※ 冒頭に付記していた新居浜市と西条市が推進する朝ドラ誘致運動『新幹線の父 十河信二と妻キクの物語を朝ドラに!』を別の記事へ移動しました。
JR西日本が北陸新幹線(福井-敦賀間)の開業日(2024年3月16日)を発表したのに合わせて、四国新幹線に関するニュース(北陸新幹線の大部分が開通した今こそ、4県が一致団結して四国新幹線の実現を目指す、等々)が流れています。
本州四国連絡橋の歴史を振り返れば、3ルートのうち、尾道・今治ルートは早い段階で自動車専用となりましたが、(JR西日本とJR四国の在来線が開通以来運行している)児島・坂出ルートに加えて、神戸・鳴門ルートについても地元の政財界が鉄道(新幹線)の併設を希望し粘り続けたそうです。
然しながら、1970年代に二度のオイルショックに見舞われ、国の財政が逼迫し、日本国有鉄道の財務状況も悪化する中、着工・開通当時(中央径間が)世界最長であった明石海峡大橋の建設が当時は技術的に困難であったこと等を理由として、神戸・鳴門ルートも自動車専用となりました。
新幹線については、本州四国連絡橋の全ルートが開通してから長い間、香川県・愛媛県・高知県と(高速バスに乗れば徳島駅から神戸(三宮駅)まで2時間~2時間半しかかからない)徳島県の意向は一致しませんでした。ところが、本年4月に後藤田正純前衆議院議員が徳島県知事に当選した後、岡山ルート支持を表明した結果、構想の実現に向けて弾みがつきました。
整備新幹線(フル規格の新幹線)の建設(高松市を経由して松山市と徳島市を標準軌の線路で結び(四国新幹線の一部)、宇多津から高知市まで標準軌の線路を敷設し(四国横断新幹線の南側半分)、宇多津から瀬戸大橋を経由して岡山市に至る標準軌の線路を設置する(四国横断新幹線の北側半分))には、約10年前の甘い見積りでは、宇多津で松山方向、高知方向、高松・徳島方向へ分岐させる場合は(車両製造コストを除き)1兆7700億円~2兆2800億円かかると推定されています。松山方向を(高知へ向かう途中の)阿波池田で分岐させる場合は(車両製造コストを除き)1兆6700億円~2兆1500億円かかると推定されています。高知方向を(松山へ向かう途中の)伊予三島で分岐させる場合は(車両製造コストを除き)1兆5300億円~1兆9600億円かかると推定されています。
以上の数字の中で最安値の1兆5300億円に車両製造コスト400億円を加えた1兆5700億円が様々な資料やパンフレットに引用されています。
過去の事例や、円安と世界的なインフレの進行を考慮すれば、実際に建設にかかる費用は3~4兆円に膨らむかもしれません。(尚、確かにインフレは費用も便益も増大させると思いますが、政府が費用対効果を検討する際に、費用が増えると、辻褄があうよう、便益も増える仕組みになっています。)
また、瀬戸内海沿岸から高知県に至る経路や、海岸線に沿って走る在来線のように遠回りすることなく愛媛県の東部(東予地方)から県庁所在地(松山市)に至る(短絡)経路は、高速道路(高知道や松山道)と同様に、多数のトンネルと橋梁を山間部に建設する必要があるため、費用が嵩み時間もかかりそうです。
巨大な公共事業である整備新幹線の事業費の大半は国および沿線の自治体が負担します。(JR各社は新幹線を整備する場合の収益と新幹線を整備しない場合の収益の差を限度として負担します。)独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)が建設し保有する施設を使用する対価としてJR各社が貸付料(借受料)を開業から30年間に渡り支払い、残りの3分の2を国が、3分の1を沿線の自治体が負担します。分割民営化以来ずっと赤字続きのJR四国には全く余裕がないので、国と県と市町村の負担が大きくなりそうです。(JR四国の負担は札幌延伸後の北海道新幹線の貸付料と同じ程度に抑えられるかもしれませんが、現時点では、新函館北斗-札幌間の貸付料は未定です。)
実際、例えば、愛媛県と香川県(および瀬戸大橋線を経由して岡山県)を結ぶ予讃線(電化区間のうち、松山-高松・松山-岡山)では(TBSの報道情報番組「情熱ワイド!ブロードキャスター」(土曜・午後10時~)の名物コーナー「お父さんのためのワイドショー講座」で旧統一教会をめぐる話題が年間ベストテン第1位に輝いた)1992年にデビューした8000系電車が未だに主力です。製造から30年が経過した車両を約20年ぶりにリニューアルして使い続けざるを得ないほど、JR四国には金銭的な余裕がありません。
JR四国(電車)配置表
