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Amazon Prime無料配信で見れる、0から見始める戦争映画のすゝめ(歩兵戦)


 戦争映画は、いわゆるジャンル映画だとされる。自分は人々がどのようなジャンルの映画を見るのかは知らないが、第二次世界大戦以降の戦後日本における対外戦争を放棄する平和主義教育において、戦争という概念自体が忌避されてきたし、あるいは人々の倫理観が高まっているので「戦争を娯楽として消費するなんて」とすら言われてきたように感じる。
 もちろん映画を楽しんで見るためにも平和は大事だ。

紀伊國屋書店『ストリート・オブ・ノー・リターン』DVDの特典映像より引用

 それでもフィクションはあくまでフィクションだ。映画は産業のひとつであり娯楽として作られている。自分は映画が観客を楽しませるためにあらゆる手段を講じることに感動してしまう

 まあ政治的(個人的)な話を抜きにしても、戦争映画というジャンルは大きく分ければ3つの要素…青春映画、アクション映画、歴史映画としての側面があると自分は思っている。

1.青春映画
 戦争には若者が駆り出されることが多い。また兵士は一人で戦うわけでなく部隊に配属されて戦友と時間を共にする。多感な時期に戦争という事象が若者にどのような影響を与えるか…というドラマは青春映画的である
2.アクション映画
 戦争では銃器・戦車・戦闘機・戦艦など、多種多様な兵器が活躍する様は戦意高揚やプロパガンダに使われることもしばしばだが、しかし武器兵器の活躍やアクションシーンを目玉としている戦争映画も多いと思う
3.歴史映画
 戦争は人類の歴史そのものだ。その再現ドラマとして叙事詩的に語られる戦争映画も存在する(黄金期は1960~70年代くらい?)…あるいは現実の歴史を題材にする戦争映画は、常に何らかの形で時代性を反映する側面を持っている

 青春要素が高じて恋愛要素に接近したり、アクションが過激になってバイオレンス描写が増えたり、主体的に歴史を語りすぎてプロパガンダや政治的になりすぎたりもすると思うが、まあ「どのように戦争映画を見たら分からない」という人にはひとつの見方になるのではないかと思う。

 自分は戦争映画だと陸戦、それも歩兵戦の映画しか見ないので空戦や海戦の映画は入っていません。また邦画の戦争映画もほとんど見ていない(配信にもないしね)のでリストに入っていません……あしからず。

 それでも洋画の歩兵戦もので言えば結構基本的なところは見てきたと思う(参考:所持DVDリスト)し、何がメジャーで何がマイナーくらいの分別は付くと思っているので、これから戦争映画に触れてみたいと思っている人に向けて、今さら紹介するでもないが、メジャーなものだとか見やすいもののポイントなどを紹介を出来たら良いかなと思っている。

 個人的なオススメは『最前線物語』(リコンストラクション版)ですが、配信にないのでDVDを買って(借りて)見て下さい

 私のベスト戦争映画は『最前線物語』『戦争のはらわた』『激動の昭和史 沖縄決戦』『まぼろしの市街戦』あたりだと思うのだが、prime無料配信にないのでU-NEXTのページを貼っておく。

でも大体みんなprimeとかには入ってるのではないかと思っているので、Amazon prime無料のもの(24年5月1日現在)を貼っていこうと思う。


戦争映画の金字塔10作

 何はともあれ、絶対に聞いたことがあるであろう戦争映画の基本。戦争映画好きの人たちは絶対に見たことがあるだろう有名作品たち。この辺りから見始めるのが実際入りやすいと思う。

プライベート・ライアン(1998)

 スティーブン・スピルバーグによる第二次世界大戦の映画。この映画が00年代の戦争映画と戦争ゲームの潮流を決定づけた。彩度を落としたくすんだような色彩や白黒映画のようにコントラストの強い映像は、00年代の映像作品やビデオゲームに多大な影響を与えた。
 というか同時期にスピルバーグ監督が直接的に関わった『メダル・オブ・オナー』シリーズは、後の『コール・オブ・デューティ』シリーズや『バトルフィールド』シリーズに分派しており、スピルバーグが00年代の戦争映画や戦争ゲームのシーンを作ったと言っても過言ではない

