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【エッセイ】子供の趣味嗜好における親の影響のデカさ

僕は小さい頃から親から音楽を聞かされて過ごしてきました。
母が運転する車に乗るときはビートルズとクイーンとビリージョエルを、父が運転する車に乗るときは大瀧詠一と佐野元春とレッチリ、ガンズアンドローゼズを聴かされました。

どっちの趣向も好きだったので今日のお出かけはどっちの運転だろうと楽しみにしていたのを覚えています。

母はクラシック的なアーティストが好きで、父は壮大でハードな80年代のロックンローラーが好きで、真逆の2人はお互いに理解しようという姿勢を全く見せませんでした。というよりは、干渉しようとしていませんでした。

母が運転してるときは頭を揺らしてる母の隣で父は旅行のガイドを読んだり僕に話しかけたりして音楽に耳を傾けようとしません。逆も然りです。僕は両親のこういうところが何となく好きでした。当時から本を読むのが好きで、「どんな本読んでるの?」と聞かれると反応に困るから嫌だった僕は「理解しようとされないことの気楽さ」を知っていたからです。

そのうち僕は自然と母と父の音楽的趣向のハイブリッドのような人間になり、ビートルズとレッチリが好きな小学生という悪魔のような逆張りオタクの原石が生まれてしまったのです。

しかし中学生になりスマホを与えられニコニコ動画に出会い、ボカロを知った私はそれはそれは尋常ではないくらいのめり込みました。
ギガ、neru、トーマ、カゲプロ、kemu、れるりり・・・「時代の最先端のアーティスト」に触れ、私の中二病は今までクラシックロック、ハードロックしか聞いてこなかったことの反動もあってか、爆発的に発症してしまいます。

「流行りの音楽を全く聞かせてくれなかった親」に対する反抗期の始まりです。

車の中ではウォークマンで爆音でボカロを聴くようになってしまいました。(マジで恥ずかしい・・・)

ですが、親は僕のウォークマンの音漏れに全く興味を示さず、何食わぬ顔で流したいCDを流していて、「干渉しない」のは親同士に限った話ではないことに気づき、「あぁ、いい人たちだ」と反抗期ながら心を許しそうな自分がいました。

ですがその反抗期は一瞬で終わります。

youtubeで何となくクイーンの「Don't Stop Me Now」を久しぶりに聴いて、「こんないい曲だったっけ!!???」と冗談抜きで泣きそうになるほど感動したからです。

僕は正直ここで、両親の趣味嗜好を否定しようとしたのです。
改めて聴くことで、「やっぱ古くくせえわボカロ最高!!」となる予定でした。
ですが何を間違ったか、僕は感動して逆にロック最高!!と原点回帰してしまいました。

これが原体験って人は多いはず・・・

車の中で何となく聴くのとは違い、イヤホンを付けて真剣に聴くことで、この曲の持つ凄まじいエネルギーに気付いてしまったのです。
その日はもうレッチリ、ビートルズと懐かしの曲を聴き漁りました。

こんな感じで反抗期(と言えるかすら怪しいけど・・・)は高校に入る前には終わり、そこからはボカロの波は少し収まって(ちゃんと流行った曲は聴いてはいた)色んな洋楽を聴くようになり、母から教わったアーティストから派生してローリングストーンズとイーグルスを知り、父のそれからはパールジャムとニルヴァーナを知りました。
二つの全く異なった位置にある起点から、時系列を辿っていくように色んなアーティストを知っていったのです。

そしてある日曜日、ついに僕は両親に言います。

「これを流してほしい」

手に持っていたのはオアシスのベスト。
僕が当時から今に至るまで一番好きだと自信を持って言える最強のバンドです。

父は「ええで」とだけ、母は「好きにしたら」とだけ。
多分二人はそんなに深く考えていなかったでしょうが、僕は死ぬほど緊張してました。

CDを入れ、一曲目の「ロックンロールスター」が流れるや否や、僕は「18番まで飛ばして」と助手席の母に頼みます。
「なんやなもう」と面倒そうにボタンを弄る母。

流れる「Don't Look Back In Anger」。父と母は揃って「ああ」と聴いたことのあるイントロに納得し、横に座ってた弟も「知ってるわこれ」とスマホを弄りながら呟きました。


僕の忘れられない大切な思い出です。







僕は今やレコードを買ったりスピーカーを買ったり、音楽を聴くことが大好きになりました。音楽を好きになるきっかけは両親のカーステレオですし、2人にその気はないにしても「オタクな音楽にハマる」タイミングをくれ、僕の視点を大きく広げてくれたのも両親です。
そして「理解出来ないものは無理に理解しようとしない」という二人の共通した価値観は、僕の人格形成に多大な影響を与えました。

親の子供に対する責任は本当に想像以上に大きいんだな、という話でした。



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