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【Interview企画/ちうね先生-Vol.3】伝えることの難しさ・漫画としての面白さとは?【学生小委員会】

みなさんこんにちは!土木学会学生小委員会です!
前回に引き続き、雑誌『まんがタイムきららキャラット』で2024年2月まで連載されていた紡ぐ乙女と大正の月つむぐおとめとたいしょうのつき(通称:つむつき)の作者であるちうね先生と、芳文社の担当編集である門脇さんにインタビューした様子をお伝えします!
 
 『紡ぐ乙女と大正の月』は、まんがタイムきららキャラットで連載されていた4コマ漫画で、女子高生・藤川 紡 ふじかわつむぐが大正時代の東京にタイムスリップし、窮地に陥ったところを公爵令嬢・末延唯月 すえのぶいつきに救われ、女学生として生活する日々を描いた作品です。
 今回は、ちうね先生が作品に込められたこだわりと読者の方に焦点を当て、知識を伝えることの難しさやコツを伺いました。長きにわたる連載が完結した先生の今後のビジョンも必見です!

前回はこちら!


「たのしいこと」と「つらいこと」

川端(学生小委員会)
 これまでのお話で、漫画を描くにあたって現地取材に行かれたり当時の文化・出来事を丹念に調べたりするなど、細部にわたってこだわりを詰め込んで作品を創られていることを伺うことができました。そうして創られた『紡ぐ乙女と大正の月』という作品も、先生ご自身もますます素敵だと感じました。一方、そういったこだわりはなかなか読者の方に伝わりづらい側面も持っていると感じています。先生ご自身は作品のこだわりが読者にどのように伝わっているとお考えですか。

ちうね先生
 最初は伝わらないことも多かったのですが、ファンの方が増えていくにつれて意外と拾ってもらえるようになりました。「こんなの楽しいと思っているの自分くらいだよな」みたいな細かいこだわりを込めたことが、沢山の方に読んでいただけたり、魅力を感じて熱心に推していただける一因になったと思っています。こだわりを仕込んだ甲斐があって嬉しく思います

末延邸の日本庭園を望む和館で話す紡と唯月
旧前田家本邸 和館がモデル
(『紡ぐ乙女と大正の月』3巻26話より)

⬇同アングルの写真は先生の取材記はちうね先生のFANBOXをご覧ください!


23話「一九二一年十一月五日」より、原敬暗殺事件翌日の末延邸と紡
各話のタイトルが日付になっているのも本作品の特徴
(『紡ぐ乙女と大正の月』3巻23話より)

⬇原敬暗殺事件にまつわる先生の取材記はちうね先生のFANBOXをご覧ください!


橋本(学生小委員会)
 「きらら(※注)」に掲載されている作品で、ちうね先生のように特定の分野の深掘りがファンの増加につながることはよくあることなんでしょうか。

(※注:芳文社から刊行されている『まんがタイムきらら』と姉妹誌の総称。)

門脇(担当編集)さん
 きららに掲載される作品は「女の子たちが新しい世界に入っていく」みたいなストーリーの作品が多く、そういったストーリーの中で特定の話題について詳しく取り上げるということが多いです。なので「漫画的おもしろさ」を保ったまま情報を加えられることが、きららに掲載している漫画としては「成功」といえるのかなと思います。漫画を描く上では「たのしいこと」と「つらいこと」の両方を知っていることが大事だと思います。そこを見落としてしまうと、単なる事実の紹介漫画になってしまいますね。

ちうね先生
 他の作家さんの描かれている作品の事情をあまり知っているわけではありませんが、自分の趣味や仕事・アルバイトの経験、興味のあることを題材にして作品を創られる方は多いという印象です。その方が楽しく調べたり描いたりできますし、より深い内容が描けると思います。

橋本(学生小委員会)
 苦労の「あるある」を知っていたり、つらいことをちゃんと知っていたりするからこそ楽しいところがより伝わりやすいということですね。

公爵令嬢・唯月と女中・紡の一日のスケジュール
どちらもかなりストイックな生活を送っている(送らされている?)
(『紡ぐ乙女と大正の月』1巻5話より)

「常識」を客観視すること

宮﨑(学生小委員会)
 自分の趣味や経験を背景に深い内容の作品を創っていくというお話ですが、同じ経験をしていない沢山の読者の方に深い内容を伝えることは容易ではないと思います。作品を通じて上手に伝えるために、作品創りの中で意識されていることやコツはありますか。

門脇(担当編集)さん
 「この話は世の中にどの程度知られているのか」という点に関しては論争になることが多いですね。例えば24話で登場した上野の東照宮に関して「徳川家康を祀っていることは知られているか?」については相当議論しました。

ちうね先生
 歴史に関心がない友人に「日光の東照宮に行った」と話したら「東照宮って何?」と言われました。自分の中では東照宮が家康を祀っていることは常識だと思っていたので面食らってしまって、改めて自分の常識を他人の常識にしてはいけないなと感じましたね。自分たちの常識になっていることを、他の人が見たときに常識といえるか否かをどこまで客観視できるかが大事だと思います。

門脇(担当編集)さん
 私たちが常識と思って普通に流しているところが本当に伝わるかについてはとても気にしてました。

東照宮の祭神を知らない紡
初野(左上)の蜂須賀家は徳川家と繋がりが深いとされる
(『紡ぐ乙女と大正の月』3巻24話より)