 スピルバーグは明らかに『鬼軍曹ザック』『コンバット!』あるいは『最前線物語』のような分隊ものを念頭に置いている。戦争映画好きに衝撃を与えた冒頭のオマハ・ビーチのシーンは有名。実在のナイランド兄弟の話を基にしてはいるが、作戦行動自体はかなりフィクション。
 けっこうグロ・スプラッタ要素が強くて内臓が出たりショッキングなシーンも多いが、この作品以降はこれが戦争映画のスタンダードになった。第二次世界大戦というモチーフにスピルバーグは執着しているが、のちのテレビシリーズ『バンド・オブ・ブラザース』などにもそれが現れている。

 とにかく、現代の戦争映画の基準となった一作。『ウインドトーカーズ』も『ブラザーフッド』も『スターリングラード』も、みんな『プライベート・ライアン』をやりたがった(と、自分は思っている)。アクションとドラマのバランスも取れていると思う。
 私は昔この映画はメジャーすぎて嫌いだったが、最近は結構普通に良いんじゃないかと思うようになってきた。まあ好き嫌いはともかく、基本です。

フルメタル・ジャケット(1987)

 スタンリー・キューブリックによるベトナム戦争の映画。前半の罵詈雑言飛び交う訓練シーンはネットミームにもなっていて有名だと思う。実際に従軍経験のあるリー・アーメイが演じたハートマン軍曹と言えば通じる人も居るだろう。

 とはいえ、戦争映画としてはかなりベーシックな作りをしていると思う。『西部戦線異状なし』からそうなのだが、厳しい訓練を受けた後に実際の戦場に赴き現実を知る…というのが戦争映画でよくある展開。
 よく前半の面白さに比べて後半があんまり…という声も聞くが、結構手堅い作りをしていると思う。キューブリックの戦争映画としては他に『突撃』や『博士の異常な愛情』があるが、前半の訓練シーンはブラックユーモア的で『博士の異常な愛情』っぽく後半の戦場シーンは『突撃』的なシリアスさが組み合わさっているようにも感じる。『黒く塗れ』『サーフィン・バード』『にくい貴方』など当時流行していた音楽が挿入されるのもいい。
 表面的な罵詈雑言も勢いがあって、ついそれだけでウケてしまうが、ちゃんと読み解いていっても様々な含みがあって面白いと思う。さすがによく出来ています。

プラトーン(1986)

 実際にベトナム戦争に参加したオリバー・ストーンによる映画。これもまた当時の戦争映画の基準になったと思う。先駆するベトナム戦争ものとしては78年に『ディア・ハンター』、79年に『地獄の黙示録』が公開されたが、『プラトーン』はあくまで最前線の一兵卒の視点から描いているのがドラマとしてもアクションとしても良かったのだと思う。

 激しい戦闘シーンに対して荘厳な雰囲気のクラシック『弦楽のためのアダージョ』を主題とするバランス、小隊内の対立を中心に展開する物語、人種差別に社会格差問題、米軍の戦争犯罪など様々な要素が絡み合っている。歴戦の鬼軍曹新任の少尉正義感から志願した主人公のようなキャラクターたちは典型的なものだが、物語は王道というよりも厭戦的なものであり、監督の体験に基づきアメリカの戦争犯罪を告発する形で、それまでの典型的な戦争映画像が脱構築されて描かれていると思う。
 『プライベート・ライアン』に先駆けて、海兵隊員のデイル・ダイが俳優たちに訓練を施して撮影された映画でもある。監督自身の私小説的な側面もあるし、徴兵されてきた若者たちを描いており青春映画的な要素も強いと思う。やや音などは古いが、やはり戦争映画と言ったらこれ! という映画。

