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こどもの声を聴くのは自治体の義務です。こども家庭庁がいよいよ創設。

令和4年6月に「こども基本法」が成立し、内閣官房こども家庭庁設立準備室が立ち上がりました。いよいよ来年4月には「こども家庭庁」が創設される段階になっており、子ども・若者に関わる活動をしている人たちの中では、大きな話題になっています。

詳しい自己紹介は、こちらのnoteをご覧いただければと思いますが、僕は10年前くらいから静岡を中心に、中学生や高校生の若者世代の社会参加、政治参加、まちづくり参加に関わる活動に取り組んでいます。

そんなこともあってか、昨年度からこども家庭庁の創設に向けた有識者会議のメンバーとして参画しており、とくに子どもや若者の参画、意見反映について発言をしています。この10年間、こどもや若者と関わる活動をしてきたわけですが、今回のこども家庭庁の創設は、我が国においては大きな転換期にあると強く感じています。

こどもや若者が「対象」から「主体」に変わった。

まず、大きく変化したのは、政策におけるこども・若者の捉え方です。これまでのこども若者政策では、こどもや若者は支援や保護、育成の対象という見方が前提でした。

例えば、青少年の健全育成などと言うように、こどもや若者が自発的に意見を言ったり、権利の主体という考え方は定着していませんでした。我が国では、1994年に子どもの権利条約に批准をしているわけですが、この批准は先進国のなかでもかなり遅い批准でした。

なぜ批准が遅れたかについては様々な議論があったようですが、とくに第12条の意見表明権がネックだったと聞いています。意見表明権とは、子どもに関わるすべての事柄について、子どもが意見を表明する機会をつくらなければいけないというものです。

1.締約国は、自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において、児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする。
2.このため、児童は、特に、自己に影響を及ぼすあらゆる司法上及び行政上の手続において、国内法の手続規則に合致する方法により直接に又は代理人若しくは適当な団体を通じて聴取される機会を与えられる。

子どもの権利条約 第12条意見表明意見

学生運動なども経験していた日本国内では、子どもや若者が自由に意見を表明するのは危険だし、そもそも義務を果たせない子どもや若者に権利があるのはおかしいという考えが強く、家父長制が根付く文化的な背景などもあって、若年者である子どもの権利を認めない考え方の方が色濃かったのです。

子どもの権利条約の批准後は、国レベルの動きはほとんど進んでおらず、日本ではじめて子どもの権利条例を策定した川崎市(2000年)を火付け役に、これまでは地方自治体が主導して子どもの権利の推進を行ってきました。

地方創生でこども若者参画が政策化してきた。

これは私見ですが、子どもの権利条約の批准当初の頃は、子どもの数もある程度は多く、政策のテーマとして「子ども」や「若者」を取り上げる意味がそれほど強くなかったのではないかと感じます。

実際に、この間の期間に行われてきた子ども若者政策は、ニート引きこもり支援などの若年無業の問題であったり、就職氷河期に対する雇用政策などで、傷口があったらそれを塞ぐと言ったものでした。

しかし、そんな我が国も大きな人口減少社会に移行しはじめました。地方都市では、こどもや若者の流出が大きな課題となり、都市の持続化戦略としての子ども若者政策が浮上しはじめます。

2014年には、安倍政権下で「地方創生」が掲げられ、2015年のまち・ひと・しごと創生法の公布を受け、各自治体が地方創生総合戦略と人口ビジョンの策定に取り組みはじめます。また、同年には、選挙権年齢を18歳以上に引き下げる改正公職選挙法も公布されました。

少子高齢化、人口減少社会への移行といった社会的な背景から、地方自治体を中心に子どもや若者の参画政策が本格的に取り組まれ始めるようになりました。つまり、子どもや若者の声を聴いてまちづくりをしないと、子どもや若者がどんどん流出してしまい、都市が持続できないというロジックになってきたわけです。

子どもや若者の参画の取り組みとして代表的なのは、子ども会議(議会)、若者会議(議会)です。この設置状況について、2019年に私たちNPO法人わかもののまちと早稲田大卯月研究室の共同調査を行いました。

その結果、地方創生元年と言われる2015年以降に、「子ども議会(会議)」や「若者会議(議会)」に取り組みはじめた自治体が圧倒的に増えていることが明らかになりました。少子化、人口減少対策としての子ども若者参画の文脈が全国的に当たり前になってきています。

先ほど述べたように、子どもの権利条約の批准後に、国内の様々な自治体で子どもの声を聴くまちづくりに取り組む動きもあったわけですが、2022年4月時点で61自治体のみの設置に留まっています。全国約1700の自治体があることを踏まえれば、この数は3%程度であり、大きなムーブメントになったとは言えません。

唐突感のあったこども庁構想

そんな中で、菅政権の時代に「こども庁」の構想が浮上しはじめました。これは2021年のことです。突然の「こども庁」構想で、唐突感があるという批判もありましたが、安倍政権からの成長戦略を引き継ぐ形で、子どもに関する政策を一元化することが狙いということでした。

岸田政権になっても「こども庁」の構想は引き継がれることになりました。構想が具体化するなかで、与党保守派の反対もあり「こども家庭庁」と名前は変化しましたが、構想のベースはそのままに「こどもまんなか社会」を掲げています。(こども庁からこども家庭庁になった話は長くなるので、この記事では書きません)

それから有識者会議が立ち上がり、政府内で取りまとめた「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」には下記のような記載があります。