所属形式 編成 両数
8000系 編成表 L編成・S編成 45両
8600系 編成表 E編成 17両
このように莫大な費用をかけても、四国各県の県庁所在地から新大阪駅まで1時間半前後(岡山駅から新大阪駅までは平均50分、最短44分)かかるそうです。(但し、四国アイランドの島民(四国4県の県民)を説得するために、リニア中央新幹線で新大阪駅と品川駅が(最短)67分で結ばれた暁には、四国各県の県庁所在地から東京までの所要時間が3時間を切る(航空路線に対抗できる)と喧伝されています。)
リニア中央新幹線の品川-名古屋間の工事が遅れ、名古屋-新大阪間の工事は始まってもいない現状では、四国各県の県庁所在地から新大阪駅まで1時間半前後で到達できるようになっても、東京へ向かう旅客の大半は空路を選択すると考えられます。
(地元負担を含め)四国で2兆円~3兆円~4兆円も費やすのであれば、毎年、国防予算が数兆円上積みされる中、若年層の大都市圏への流出と永続的な人口減少に対処するためにやるべきことは新幹線の建設以外にも沢山ありそうです。数兆円の一部を、例えば、結婚・子育て支援に回せば、四国4県の子供達が大学を卒業するまでにかかる授業料や医療費を無料化するくらいは朝飯前です。
フル規格の新幹線に固執するのであれば、岡山-宇多津間(約10年前の甘い見積りでは(車両製造コストを除き)2300億円~2800億円かかると推定されています。)のみ建設し、そこから先は山形新幹線(福島-山形の所要時間は1時間余り)や秋田新幹線(盛岡-秋田の所要時間は約1時間半)のようにミニ新幹線を(三線軌条化、あるいは、旧い狭小なトンネルを通過する際に線路中心が変わらないよう四線軌条化した既存路線や、急カーブが続く既存路線の線形改良や複線化のために新たに建設する標準軌の路線を経由して)高松駅、徳島駅(高徳線を電化する必要あり)、高知駅(土讃線(琴平駅以南)を電化する必要あり)、松山駅へ乗り入れれば、建設費用を大幅に(山形新幹線や秋田新幹線の事例によれば、おそらく一桁)圧縮することができそうです。
その際、四国新幹線の建設を早期に実現するためには、岡山駅以南に新幹線を延伸しても大きなメリットはない沿線の自治体(岡山県および岡山市、倉敷市、玉野市、他)に費用の負担を求めるべきではないかもしれません。また、並行在来線の取り扱いも極めてデリケートな問題です。
尚、この記事の主題から逸れますが、約660億円と見積もられている地元自治体の負担がなければ、西九州新幹線の未合意区間(未開通区間・未着工区間)に対する佐賀県の反対も少しは沈静化するかもしれません。(建設費用の地元負担とは別に、並行在来線の問題があります。)
但し、高松以東、多度津以西、多度津以南は単線なので、三線軌条化・四線軌条化(および電化)してミニ新幹線を走らせても、最高速度、平均速度、表定速度、所要時間、他はおそらく現状と大差ありません。
さて、(愛称)瀬戸大橋線を構成する本四備讃線(茶屋町駅-宇多津駅)の児島駅以南はJR四国の管轄です。(JR西日本が管轄する児島駅はJR西日本とJR四国の会社境界駅です。上り旅客列車も下り旅客列車も児島駅で乗務員が交代しますが、児島駅を通過する(JR貨物が運行する)上り貨物列車と下り貨物列車は児島駅で乗務員が交代することはありません。)
新幹線が児島駅に停車するにしても、児島駅を通過するにしても、JR西日本の乗務員が宇多津まで越境乗務すれば、(宇多津〜坂出周辺や多度津に車両基地や司令センターを建設する必要はあるかもしれませんが)四国新幹線のフル規格の区間の運行に携わる乗務員をJR四国が養成する手間は省けそうです。(JR西日本の乗務員が宇多津まで越境乗務する場合にもJR四国が(車両の取得・維持・運行を含む)費用を負担すれば、児島-宇多津間の運賃収入をJR四国に帰属させることはできると思います。)
構造がやや複雑な三線軌条や四線軌条は、保線に手間も時間もかかります。また、夜間工事だけで、運用中の狭軌の線路を三線軌条や四線軌条に変更したり、既に電化されている区間において電圧を変更(直流1500ボルト→交流20000ボルト)することは不可能です。(フリーゲージトレイン(1次・2次・3次試験車両)と同様に車両が直流1500ボルトに対応すれば、電圧を変更する必要はなくなります。)工事中は在来線を運休する必要があり、路線バスや高速バスによる代替輸送を提供しても、旅客離れが加速するリスクは高く、JR四国の経営状況を悪化させるかもしれません。(山形新幹線の工事期間中は仙山線を利用して東京-山形間の代替輸送が、秋田新幹線の工事期間中は北上線を利用して東京-秋田間の代替輸送が行なわれました。)