ブラックホーク・ダウン(2001)

 00年代の戦争映画と戦争ゲームの潮流を決定づけた映画パート2。というか『コールオブデューティ』『バトルフィールド』あるいは『バイオハザード5』なんかは絶対に影響を受けているし、上映時間のほとんどが戦闘シーンというすごい映画。戦争FPSみたいな映画だと思うが逆で、戦争FPSがこの映画みたいだというのが正確なのだ。

 自分は戦争映画やアクション映画における戦闘シーンをミュージカル映画におけるミュージカルシーンと同じだと思っている(サミュエル・フラーが言うところの「死のバレエ」)のだが、この映画は特にそれが顕著だ。

 とにかくアクション! という感じで、キャラクターたちの感情も疎かにはされていないが普通の劇映画を見慣れている人は面食らうかもしれない。
 夜戦のシーンを暗視ゴーグルをイメージした緑色の光源で表現したのはよく考えるとおかしいが、画作りが決まりすぎているので違和感なく見れてしまう。っていうか『エイリアン』や『ブレードランナー』のリドリー・スコット監督なんだから言われてみればそうか…という妙な納得もある。

アメリカン・スナイパー(2014)

 クリント・イーストウッド監督に人々がどのような印象を持っているかは知らないが、自分にとってイーストウッドは「名無しの男」でありリボルバー拳銃を早撃ちし悪漢を制圧する、無敵の西部劇のガンマンなのだ。

 そしてアメリカの対テロ戦争に対する態度も西部開拓時代の延長だ。と、この映画は示しているように感じる。古典的な西部劇におけるインディアン(アメリカ先住民)は対テロ戦争ではアラブ人に姿を変え、アメリカは対外戦争を繰り返している…。
 …というのはこの映画の主題ではないが、自分はそう読み取った。テーマとしては現代における戦争に対するシニシズム的な態度が根底にあるように思う。アメリカはベトナム戦争以降、徴兵制を廃止し志願制のみとなった。対テロ戦争は国防を謳うし、祖国を守ることとは家族を守ることだと言う。それは近代の国民国家システムから言えば当然のことだ…特に徴兵制や国民皆兵のシステムであるならば。
 そして現代の情報社会は戦争とメディアの距離をより近くした。それはケネディ大統領の暗殺が生中継されたベトナム戦争の時代からそうだが、劇中で、戦場で通話中に戦闘に巻き込まれる主人公とその子供を身ごもる妻の対比がそれを強調する。
 00年代の対テロ戦争の裏では、アメリカは平時の日常を営んでいた。『24』などのテロを題材にしたドラマが人気を博し、戦争映画や戦争ゲームが浸透していった。
 特殊部隊の狙撃手である主人公は守護神である「英雄」として象徴化される。そして兵隊たちが守るべきものとは…「国家」「家族」といった象徴そのものだ。近代国家のシステムだ。


スターリングラード(1993)

 冷戦終結後、統一されたドイツによって製作された映画。第二次大戦の東部戦線、表題のスターリングラード戦線を舞台にしている。
 歴史的に言ってドイツの戦争映画というのは『橋』とか『Uボート』とかも面白いんだけど、とにかく話が暗いので疲れている時は見ないほうがいいかもしれない。

 戦後の西ドイツでは国防軍無罪論という言説があって、これは冷戦の緊張化に西ドイツの再軍備を急ぎたい西側諸国にとって都合がよく、広く受け入れられた。
 ハリウッドと西ドイツで撮られたサム・ペキンパー『戦争のはらわた』(1977)のシュタイナー曹長はこの国防軍無罪論をある種体現したキャラクターにもなっていて、それとは対照的に、ドイツ統一後に撮影されたこの『スターリングラード』(1993)はドイツ国防軍による戦争犯罪についても触れられている。(…と思う。見たのだいぶ昔なので事実誤認があったらすいません)
 知り合いのドイツ人的には微妙なとこもあるようで(日本で南京事件を描いた映画が好まれない感じ?)、個人的には『ジェネレーション・ウォー』の人間ドラマのほうが良いと思うという声もあった。

