穂音(ほのん)

ちょっとおかしな世界が好き。小説「ミズ・ミステリオーザ」「長夜の長兵衛」 パピヨンさま…

穂音(ほのん)

ちょっとおかしな世界が好き。小説「ミズ・ミステリオーザ」「長夜の長兵衛」 パピヨンさまと小説執筆沼でぷくぷくしており気まぐれに浮上します。タイムライン追えなくて済みません 各社から楽曲「夢の香り」「hermosa - a piece of harmony」を配信中

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  • 長夜の長兵衛 七十二候シリーズ <短編小説>

    長夜の長兵衛 二十四節気シリーズに続き、七十二候のシリーズです。 短編の連作です。読み切りですので、どこからでも、お読みいただけます。全部地の文で出来ているこの世界は、一体いつ、どこなのか、どうぞお好きなところへトリップしていただけましたら。

  • ほのんのおと

    取り上げてくださってありがとう、心にグッときましたありがとう、のおと

  • お犬まみれ

    うちのお犬についての親バカ的なアレです。 ヘッダー画像は橘鶫さんが描いてくださった白いお犬です。

  • こびと図書館

    • 119本

    「見えなくてもいい、いまそこにいる。信じて感じるのだ!」をスローガンに活動するこびと部が運営する図書館です。 こびと部はゆっくりのんびり各自のびのびをモットーに活動しております。

  • ぬか漬け部

    • 69本

    ぬか床に関するこんなことやあんなこと。 「こんな時、どうしてる?」とほかの人に聞いてみたいことや、「聞いて聞いて、大発見!」とぜひとも報告したい発見などなど、熱烈歓迎いたします! 入部希望の方はコメント欄等でお知らせください♪ ヘッダー画像のぬか床は、清世さんが描いてくれた作品です。

  • ウミネコ制作委員会2023
  • 花びら道
  • かわらないきぼうのいろ みんながボーカリストバー…
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ぽぽぽー

 ぽぽぽー。  磁力線はその一点を指していた。くたびれた商店街から枯枝をつたうように路地を進む。長いこと補修などなされていない店ばかりだ。 「エドの店」とペイントされた扉を押すと、ベルが錆びついた音をたてる。  硝子は磨き込まれているし、周囲に高い建物があるわけでもないのに、店内はほの暗い。外壁も店の内側も、くすんだ煉瓦タイルが覆っている。こいつが光を呑み込んでいるのかもしれない。  メニューには珈琲が数種類だけ。 「夜は食事とかお酒とか?」 「いや。珈琲だけです」  採算が

    • 長夜の長兵衛 葭始生(あしはじめてしょうず)

      目刺  細く尖った芽が水面を穿つように、あちこち姿をあらわしている。  葦の角に出会うと、身が引き締まるような思いがいたす、と銀兵衛。天まで伸びよと聞こえてくるようで、己もかくありたいと心持ちを新たにするのだ。  そうか。実のところ、儂は恐ろしいような気がする、と長兵衛はこたえる。  恐ろしいとな。  うむ、あまりに真っすぐで、尖って、触れたなら切られそうで。もちっと長うなって、風にしなり始めると安堵いたす。揺れて、倒れて、また起きて、それくらいの按配がよいのう。  面白い

      • 長夜の長兵衛 虹始見(にじはじめてあらわる)

        躑躅の衣  丁寧に衣を広げ衣紋掛けに吊るすと、蘇芳の色目が金兵衛の心の奥を掴んでくる。ややあって、裏の萌黄が、そのまた奥を射る。三歩ほど下がって、もう三歩、五歩、終いには次の間から眺めた。  うむ。  おのずと口の端があがる。  譲り受けた折には、なかなかな傷み具合であったが、よう、ここまで。さすがは源兵衛、反物屋の隠居。染め物の腕は道楽どころではないわ。  まこと良質な織りの衣であったゆえ、つい熱が入ったと仰せでございました。洗い張りも仕立て屋も、同じ思いであったようだと

        • 長夜の長兵衛 鴻雁北(こうがんかえる)

          花筏  吉野の山桜は、夢かうつつかわからぬほどの見事さと聞きおよびます。行者さんの御神木だけのことはあると。  久兵衛は猪口を盆に置く。  相手のことは知らぬ。たまさか蕎麦屋で同じときを過ごしている。  ご覧になったことがおありとは、羨ましい限りですな。  久兵衛の頬は、ほんのりと赤らんでいる。  これも何かのご縁、勘定は儂が。さあ。    鼻歌まじりに久兵衛は歩く。  随分と散ったのう。源兵衛川に幾つも、花筏が浮かんでいる。  その間をひょこ、ひょこと歩いているものがある

