるんですが、そのうちの 1日を担当した講師(M氏)が苦手なタイプでした。
J リーグのサッカーチームのコーチングもしていたちょっと有名な人です。

1限目は、リーダーの類型について。

✅ ビジョン型リーダー(方向性を示す)
✅ サーバントリーダー(チームに奉仕する)
✅ コーヒーブレイク型リーダー(メンバーの相談を聞く)
✅ 母親型リーダー(手取り足取り教える)
✅ 父親型リーダー(黙って背中を見せる)
✅ 脅迫型リーダー(脅しによって人を動かす)

M「最も効果的なのは、脅迫型リーダーシップです。人間の行動に最も強い動機を与えるのは恐怖だからです」

今の私なら、一理ありますね、くらいの余裕をもって聞ける話ですが、当時 30歳の私は「キモッ!」って反応したよね。
この人とは合わんわ、と。
もう帰りたいって思った。

2限目。
M「ここに橋があります。今から、この橋を一人ずつ渡ってもらいます」

はあ・・・

M「まずあなた、渡ってみてください」

一番前の席の男性が立ち上がり、その “見えない橋” を歩いて渡りました。

M「次。あなたは、彼とは “違う方法” で渡ってください」
隣の女性は一瞬困った顔をしてから、橋をスキップして渡りました。

M「いいでしょう。次はあなた。前の 2人と違う方法で渡ってください」
3人目の男性が、橋をカニ歩きで渡りました。

M「いいですねぇ。次はあなた。前の 3人と違う方法で渡ってください」
4人目の女性はちょっと考えてから、頭上で手を叩きながら渡りました。

ちょ、これ 30人続けるの?
私は居たたまれなくなって、思わず声を上げました。
私「ちょっとすみません・・・。あの、何なんですかこれ」
M「はぁ?」
私「このトレーニングの意味がわかりません。説明してください」

M氏は私を睨んでから、アゴをしゃくって言いました。
M「やる気がない奴は帰りなさい」

説明しないんだ。
私は机の上の私物を仕舞って静かに席を立ちました。

M「待ちなさい!」

どっちだよ。

M「どこの会社だ?」
私「A社です」
M「ほう、A社か。あそこの人事部長をよく知ってるぞ」

それが何か?

M「席に戻りなさい。たいへんなことになるぞ」

なるほど。これが脅迫型のリーダーシップというわけか。

私「帰れとおっしゃいましたが(笑)」
M「帰れと言われたら帰るのか?」

ダメだ。これじゃ子供のケンカだ。
はっきり言ったほうがいいな。

私「時間の無駄だと判断しました。ですから自分の判断で帰ります。子供じゃないんで」

M氏の顔が醜く歪んだ。
M「なんじゃあその態度は!!」

教室がシーンとなりました。

私「子供やサッカー選手は怒鳴れば言うことをきくのかもしれませんが、
(いや、子供やサッカー選手を卑下する気は全くないけど)
サラリーマンをバカにするな

テックは変わるが、ヒューマンは変わらない

あの日の講義を台無しにしてしまったこと、今さらですが、JMA の事務局に謝りたいと思います。ごめんなさい。
M氏のことも、今思えば、私が成長するのに必要な人だったかもしれない。
イマドキあんなコーチングする人はいないでしょうから、絶滅危惧種として保護すべき存在だった気もします。

思い出話はこれくらいにして。
日本のビジネスパーソンは非常に優秀です。
私が当時ともに学んだ同志の多くは、今や日本企業の要職に就いています。
私は彼らに英語力以外何一つ勝てないでしょう。
私には、キャッシュフロー報告ツールの操作方法を説明する “研修もどき” しかないのに対して、彼らには日本の充実した研修制度と、私の師匠のようなラスボス級の指導者がいるからです。

しかし、そんな日本企業も近年はグローバル化の悪影響を受けつつあるのか、研修に以前ほど力を注がなくなってきているとも聞きます。
嘆かわしいことです。
前々から感じてはいましたが、日本の経営者は、バカなのでしょうか?
日本的経営の改革すべき部分には全く手をつけず、グローバル化の悪い部分ばかりをツマミ食い的にマネして、社員がどんどん悲惨な状況になっていることに気づかないのですか?

社員を社内・社外で長期的に育成するのは日本的経営の不可欠要素です。
これをやめてはいけません。
これをやめてしまうと、日本企業は一気に弱くなります。
日本は、明治大正あたりから学校教育がほとんど進歩していないのです。
企業が人を育成するしかないのですよ、この国は。
「どうせすぐ辞めてしまうから」と言って、企業が社員を育成するのをやめてしまったら、日本のビジネスパーソンは世界の舞台から永久に締め出されることになるでしょう。

誰に語っているのかわからなくなってきました。
日本の政治家、経営者、学校関係者はもういい。
この荒んだ野を生きねばならぬ現場の人々に伝えたいのです。

社員の研修に携わる人。
人としての育成を本気で考えていますか?
真のビジネススキルとは何でしょうか。
プレゼンの技術ですか? エクセルのスキルですか? DXの知識ですか?
違いますよね。
人事のプロならわかるはずです。人は人によって学び、人とともに成長するんですよね。
社員の育成を託せるような骨のある講師を見つけてきてください。
また、他流試合も重要です。優れた人材が集まる社外研修、留学、異業種プロジェクトなど。上を説得して研修予算をもぎ取ってきてください。
あなたの仕事は、会社の、ひいては日本の将来を握っているんですよ。

部下を持つ人。
あなたの仕事の 8割以上は部下を育成することです。
仕事を通じて学び成長する部分はたしかに大きいですが、成長に寄与しない仕事をさせるくらいなら、思いきって社外研修にでも出してあげましょう。
あなたが誰にも負けないプレイヤーだったのなら、あなたの持てるスキルを惜しみなく部下に伝授してあげましょう。(パワハラはダメですよ)

ビジネスパーソンとしてもっと力をつけたい人。
時代が変わると、求められるビジネススキルも変わります。
ググればわかる知識など持っていてもあまり意味がありません。
プレゼンテーションスキルなど無用の長物になります。
テックが変われば不要になる PC スキルもあやしいものです。
一方、時代が変わっても、変わらないビジネススキルがあります。
それは、ヒューマンにかかわる能力です。
対人力、感情力、表現力、共感力、想像力、傾聴力、包容力。
そしてやっぱり変わらないことは、ヒューマンにかかわる能力を高めるには人と生々しく付き合う経験を重ねるしかない、という原理原則。
もっともっと、人と深く付き合う機会を増やしましょう。

このご時勢に、時代の流れと逆行するような話に聞こえますか?
だとしたら、この記事を書いた甲斐がありました。
時代の流れに従うよりも逆らうほうが正しいってこともあると思うので。