橋本(学生小委員会)
 ちうね先生と門脇さんのどちらも歴史に詳しい状況だと「客観視」をすることは難しいと思うのですが、どのようにして対処されてきたのでしょうか。

門脇(担当編集)さん
 やはり、編集も作家さんも漫画を創るプロセスの最初から立ち会っているので、前提知識を持ってしまっているというところは落とし穴になりやすいと思います。なので、作品を見つめなおす過程では一度「頭を空っぽ」にして考えるということが重要です。一緒に考えたから伝わっているけれど、読者にとっては説明不足だと思われるところを意識的に探すようにしています。

橋本(学生小委員会)
 いつも論文など自分の書いた文章を見ていて、客観的に読み返すことは難しいと感じるのですが、上手く切り替えるためにどのような心がけが必要なのでしょうか。

門脇(担当編集)さん
 ネームを一気に読んでいて引っかかるなと思ったら、一度休憩して「初めて読むとき」の気持ちに切り替えています。

川端(学生小委員会)
 以前別のインタビュー記事を作成した際に、執筆に時間をかけるほど自分の記事を「もう完璧だ!!」と錯覚し、読み手の受け取り方を上手にイメージできなかったことがあります。その結果、記事の方向性や表現について8時間以上の大論争になったことがありました。そういった際にうまく切り替える方法など、何かアドバイスを頂けたら嬉しいです。

ちうね先生
 私と門脇さんも1個の些細なことに対して2時間くらい電話で討論していたことがありますね。だから熱量をもって取り組むとそれくらいぶつかるというのはどんな分野でも共通だと思います。でも、白熱した議論のどこかで一瞬クールダウンする時が訪れるんですよ。「確かにそうかも」と思って折り合いがついたりすることがあるので、1日くらい間を置くことがコツですかね。らちが明かなくなったときは一度保留にして頭を冷やすのが大事だと思います。

橋本(学生小委員会)
 原稿を見返したりお二人で議論したりする中で、時折休息などで時間を作って意識的に冷静になることで、客観的な視点で見直しながら作品創りを進められているのですね。自分たちが直面した課題がプロの世界でも地続きの難しさを備えているということは非常に興味深いと思いました。今回のインタビュー記事作成でも早速実践してみたいと思います。アドバイスいただきありがとうございました!

おなじみ「ぷりぷりプリン~♪」にちなんでプリンをお供にお話をうかがいました!
(『紡ぐ乙女と大正の月』3巻27話より)

ちうね先生の『これから』

川端(学生小委員会)
 今回のインタビューを通じて、ちうね先生のさまざまな思いが作品に込められていることを改めて感じました。『紡ぐ乙女と大正の月』は2月(2024年4月号)で最終回を迎えますが、今後クリエイターとして取り組みたいことや将来のビジョンについてお考えがありましたらお聞かせください。

ちうね先生
 月刊誌で連載中は毎月〆切に追われていて大変だと思うことも多いですが、終わってしまうとぽっかり心に穴が空くと思うので、あまり時期をあけずに何らかの形で作品を連載したいです。今回は歴史を題材にして、楽しいことも苦しいことも沢山味わうことができたので、次は自分の別の趣味を題材にしてみたいと思っています。ただやっぱり歴史は好きなので、いつかは自分の専門である中国史を絡めた作品を描いてみたいという目標があります。

川端(学生小委員会)
 次回作も楽しみです!本日は貴重なお話をたくさん聞かせていただきありがとうございました。

感想

 今回のインタビューでは、作家さんと編集さんそれぞれの立場から見ることのできる「知識を漫画で伝えること」のコツや苦労をお聞きすることができました。「たのしいこと」と「つらいこと」のどちらも知っているという知識・経験を持つ人の強みに裏打ちされた面白さと、客観的な視点から自らの常識を疑う過程を両立させることは、人に伝えるという行為に対して普遍的に共有できる知見だと強く感じました。今回の記事を執筆する中でもアドバイスを頂いた客観視の難しさに悩まされ、重要性を身に染みて実感しました。改めて、今回得られた伝えることに関する知見を今後の活動や人生に活かしたいと強く思います。
 近年の土木業界は市民に向けた広報活動・アウトリーチが課題の一つとして認識されています。会長特別プロジェクトをはじめ、学会内外の関係者による様々な活動が推進されていますが、市民理解や認知度向上の取り組みは、未だ道半ばの状態と感じています。今後、私たちのありのままの姿や社会に提供できる価値を市民に知ってもらうことにとどまらず、土木・建設業界に対しても、ちうね先生の作品のように興味を持ってもらえる方が増えてほしいと感じました。

先生のご厚意で、学生小委員会に向けてサインをいただきました!ありがとうございました!
(土木学会本部の応接室に飾らせていただいております!)

<謝辞>

今回私達のインタビューのために貴重なお時間を頂戴しました
ちうね先生
担当編集 門脇 拓史 様
には厚く御礼申し上げます。本当にありがとうございました。

<取材チーム>

学生小委員会
東洋大学 宮﨑康平
東京大学 橋本拓幸
東洋大学 川端浩平
2024年1月12日 『土木学会応接室』にて

<メンバー随時募集中!>

「インタビューを通して、直接話を聞いてみて考えを巡らせたい!」「インタビューしたい相手がいる!」という学生は、是非とも学生小委員会に参加し、私たちとともにいろいろな方へインタビューに行きましょう!その他さまざまな企画も進行中です!