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        • 長夜の長兵衛 七十二候シリーズ <短編小説>
          34本
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          91本
        • お犬まみれ
          53本
        • こびと図書館
          119本
        • ぬか漬け部
          69本
        • 穂音のお好み焼きー掌編
          26本

        記事

          長夜の長兵衛 玄鳥至(つばめきたる)

          駘蕩  辻にて長兵衛は一旦立ち止まる。左へ行けばお社さん、右なら畑へ至る道、まっすぐ進めば峠。  ほわりほわりとした気の流れを辿りながら歩いていると、峠へ向かう一本道から少しく脇へそれていく。なだらかな斜面にみつばつつじの群生するのを見つけ、傍に大の字になってみた。  桜が白に思えるほど、濃い花びら。小さな三揃いの葉は新しい春の色をしている。その向こうに、すっかり霞の晴れてきりりと締まった青が透けて見える。切れ切れに雲がわたっていく。  風が土の匂いをそよがせて。寝転んだま

          長夜の長兵衛 玄鳥至(つばめきたる)

          長夜の長兵衛 雷乃発声(かみなりすなわちこえをはっす)

          海猫渡る  鳥居をくぐると、すぐのところに宮司さんが待っておられた。  金兵衛さん。初雷をききまして、お越しになる頃合いと思うておりました。  金兵衛は深々と礼をする。はい、今年もよろしゅうにお頼み申します。  振り返ると後ろに控えていた一番弟子の銀兵衛と長兵衛に告げた。いっとき、ここで待っていてくれぬか。  ありがたきこと。  祝詞が終わっても金兵衛は頭を垂れたままだ。  脳裏に浮かぶは海原を舞う海鳥。あのかたが、海猫にゆかりの深いあのお方があったからこそ、儂は今でもこ

          長夜の長兵衛 雷乃発声(かみなりすなわちこえをはっす)

          長夜の長兵衛 桜始開(さくらはじめてひらく)

          花時  久兵衛の手にある黒塗りの横笛を、お天道様が撫でていく。うららかな日和に、川べりをゆく足取りも軽くなる。  ひとつふたつ、いやみっつ。  開いたの。目を細めて桜を見上げ、そこに腰を下ろした。  おのずと半眼になる。吹くのでなく、笛と共に息をする。己が鳴らすのではない、ただ、笛に委ねていくのみ。  音に包まれると次々と花が開き、みるみる満開となる。水鏡は桜色を映し、水紋はすべるように流れて、彼方まで久兵衛を連れてゆく。  家へ戻り、丁寧に笛をみがいていると幼馴染の金兵

          長夜の長兵衛 桜始開(さくらはじめてひらく)

          一気に咲き出しました 来週から四月なんですね 毎日とぶように過ぎていきます。ちょっとのんびりしたいなあ

          一気に咲き出しました 来週から四月なんですね 毎日とぶように過ぎていきます。ちょっとのんびりしたいなあ

          長夜の長兵衛 雀始巣(すずめはじめてすくう)

          白木蓮  ときに木肌に触れながら、源兵衛はその周りをぐるり、と一周する。身を屈め、大きな白い花びらをいくつか拾い上げた。  反物屋を隠居して、ここに落ち着いてから随分とたつ。道楽の染め物を始めるにあたり、川べりという場所ももちろんだが、庵の側にある大きな白木蓮に惹かれてやって来たというのも、ある。  こんもりとはち切れんばかりであった蕾が、日に日にその白を惜しげもなく広げたと思えば。散ったばかりの花びらのへりはもう茶色く、土に還る支度をしている。  それもまた美しい、と源兵

          長夜の長兵衛 雀始巣(すずめはじめてすくう)

          長夜の長兵衛 菜虫化蝶(なむしちょうとなる)

          彼岸西風  橋の真ん中で、婆さまがじっと川を見つめておられる。どうなされたのであろうか。  長兵衛は足を早め向かおうとするが、腰にくくりつけていた手拭いがふらり、落ちてしもうた。身をかがめ、拾おうとすると思いがけぬ風に攫われ。  おっと、焦ってはならぬ、ここいらを踏み荒らさぬように。  二度ほどつかまえ損ね、三度目にようやっと追い付く。手拭いを軽くはたいてくくりなおし、婆さまのところへ辿り着く。  長兵衛さん、蝶々のようでしたわ。穏やかに澄んだ目で、婆さまはほっほっ、