 ちなみに主演のトーマス・クレッチマンは『戦場のピアニスト』『ヒトラー ~最期の12日間~』などでも何度もドイツ軍人役を演じていて、ハンサムであり、けっこうファンも多い印象です。

この映画を見た10割の人間はショカコーラを食べたくなることで有名。

スターリングラード(2001)

 邦題は上と同じ『スターリングラード』だが、こちらの原題は"Enemy at the Gates"。実在の狙撃兵ヴァシリ・ザイツェフを描いたもの。
 上の『アメリカン・スナイパー』でも触れたが狙撃兵というのは集団から外れているからか何となく象徴化されやすくて、この映画でも実際にプロパガンダというか戦意高揚に利用される主人公の姿が描かれている。
 狙撃シーンの出来としては…ちょっと疑問符が残る演出もあるけど、こんなもんじゃないでしょうか。これも『コール・オブ・デューティ』などに影響を与えていると思う。女性兵士とのロマンスもありつつ、ちゃんと娯楽映画になっています。

父親たちの星条旗(2006)

 イーストウッドがスピルバーグと組んで撮った「硫黄島プロジェクト」の米軍側視点。『アメリカン・スナイパー』にも似ているが、やはり「硫黄島に旗を掲げた英雄」として象徴化された兵士たちを描いている。『ウインドトーカーズ』でも取り上げられた題材だが、太平洋戦線におけるアメリカン・インディアン(アメリカ先住民)の兵士――当時のアメリカにおける人種差別についても触れられている。

硫黄島からの手紙(2006)

 そしてこちらが日本側視点。そもそも全編日本語なのが凄いのだが、同じ戦場を両方の視点から描くなんて映画は、かなり珍しい。古くは『トラ・トラ・トラ!』『史上最大の作戦』『パリは燃えているか』『遠すぎた橋』『バルジ大作戦』など、オールスターで撮られた叙事詩的な大作戦争映画では見られた形式だが、現代的な戦争映画らしく一兵卒らの視点から描かれるのはあまり見たことがない。強いて言えば『レマゲン鉄橋』などが近いかもしれない。
 そういう意味でも意欲作なので、押さえておきたい二部作。

西部戦線異状なし(1930)

古い映画を見ることに抵抗がないのなら、『西部戦線異状なし』は絶対に見たほうが良い。反戦映画の基本形は1930年に既に完成しており、そして戦争は現代でも続いていることが分かる。
 冒頭の戦意高揚の演説、訓練を受ける新兵たち、歴戦の下士官、戦争への幻滅と疲弊、殺人行為への忌避感、平和な銃後の内地との乖離…というようなモチーフは、あらゆる戦争映画で繰り返し見られる
 大人数を動員したであろう戦闘シーンの迫力は、今じゃ逆に撮影できないかもしれない。


戦争ドラマ/戦争アクション

 戦争(戦場)や兵隊そのものというよりも、戦争を題材にしたドラマやアクションを描いた映画というのも広義の戦争映画に含まれると思う。

7月4日に生まれて(1989)

 アメリカにとってベトナム戦争はトラウマであり、この『7月4日に生まれて』は当時のアメリカにおける公民権運動や反戦運動を描いている。監督は『プラトーン』のオリバー・ストーン。戦場よりも当時の情勢に焦点が当てられている。

フォレスト・ガンプ/一期一会(1994)

 戦争というよりも20世紀アメリカ史を描いた映画という印象はあるが、『フォレスト・ガンプ』もまたベトナム戦争と反戦運動を題材にしている。戦争という事象を巡ってアメリカの世論が大きく二分されているというのは今現在でも続くモチーフであり、その一端が伺えると思う。

地獄のヒーロー(1984)