(山形新幹線や秋田新幹線と同様に電圧を変更した場合、交流20000ボルトに対応する普通列車等の新規製造も含めて)ミニ新幹線の導入にも多額の費用がかかるので、財務省が首を縦に振らなければ、宇多津(あるいは坂出)に新幹線のターミナル駅を建設して、在来線特急から新幹線へ、新幹線から在来線特急へ乗り換える方がミニ新幹線よりコストパフォーマンスが高そうです。(宇多津-坂出間の営業キロは4.6kmしかなく、宇多津は松山・高知に、坂出は高松・徳島に近くなりますが、宇多津駅周辺には新幹線駅舎等の用地が数十年前に確保されています。)
現在、岡山-宇多津間(45.9km)は在来線特急(例えば、しおかぜ)で(児島駅での1分程度の停車時間を含めて)32分(平均時速86km)かかります。(次の通り、区間によって最高速度は異なります。)
岡山駅 - 茶屋町駅 100km/h
(宇野線 - 単線区間あり、一部は複線)
茶屋町駅 - 児島駅 130km/h(複線)
児島駅 - 宇多津駅 120km/h(複線)
(児島駅を除いて)中間駅も踏切もない高架を建設して標準軌の線路を敷設すれば、宇多津デルタ線や瀬戸大橋や岡山駅手前のカーブを低速で走行しても、岡山-宇多津間を15分(平均時速184km)以内で駆け抜けることができそうです。
四国側のターミナル駅で新幹線と在来線との間をスムーズに乗り換えることができるように駅舎を設計すれば、これまでのように岡山駅でバタバタする必要がなくなり、四国4県から(伊丹空港ではなく)新大阪駅へ向かう旅客も、本州方面から四国4県へ向かう旅客も、増えるのではないでしょうか。
但し、下りの山陽新幹線で広島、山口、福岡、他へ向かう旅客は、これまでと同様に、岡山駅で乗り換える必要があります。
尚、三線軌条化・四線軌条化によって狭軌の線路を維持しながらミニ新幹線を導入する場合はそれほど問題になりませんが、フル規格の新幹線を建設する場合は、(これまでは、特別な事情で廃線となった信越本線の横川~軽井沢間を除き、並行して走る在来線は第三セクター鉄道会社に引き継がれてきましたが、今後は)並行して走る在来線が様々な(金銭的な)理由で廃線となる可能性にも留意する必要があります。
例えば、しばしば報道されているように、北海道新幹線の函館(新函館北斗駅)-札幌間が開業すると(二酸化炭素排出量の削減に資する)貨物列車が北海道(札幌-本州間)では消滅するかもしれません。
無理と無駄は「あたり前田のクラッカー」の公共事業ですが
4県合わせても人口が400万人に満たない四国に数兆円の投資(全線フル規格の新幹線)を行っても、不動産業者と土木建設業者と建材業者が儲かるだけで、投資を回収することは不可能です。
数千億円の投資(岡山-宇多津間のみフル規格の新幹線を建設し、宇野線の完全複線化を大幅に上回る速達化をはかる)で数兆円の投資(全線フル規格の新幹線を建設する)と同様の経済波及効果を狙う方が賢明ではないでしょうか。
四国4県の経済界は安易に譲歩するつもりはなさそうですが、標準軌の線路が瀬戸内海を越えて宇多津まで続いていれば、日本が高齢化と少子化を脱する頃には、欧米各国(特に米国)のように、一握りの巨大都市に集中しない国土の発展を描き、需要に応じて、宇多津から先へ延伸する機会は訪れると思います。政治家の先生方と地方公務員の皆さんの英断に期待します。
尚、フル規格の新幹線の建設費用を削減するために大成建設、他、が「単線新幹線」(岡山ー宇多津間は複線新幹線)を提案していますが、建設費用は半分では済まないようです。また、単線新幹線は(特急列車も普通列車も同じ線路を走行する)在来線のように過密な状況にはならないので心配する必要はないかもしれませんが、単線の下では、山陽新幹線で発生したダイヤの乱れを四国内で短時間に吸収し解消することがやや難しくなる一方、四国内で発生したダイヤの乱れが山陽新幹線へ伝播し易くなるかもしれません。何れにしても、前例がないので、提案の内容を精査する必要がありそうです。
TALGO および CAF(BRAVA)で使用可能な軌間変換装置
電気機関車はモーターが台車に搭載されているようです。
電気機関車の台車
客車の台車(連接台車)
客車のみ、動力車に比べ構造が簡単
(Montreux Oberland Bernois Railway - MOB)
(Bern Lötschberg Simplon Bahn - BLS)