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「自分で考えて、自分の答えを見つけること」は、生きる力の土台になる

「ぼくたちの哲学教室」という映画をみました。

世界各国で映画賞を受賞している作品と知っていましたが、想像した以上に心に響く内容でした。そこで今回は、映画の紹介と、「哲学的な対話」が子どもの教育で導入される意図について少しだけ書かせていただきます。https://youngplato.jp/

「ぼくたちの哲学教室」は、北アイルランドの男子小学校で実践されている哲学の授業を、2年間にわたり記録したドキュメンタリー映画でした。

この北ベルファストという地区は、プロテスタンとカトリックの対立が長く続いており、ここに住む大人たちには、銃撃戦を日常的に身近で体験した生々しい記憶があります。そして現在もなお一部の武装組織が存在しており、平和維持が難しい地域であり、貧困やドラック、若年層の自殺などの社会的な問題も抱えています。

宗教的・政治的対立と分断が残るこの街で、4歳から11歳の子が通うホーリークロス男子小学校のケヴィン校長は、哲学対話を通じて子どもたちに考える力を育てる教育を実践しています。彼は、若いころの自分が行ってきた力で暴力に対抗する方法を悔いており、自分の行ってきたことへの恥の意識と自責から、2013年の秋から小学校に哲学を導入しました。そして、生徒たちが人生で何が起こっても対処できるように、「自分で考えて、考えて、答えを出すこと」を、哲学という道具を使って子どもたちをに育しています。

私がこの映画で最も感動したのは、校長と生徒たちによるサイコドラマ(即興劇の方法を用いた集団心理療法)でした。

「パパは、相手に殴られたら殴り返せ!ていうんだ」と、主張する暴力的な行動をやめることができない子どもがいました。この子は個別の哲学対話を受けても、その言動が変わることはありませんでした。

そこで、校長はこのサイコドラマで、自分が子どもの役になり、別の生徒が父親役を演じながら、「やり返すこと」に対する答えを生徒たちの目の前で共創していきました。

「“やりかえせ”って言っただろ!」と怒鳴る親役の生徒に対して、校長は息子役として、「僕は誰も殴りたくない。先生や仲間に相談して解決したい。」と、自分の意見を伝えようと対話を重ねていきます。そして、「おやじにも相談したいから、殴れと言わないでほしい」と提案するのです。
この対話は、子どもの意見を父親が承諾するだけなく、親子互いの愛情を確認する形で終わりました。

ケヴィン校長は、「たとえ親であってもすべてを疑問に思い、自分なりの答えを導きだす」ことを勧めています。また、教師が優れた回答を提示したとしても「最終的に自分自身で再評価すること」を子どもたちに促します。

子どもは親の言うことに従います。

子どもが親の権威に従うのは、親が怖いからなのかもしれませんが、多くの子どもたちは親が好きだから親の反することはしたくないではないでしょうか。

だからこそ、親は「わが子であっても考え方や意見が違うのは当たり前」という認識を持ってほしいと思うのです。

小さい子どもであっても、信念や価値観の違いにドキッとすることもあります。
そんな時は、どうか子どもの言葉を遮ることなく、子どもの話に耳を傾けてほしいと願います。その話が間違えていると感じても、まずは子どもの話をしっかり聞くこと、その子の思っていることを受け止めることが大事だと知ってほしいのです。「この人はしっかり聞いてくれる」という安心感があるから、その先の対話ができるのです。

そして、大人は、正しいことを教えてあげる人という立場ではなく、「貴方の意見も私の意見も尊重するよ」という人として対等な人間関係のもとに対話していくことが、子どもたちの考える力と、答えを出す力を育んでいくのだと思います。

マナビダネとのかかわりのある学校に馴染めない子どもたちには、こうした「自分の力で対処していくための考える力」は、この先の人生をよりよく生きるためにはとても必要です。

残念ながら、私やマナビダネのスタッフには、哲学的な対話を子どもたちとする術や知識はありません。

しかし、いろいろダネという活動の中では、大人と子どもは対等であるという関係性を持ち、横並びの立場でさまざまな体験の共有や、対話を重ねることにより、子どもたちは自分の感情や意見を尊重していける場をつくることは意識的に行っています。

また、MTG(ミーティング)というプログラムの時間に、「最後まで人の話を聞くこと」「人の話を否定しないで聞くこと」「自分の意見に自信をもつこと」という3つのことを体験的に習得できるよう努めています。

こちらの狙い通りにいかないMTGも多いですが、1年続けてきて、会話や対話を試みたことの効果はあると自負しています。

今のマナビダネは課題が山盛りかもしれませんが、「ぼくたちの哲学教室」という映画から、「マナビダネのしている子どもたちの関わりはとても必要なことなんだよ」と言ってもらえたように感じました。

みなさまも、ぜひ、こちらの映画ご覧ください。

<メールマガジン8月18日号からの転載>

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