 いわゆるMIAもの(捕虜救出もの)というサブジャンル。『地獄の7人』『ランボー/怒りの脱出』もこのジャンルに属する。繰り返しになるがアメリカにとってベトナム戦争はトラウマであり、未だ行方不明のまま帰ってこない兵士を救出しに向かうという物語はアメリカにとっての「癒やし」だった。広い意味では『コマンドー』もそうだと思う。『コマンドー』は「癒やし」の映画なのだ…そして『地獄のヒーロー』もそうだ。

ワイルド・ギース(1978)

 アフリカの地における傭兵を描いた戦争アクション。黄金期の戦争映画ってこういう質感だったよなという好例。国際関係や政治、人種の問題もそこそこに、テンポのよい映像でキビキビしたアクションが展開される。
 監督のアンドリュー・V・マクラグレンは『コマンド戦略』でも似たような雰囲気の骨太な映画を撮っており、そこに007俳優のロジャー・ムーアなどの顔が加わると更にエンタメ感が増して良いなと思う。

シンドラーのリスト(1993)

 いわゆるホロコーストもの。第二次世界大戦は人種差別の戦争であり、絶滅戦争だった。西部戦線はキリスト教徒同士の戦争であり終戦直前に強制収容所が発見されるまでは騎士道的な精神というか寓話性があるのだが、こと東部戦線太平洋戦線では人種差別や思想などがより強調されてくる。
 スピルバーグの『シンドラーのリスト』ではその一端が垣間見える。『炎628』『戦場のピアニスト』などと合わせて見たいかもしれない。

ミュンヘン(2005)

 厳密には戦争ではないが、1972年のミュンヘン五輪における「黒い九月事件」に対するイスラエルによる報復作戦を描いている。アクションというより暴力であり、ドラマというよりもサスペンスかもしれない。のちに『カジノ・ロワイヤル』でジェームズ・ボンド役を得るダニエル・クレイグがサイドキャラクターとして出演している。

ブラッド・ダイヤモンド(2006)

 冷戦終結後のアフリカにおける紛争ダイヤモンドを巡る物語。内戦における少年兵問題やジャーナリズム、アフリカーナーと呼ばれる白人入植者、強制労働問題などが描かれるが結構普通にアクション映画だった記憶がある。
 アフリカは金やダイヤ、石油などの資源が豊富だが、それらが紛争の原因や資金源となっていることが問題となる。現代は先進国における倫理的消費が価値を持ち始めているが、この映画はその一端を描いているとも言える。

ボーダーライン(2015)

 メキシコを舞台にした、いわゆる麻薬戦争もの9.11以降のアメリカの対テロ戦争ではグアンタナモ収容キャンプなど超法規的な側面があり、『24』シリーズや『ゼロ・ダーク・サーティ』では直接的にアメリカによる拷問や人権侵害が描かれていたが、この映画もそのような題材を描いていると思う。近代社会は文書による手続き(台帳や契約)が基本原則なのだが、戦争などの暴力はあまりにも容易にそれらを破ってしまう。

エリート・スクワッド ~ブラジル特殊部隊BOPE~(2010)

 ブラジルの軍警察特殊部隊を主人公とした映画。軍も警察も国家が保有する暴力装置ということは同じだ。軍隊は抑止理論に基づいて国外に、警察は治安維持に基づいて国内に向いていると言えるかもしれない。
 近代国家の軍や警察などの暴力装置は、市民の所有する暴力が委託されて国防や治安維持を担っている。では、国家や暴力装置そのものが腐敗していたら…? 誰が番犬ウォッチドッグとなり歯止めをかけるのか、という物語でもある。


古典的名作・佳作的な作品の紹介

 上記したような超大作ではないが、けっこう見どころがあって面白い戦争映画もprimeで配信してるのでそれらを紹介したく思う。

 ちなみに歴史映画的な味付けの強い『史上最大の作戦』『遠すぎた橋』『トラ・トラ・トラ!』などの60~70年代のオールスター大作映画はprime無料に無いのもそうですが、俯瞰的・叙事詩的な視点があまり現代的でないかなという気もしたので、ここには含めていません。(配信はしてほしい)

