肺水腫の画像診断について思うこと【心不全?ARDS?それとも??】
肺水腫,皆さんご存知ですかね?
「心不全で起きますよね!?」
そうです.
だから,循環器内科医の私には,深く関わりのある画像所見です.
では,ここで疑問です.
「肺水腫の画像所見を見たら,心不全ですか?」
ここが難しい.
非常に難しい.
こんな愚痴をこぼしてしまうくらい,難しい.
(正確には,ツイートしているのは"肺胞性陰影"についてですけどね.)
今回は,改めて,肺水腫の画像診断について,豆知識も添えて考察していきます.
結論:画像だけで診断出来たら苦労しない.循環器内科は要らない.
結論はこれですよね.
皆さん,BNPの値だけで,心不全って決めつけないですよね?
それと同じです.
画像診断は,あくまで画像診断である,ということです.
画像所見は1つの検査所見に過ぎず,臨床診断とは,「合わせて一本」を目指すことにあります.
議論に移る前に:肺水腫ってなんぞ?
肺水腫とは,肺において,血管から間質への流出が,リンパ路からの除水を上回ったことで生じる現象です.
画像的特徴は,上肺野の血管陰影≧下肺野の血管陰影,肺門部周囲の血管陰影≧胸膜直下の血管陰影,となることです.(Spared lesion)
これは,下肺野には横隔膜が,胸膜直下には胸膜が,それぞれリンパ路の入口として,豊富なwash outをしているから,このような分布になります.
リンパ路付近は水はけがいい,ってことです.
実用性:肺水腫の画像診断から,どんな情報を得ればいいのか.
心不全を鑑別には上げます.
心不全による肺水腫とは,すなわち,心原性肺水腫ですね.
では,非心原性肺水腫とは?
これは,ほぼほぼARDSですね.
肺水腫には,心不全による心原性肺水腫と,ARDSによる非心原性肺水腫,がある.
「おお,鑑別が2つに絞られるじゃないか!すごく有用!」
と思うかもしれませんが,ここからが一筋縄ではいきません.
心原性と非心原性の肺水腫を画像から見分けられるか?
結論としては,無理です.
ただ,「こっちっぽいな...」くらいはあります.
➀心拡大があると心原性を疑う
まあ,それはそうなんですけど,じゃあ,慢性心不全の人がARDSになったらどうするの?
というシンプルな疑問もあるわけです.
「ベースに心疾患があるかどうか」なんて情報も,扱いは同じですね.
➁右優位の陰影は,心原性肺水腫の可能性がある
これは,肺静脈の解剖学的な距離の問題で,右肺から左心房への還流が,対側に比して悪くなることに起因します.
心原性肺水腫が両側になることはしばしばあるので,当然,決定打にはなりませんがね.
➂牽引性の気管支拡張を認めたら,非心原性
これは,病態的に妥当な考え方.
肺の器質化を反映した所見なので,基本的には慢性化しつつあるARDSに見られる所見です.
ただ,今,"慢性化"と言いましたよね.
そうです.
発症初期に,こんな所見はないので,見つかればラッキー,という所見で,決定打とはなりにくいです.
➃非心原性肺水腫は,心原性に比し,胸膜直下まで侵されることが多い
Wash outのされやすさの差です.
ARDSは,血管透過性が高まることをベースにする病態なので,wash outはされにくいわけです.
これも,病態生理に基づいた所見なので信頼性はありますが,線引きが難しい,というか不可能です.
あくまでも,「これはずいぶん胸膜直下まで陰影があるな...実はARDSなのかな??」という具合に,頭の片隅に入る程度です.
➄非心原性肺水腫だと,浸潤影分布にムラがあり,正常部と病変部分が区切られたように見える(homogeneousではない)
確かに,心原性肺水腫では説明のつかない画像所見にはなるんですが,ARDSなら必ず「正常部と病変部が区切られる」というわけでもないので,参考所見の域は出ません.
このように,「心原性肺水腫と非心原性肺水腫を見分けるための所見」とされているものはいくつかあるのですが,臨床での肌感から言わせてもらうと,全て決定打にはなりません.
繰り返しますが,画像からこれらを完全に区別することは不可能です.
実際の鑑別はどのようにするか
では,実臨床でどのように見分けているか.
ポイント➀:心不全もARDSも,結果であって原因ではない
それぞれの仮定の下に,原因は何か,と考えます.
原因が定かでない心不全,原因が定かでないARDS,なんてものは,鑑別としては上位に挙がらないものです.
原因が明確なものを,主な治療の対象にしましょう.
ポイント➁:ARDSの酸素化不良はえげつない
これは一概には言えませんが,ARDSは数ある呼吸不全の中でも酸素化不良が著しいです.
P/F比があまりにも悪い,ないし,PEEP10以上でないと酸素化を保てない,なんて状況の時は,ARDSの方が疑わしいです.
ポイント➂:心不全加療に反応しない.するとARDSの可能性が高くなる.
治療の順番の話です.
どちらかわからない時は,心不全として対応しましょう.
理由は2つ.
心不全の方が疾患頻度が高いこと.
心不全の方が(基本的には)治療反応が速いこと.
ポイント➃:スワンガンツカテーテルを入れれば,心不全の有無はほぼ証明できる.
それでもわからない時は,スワンガンツカテーテルで肺動脈楔入圧を測ります.
心不全で肺水腫を呈すには,左心房の圧が高くならねばなりません.
この左心房の圧と近い相関をするのが肺動脈楔入圧なんです.
肺動脈楔入圧が高くないのに肺水腫≒非心原性肺水腫
ということでいいでしょう.
但し,スワンガンツカテーテルは侵襲的な手技になるので,最終手段ですね.
まとめ
以上,肺水腫の画像診断でしたが,いかがでしたでしょうか.
最後に伝えたいメッセージをまとめます.
肺水腫は,心不全かARDS
心原性肺水腫と非心原性肺水腫を画像だけから鑑別するのは無理
わからなければ,まずは心不全として加療.治療反応が悪ければ,ARDSの可能性を考える.
最終手段は,スワンガンツカテーテルによる肺動脈楔入圧測定.
余談
完全な余談ですが,
肺水腫の画像かな,と思ってた画像が,「そもそも肺水腫じゃない」ことが多々あります.
肺炎だったり,肺胞出血だったり,がん性リンパ管症だったり....
ときに似たような画像を呈す病気は,五万とあります.
そこは放射線読影のプロにお任せしておきたいところですが,病態生理から肺水腫らしいな,と思えるのは,やはりSpared lesion(胸膜直下などの陰影が弱いこと).
病態生理は嘘をつかない,というのが持論です.
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