僕が数学を好きなわけ #シロクマ文芸部
愛は犬、と先生は言って、みんなをぐるりと見渡した。いつもと違う数学の授業に教室がざわめく。
「つまり、」
黒板へ向き直り、先生は白いチョークで書きつけていく。
愛 = 犬
間髪を入れず、その下に愛は勝つ、と記すと先生は重大な秘密を打ち明けるかのようにニヤリ、とする。
「愛、に、犬を代入する」
ラジカセのボタンが押される。
イントロが流れ、空気がいきなり沸騰する。
席を立って踊り始める者があるが、先生は咎めることもない。それどころか大きなコンパスと三角定規を振り回して煽ってくる始末。
上着を脱いで旗のように左右に振っている奴もいる。
もうすぐ、サビだ。
あの瞬間、あいつもこいつもどいつも、尻尾をブンブン回しているのが、僕には見えたんだ。
「これが代入だ」
先生はそう言うと、板書を消し、ラジカセを隠した。教頭が駆けつけてきたときにはもう、僕らは連立方程式を解いていた。
「えー、この式にx=5を代入します」
僕が数学を好きなのは、犬が勝つ、からだ。
<了>
小牧部長、大幅遅刻で申し訳ありません。
犬、ときたらどうしても書かずにはいられませんでした!!
お気持ちありがとうございます。お犬に無添加のオヤツを買ってやります。