戦場(1949)

 終戦直後に作られたバルジ戦線の映画。白黒映画で雪景色を撮った時点で勝ちだと思うのだが、実際よく出来ている。実際に退役兵が演じたりしていて、当時の雰囲気とかが伝わってきて良いと思う。雪にはしゃぐ兵隊とか同じ携帯食ばかり食わされてうんざりしてる描写とか、実際の話や経験に基づいているんだろうなという感じがしていい。
 戦後直後くらいの戦争映画には珍しくないことだが、実際の戦争経験者たち(元兵士たち)が俳優となって隊員を演じていたりもする。雪景色の戦争映画はクリスマスが近いこともあって、何となくしっとりしている。
 ちなみに自分はドン・シーゲル『突撃隊』、ロバート・アルドリッチ『攻撃』、そしてこのウィリアム・A・ウェルマン『戦場』を勝手に「ジークフリート戦線三部作」として捉えている。

鬼軍曹ザック(1951)

 自分の戦争映画ベストはサミュエル・フラーの『最前線物語』なのは先にも述べたがこの『鬼軍曹ザック』『コンバット!』みたいで結構好きだ。朝鮮戦争は米軍が初めて人種混成部隊を編成して戦った(それまでは人種別に部隊が分けられていた)戦争であり、公民権運動以前のアメリカにおける有色人種への扱いなどが描かれている。
 軍隊という組織において上官の命令は絶対であり、そして軍隊という組織は個々の人間の事情や感情などを加味しない。それは現代社会における会社や企業と同じだと自分は思っている……その意味で兵隊という仕事は超ブラック企業なのだ、という見方をできる映画はいくつかあると思う。
 そうでなくとも、ザック軍曹や韓国の少年ショート・ラウンドトンプソン伍長タナカ軍曹などのキャラクターがいい。80分と短くて見やすいし、人種問題や組織論など現代にも通じるテーマがあって面白いと思う。

地獄の戦場(1951)

 『西部戦線異状なし』のルイス・マイルストンが監督した太平洋戦線の映画。けっこうずっと兵隊たちが疲弊していってシリアスなのだが、最後の最後で急に希望がある感じで終わる。これは軍が撮影に協力しているからであり、フラーの『陽動作戦』なども最後の最後で似た雰囲気になった。
 戦争をリアルに描くのはいいが(たぶんその方が実際の兵隊にもウケるだろうから…)、ちょっとは軍のことをよく見せてくれみたいな要望が出たんだろうなとか勝手に想像している。プロパガンダというものを意識するには良いかもしれない。
 それでも撮影年代の近い『硫黄島の砂』や『ガダルカナル・ダイアリー』なんかに比べると日本兵が割と人間として描かれているほうだと思う。人間としてというか、一応は感情や行動原理のある人格としてというか。

サハラ戦車隊(1943)

 戦時中に北アフリカ戦線を題材にした戦車兵もの。戦争中に戦意高揚映画が撮られるとこういう感じなんだという気もするが、例えば戦闘中にはぐれたという設定で黒人が分隊に加わったりして有色人種と一時的に人種混成部隊を作ったりとそういう多様性みたいなのを押し出してくるのは明確に有色人種に対するアプローチも忘れずに戦っているのだな、というようなことを意識させてくれる。(特にナチスは人種政策をしていたし、それに対する意味合いもあったんだろう…とか想像する)

二世部隊(1951)