          長夜の長兵衛 菜虫化蝶(なむしちょうとなる)

          五年目の春

           ベランダの水仙に、一斉に蕾が。今まで、年に一、二輪しか咲かなかったのだけれど、何年もずっと蓄えてきて、今年なんだろうと思うとじーんとします。  ジャスミンの新芽も、ちょっと黄色みを帯びた緑で心をくすぐってくる。これ、昨年初めて花が咲いてウンナンオウバイだったと判明。学名 Jasminum mesnyi。どうりで香らないわけです。  春になったら着たいなあと思っていた新しいトップスを、ついにおろす日がやってきた。数十年ぶりに淡いイエローのシャツなんかを取り入れたりして。暖か

          長夜の長兵衛 桃始笑(ももはじめてさく)

          草雛  両手に抱えたものを揺らさぬよう気を配りながら、長兵衛は安兵衛の屋敷へ着いた。  まあ、長兵衛さん、なんといい枝ぶり。  お内儀は顔もとを緩ませて、薄紅の桃の、花びらのひらいたのやら、まあるい蕾やらを交互に眺め、枝先の緑を人さしゆびの先で撫ぜた。  おお、長兵衛。いつもかたじけないことだ。ささ、あがれあがれ。  安兵衛も後ろから手招きする。菓子屋の大旦那、気儘な隠居の昼下がりである。  名物の豆大福と茶をいただいておると、庭石の上に緑色をした饅頭のようなものが二つ、置

          長夜の長兵衛 桃始笑(ももはじめてさく)

          長夜の長兵衛 蟄虫啓戸(すごもりむしとをひらく)

           蟇目鏑    お社さんで蔵の掃除を手伝っておると、見慣れぬ矢が仕舞われてある。矢尻に大きな繭のようなものがついて、繭には小窓があけられている。はて、と長兵衛は首を傾げた。  宮司さんが教えてくださる。蟇目鏑といいますもので。  鏑矢とは、初めて近くで見ました。蛙のような声で飛ぶのでござりましょうか。  宮司さんははっはっ、と心底愉快そうに笑われた。いやいや見た目が似ておる、ということでしてな。穴が四つあるのを四目と申しまして、まことに心があらわれるような音がしますぞ。いずれ

          長夜の長兵衛 蟄虫啓戸(すごもりむしとをひらく)

          長夜の長兵衛 草木萠動(そうもくめばえいずる)

          堅香子    おい、銅十郎。  坊は背を向けたままでものを言わぬ。銀兵衛は近づくことはせず、もう一度呼んでみた。  銅十郎よ。  坊の背はぐっと丸められ、両の拳は固く握りしめたままで。  木を。それだけ言うと、ひくひくと肩を上下させた。ぽたりと地面にこぼれるものがある。足元で赤茶色の犬が鼻を鳴らす。  兄いに倣って、木を。でもうまく切れなんで、兄いに斧を取り上げられてしもうて。あとは全部兄いが。  まだ、頭一つ小さい後ろ姿へ銀兵衛は語りかける。  のう、銅十郎よ、斧を使うに

          長夜の長兵衛 草木萠動(そうもくめばえいずる)

          出張翌日。お休みをとったのです ひゃっほう!

          出張翌日。お休みをとったのです ひゃっほう!

          長夜の長兵衛 霞始靆(かすみはじめてたなびく)

          佐保姫  畑の果てに並ぶ山々は、すぐそこにあるようでいて遠く、丘のようでいて高い。このような薄曇りの日には、黒がかった緑のいでたちでこんもりと固まっている。  中腹には桜が三本ほどあるが、花が咲かぬことにはどこやら見分けがつかぬ。川べりに並ぶものとはまた趣が異なって、遠くにある幻のようである。  風がはやい。  山のてっぺんがあらわれたり、消えたりする。  ふうわり白い衣が、山々を遊ぶ。ひらりひらりと裾、ゆらりゆらりと袖がひるがえってはあちらで枝に触れ、こちらで土を撫ぜて。

          長夜の長兵衛 霞始靆(かすみはじめてたなびく)