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さぞな旅寝の夢も見じ

袖に吹けさぞな旅寝の夢も見じ思ふ方よりかよふ浦風 定家

詞書に「和歌所にてをのこども、旅の歌つかうまつりしに」とある。「をのこ」は男なのだけど、ニュアンスが現代語と微妙にちがう。ビッグボス・後鳥羽上皇と、上皇に従う和歌所チームの選手たちという上下関係が前提されていて、自分たちを下に置いてものを言う言い方なんですね。ボスに旅の題でおれたち皆で一首ずつ捧げますってことです。

定家の打順。ボックスに向かう時、さっと源氏物語が頭をよぎりました。旅といえば、源氏がちょいとやらかしてしまって、須磨に流されることになった「旅」です。何をやらかしたんだろうと思って源氏物語を開いてみると、ある春の夜、花の宴があって大いに盛り上がりました。宴が終った後、なんかまだ帰りたくないなって思ってぶらぶらしてたら、少しだけ開いてる戸がある。近づいてみると、ちょうど中から、月でも見ようと思ったのか、出て来た美女がいた。源氏はチャンスを逃がさないやつです。絶妙の歌を歌い交わして、仲良くなってしまう。それ以後、ちょくちょく源氏はその「朧月夜」のもとに忍んでいくのです。忍びで行かねばならない理由がありました。彼女はじつは、源氏をよく思ってない右大臣の娘とわかったからです。よりによって...

じゃあ付き合うのやめるかというと、やめられませんね。その夜も源氏は朧月夜の几帳の中で一夜を過ごしていました。夜明け前から雷が激しくなった。すると、「たいへん!」てわけで、朝の暗いうちから邸の人々が出て来て大騒ぎ。源氏は帰るタイミングがない。そのうち主の右大臣まで出て来てしまった。まず娘のところに行こうとする。娘はバレないように工作するのだけど、結局、発見されちゃった。右大臣、激怒。その後、源氏は須磨に流されるという決定が下るのです。そんなプライヴェートなことでどうして権力が動けるのか、途中の筋をすっ飛ばして読んでるのでよくわからんのですが、とにかくそうなっちゃっいました。見つかった時の源氏の述懐。「つひに用なきふるまひの積りて、人のもどきを負はむとす」(ついに無謀な行動が積み重なって、人に責められることになる)。わかるなー。

まだ定家の歌まで辿りつきません。今夜はここまで。
でも「思ふ方」って誰を思ってるのかは、明らかですよね。

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