 真珠湾攻撃を受けアメリカが対日戦争に参戦すると、アメリカは日系人を強制収容した。当時の米軍は現在のように人種混成部隊を作らず、黒人やアジア人など人種ごとに部隊を編成し、それを白人の将校が率いる形を取っていた。第442連隊は日系人によって構成された部隊であり、数多くの死者と受勲者を出したことで有名。
 戦後にこのような映画が撮られるのは、やはり第二次大戦によって人種に対する世界の価値観が揺らいだこともあると思う。例えば古典的な西部劇はアメリカ先住民(アメリカン・インディアン)を野蛮なものとして征服する勧善懲悪ものとして描かれることが多かったが、戦後の修正主義西部劇がそのような価値観を相対化しようと試みた物語が増えたように、アメリカの戦争映画も同じ系譜を辿っていたのだと思う。


ブラザーフッド(2004)

 韓国の戦争映画。たぶん『プライベート・ライアン』をやりたかったのかなと思った。自分は韓国映画をあんまり見ないんだけど、これは戦闘シーンの銃撃戦が気付くといつの間にか殴り合いになっている(組織的な暴力のはずが、いつの間にか個人の暴力として描かれている)ので、こういうものなのか? と思ってしまった。韓国と北朝鮮の関係がキャラクターに落とし込まれていて、それは良いんじゃないかと思った。

高地戦(2011)

 こっちは割と正統派な戦争映画っぽいなと思った。「あの丘を取れ」というモチーフは『ハンバーガー・ヒル』とかにも見られる結構普遍的な題材で、ちょっとドラマが過剰な気もするが、全体的には良かったと思う。あと北朝鮮の女狙撃兵のキャラがかわいかった。
 朝鮮戦争はアメリカでは忘れ去られた戦争とも呼ばれるが、第二次世界大戦の武器や装備で冷戦初期の資本主義陣営と共産主義陣営が対峙しているのを見ると、不思議と新鮮さがあるなと思う。

極寒激戦地アルデンヌ 西部戦線1944(2003)

 原題は"Saints and Soldiers"という、マルメディ虐殺事件を題材にした脱出もの。小粒な映画だが、雪景色の感じがやはりクリスマスを思わせるからか静謐な印象が残る。このバルジ戦の雰囲気を描いたクリスマス映画としては『真夜中の戦場 ~クリスマスを贈ります~』とかが好きなのだが、配信どころかDVDにすらなっていない。あと『プライベート・ソルジャー』とか『大反撃』とか。どうでもいいが凄い邦題だなとは思う。

エアボーン・ソルジャーズ(2012)

 上記の"Saints and Soldiers"の二作目。私はこの映画を嫌いになることができない…低予算っぽくて小粒な映画で特筆すべき要素も特にないのだが、監督の「僕の考えた最強の第二次世界大戦もの」という感じがひしひしと伝わってくるからだ。たぶん『プライベート・ライアン』とか『バンド・オブ・ブラザース』とかすごい好きなんだろうなという事が伝わってくる。ドイツ軍の戦車もフルスクラッチで製作して登場させてるし、フランスのレジスタンス組織とかと協力して戦闘するシーンとか『コンバット!』でも見たことあるし。あとレジスタンスの女狙撃兵は可愛いと思う。狙撃兵って象徴化されやすいから女性兵士になるのは必然的かもしれないなと今思った。

フランス外人部隊 アルジェリアの戦狼たち(2002)

 実業家サイモン・マレーの自伝に基づく60年代のアルジェリア独立戦争におけるフランス外人部隊の話。激しい訓練シーンもそこそこに、傭兵だとまでは言わないがグレーな作戦に駆り出される外人部隊が描かれる。
 別の映画の話と比べてしまって申し訳ないが、同時代を描いたものとしては『アルジェの戦い』のほうが圧倒的に面白いと思う。そういう意味でも小粒というか小規模というか、そんな感じ。予算の違いもあると思うし。

 あんまり関係ないのだが、『パリは燃えているか』を見た後に『アルジェの戦い』を見ると「フランスもアルジェリアでナチスと同じことやってるじゃないか」と言いたくなってしまう。戦後のフランス軍が描かれることは珍しい気もするので、そういう意味ではちょっと嬉しい映画。

ホワイトタイガー ナチス極秘戦車・宿命の砲火(2013)

 独ソ戦における戦車兵もの。自分はあまり歩兵戦もの以外は見ないのだが、これは味付けがなにか幻想的なところがあって面白かった。そもそも戦車や戦闘機、艦船みたいなものの中にも操作する人員や兵士などが居るわけだが、それらは象徴的にひとつの人格のように扱われるのが面白いと思う。
 『プライベート・ライアン』でも登場したタイガー戦車というのもナチスドイツの持つ力を象徴した戦車のひとつだ。タイガー戦車が搭載する88mm砲は脅威で、連合国の兵士に恐れられた。このホワイト・タイガーはその恐怖そのものを象徴しているのではないかと思う…。

ディファイアンス(2008)

 007俳優であるダニエル・クレイグが主演するパルチザンもの。監督は『ブラッド・ダイヤモンド』と同じでアクション映画寄りの味付け。レジスタンスものやパルチザンものというのは『イングロリアス・バスターズ』とかそうだったがスパイ・スリラーとかサスペンス、ドラマになる傾向がある気がするが、これはある種の愚連隊みたいな感じでアクションシーンが多かったと思う。

ロシアン・スナイパー(2015)

 実在の女狙撃手リュドミラ・パヴリチェンコを題材にした伝記的映画。ハリウッド版の『スターリングラード』(2001)がヴァシリ・ザイツェフを描いたのと同様に、戦争における英雄像や偶像化の話になっている。
 最近のロシア映画は特にアクションシーンの演出が過剰になってしまっていて(逆に)面白いのだが、これはメル・ギブソンの『ハクソー・リッジ』も同じ轍を踏んでしまっている。ドラマ部分のシリアスな演出やリアリズムが、過剰なアクションによって浮いてしまうのだ。ミュージックビデオ風になるとか、ちょっと変な演出も多い気がする。こんなもんか、という感想だったと思うが女性兵士の描写は貴重ではあるので見てもいいかもしれない。

ウィンター・ウォー 厳寒の攻防戦(1989)

 200分かけて人間がボロ雑巾になっていく凄い映画。ソ連に侵攻されたフィンランドの抵抗を描いている。200分の映画というのは本当に長いのだが、大国に侵攻された小国の国防というものを丹念に描いている。繰り返される遺品のモチーフが印象的。戦争という巨大すぎる事象は人間的な感情を奪っていく…「戦争はエモーションと関わりがない」というのはサミュエル・フラーの言だ。

1944 独ソ・エストニア戦線(2015)

 ソ連とナチスの両方に領土を占領されたエストニアでは、それぞれがそれぞれに徴兵されて自民族同士で殺し合わされた。それは分断国家における大国の代理戦争的な側面もあるし、「何故我々は殺し合うのか?」という疑問が付き纏うことになる。
 それはそれとして、銃オタク的には珍しい銃器が沢山活躍していて嬉しい映画でもある。MP38にPPS-43、StG44やSVT-40とか。戦闘シーンも迫力があります。

バハールの涙(2018)

 ISIL(イラクとレバントのイスラム国)に抵抗するクルド人女性部隊を主人公にした映画。紛争の題材としても最新だが、女性兵士というものに焦点が当てられることも珍しい(最近のだと『ロシアン・スナイパー』とかもあるが)。アクションよりもドラマ重視で、隻眼の女性ジャーナリストクルド人部隊の女性隊長の二人が主人公。自分はアニメとかの銃を持った美少女の表象がけっこう苦手(たぶん責任を回避する向きと銃の暴力性と美少女の持つ幻想性などが奇妙に混在しているのが総合的に苦手)なのだが、これはそういうのは気にならなかった。
 フェミニズム的な側面を持つ映画だとは思う。それでも『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』よりは私好みかな。女性性と象徴ファルス偶像アイドルという要素も距離が近いが…そもそもクルド人という民族自体も西洋からオリエンタリズム的に見られ偶像化されてきたし、紛争において様々な国から都合よく扱われてきたのも確かだ。


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