こども政策が行われる際には、こどもの最善の利益が考慮されなければならないことは、言うまでもない。こどもが保護者や社会の支えを受けながら自立した個人として自己を確立していく主体であることを認識し、こどもの最善の利益を実現する観点から、 社会が保護すべきところは保護しつつ、こどもの意見が年齢や発達段階に応じて積極的かつ適切にこども政策に反映されるように取り組む。また、若者の社会参画を促進する。

こども政策の新たな推進体制に関する基本方針(令和3年12月)

この基本方針の記載からもわかるように、これまで保護や支援、育成の対象だったこども若者は、自立した主体として認識され、こどもの意見をこども政策に反映されるように取り組むことも明記しています。

これまでの流れから考えれば、政府資料にこのような文章が書かれたことが、いかに画期的であるかは言うまでもないでしょう。

子供、子ども、こども

これはちょっとした小話ですが、「こども」の表記の仕方が変化していることにも注目すると、政策の考え方の変化を垣間見ることができます。

これまでの自民党こども政策では、「子供」と表記するのが一般的でした。ちなみに「若者」も「青少年」「青年」という表現です。これが民主党政権になった際に、「子ども」と変化をしました。例えば、鳩山政権下で発表された「子ども手当」などに代表されるように、従来の子供政策とは違うぞ!というメッセージなのだったと思います。

そして、今回のこども家庭庁では、「こども」とすべてひらがなの表記に変化しています。これまでの自民党的な子供政策の考え方であれば、「子供家庭庁」となってもおかしくなかったわけですが、すべてをひらがなとしたのは特筆すべきことです。

僕自身はこの表記の仕方からも、従来の子供政策や子ども政策とは違うんだ、変わっていくんだというメッセージを強く感じています。

自治体がこどもや若者の声を聴くのは義務に。

さて、ではこども家庭庁ができると、なにが変わっていくのでしょうか。

こども家庭庁が扱う政策分野は多岐にわたっているため、あくまでも僕自身が関わっているこどもの意見反映や参画に関する分野からの話になりますが、国や自治体がこどもや若者の声を聞かなければいけない社会に変化していきます。

こども家庭庁設立準備室が、今年の11月に「こども基本法に基づくこども施策の策定等へのこどもの意見の反映について」という文章を全国の自治体向けに発出しています。

首長はもちろん、議員さん、自治体職員の皆さんには必ず読んでほしい文章なわけですが、とくに重要なところを下記に抜粋します。

令和4年6月に成立したこども基本法(令和5年4月施行予定、以下「法」という。)に おいては、第3条第3号、同条第4号で、年齢や発達の程度に応じたこども(心身の発達の 過程にある者をいい、若者を含む。以下同じ。)の意見表明機会の確保・こどもの意見の尊重が基本理念として掲げられるとともに、第 11 条で、こども施策の策定等に当たってこどもの意見の反映に係る措置を講ずることを国や地方公共団体に対し義務付ける規定が設けられております。

まず、こども基本法に記載されているように、こどもの意見反映は義務であることを明記しています。ここまで強く「義務」と言い切っていると、ちょっとドキッとします。

Q こども施策へのこどもの意見反映は、必ず取り組まなければならないのか。
A こども基本法第11条において、国及び地方公共団体に対し、こども施策の策定、 実施、評価に当たっては、その対象となるこども等の意見を反映させるために必要な措置を講ずることを義務付ける規定が設けられている。こどもも社会の一員であるという認識のもと、同条を踏まえ、こどもからの意見の聴取及び施策への反映に取り組んでいただきたい。(条文の解説は別添1をご参照いただきたい。)

その下の具体的なQ&Aでも、繰り返し「義務」であること、と述べられています。

Qこども施策といっても幅広いが、どの施策に関してこどもの意見を聴く必要がある のか。
A こども基本法に基づき、こども施策を策定・実施・評価するに当たって、こども等の意見を反映するための必要な措置を講ずる必要があるが、同法の「こども施策」には、こどもの健やかな成長に対する支援等を主たる目的とする施策に加え、教育施策、雇用施策、医療施策など幅広い施策が含まれる。具体的に、意見聴取のテーマをどのように設定するか、どのような手法で、どの程度の頻度で意見を聴くのかなどについては、各地方公共団体において、個々の施策の目的等に応じて、こどもたちの声や反応を踏まえつつ、取組を進めていただきたい。

じゃあ具体的になにをどうやって聴くの?という話では、こどもに関わる幅広いテーマについて、様々な手法を用いて意見反映に努めなければいけないことも記載されています。

つまり、こどもや若者の意見反映や参画はこれから必ず取り組まなければいけないものになります。やったほうがいいものではなく、やらなければいけないものになるわけです。

うちのまちはこども会議/若者会議があるから大丈夫。

そう思っている首長や公務員の皆さんもいらっしゃるかもしれませんが、それは完全な間違いです。あえてここでは間違いだと、断定をしておきたいと思います。

上記で紹介しているように、こどもや若者に関わる政策テーマというのは、本当に幅が広いです。ある意味、子ども会議(議会)や若者会議(議会)は、その一部に過ぎず、それだけをやっているようで子どもや若者の声を聴いているというのは全然ダメです。

例えば、すでに国内にある実践で上の図のように整理をしてみましたが、子どもや若者の1番身近な問題は「学校」です。最近はカタリバさんが中心になって、生徒が議論して校則づくりに取り組むルールメイキングのプロジェクトもはじまっていたり、形骸化している児童会や生徒会の大きな見直しも必要になってくるでしょう。

また、児童館や公園、ユースセンターなど、学校外のこども・若者の居場所のなかでの参画や意見反映もこれから取り組んでいかなければいけません。そもそも、そうしたこどもたちの安全圏を保障する場づくりも重要な施策になります。

もう少し高いレイヤーになると、行政施策への意見反映ということになります。子ども会議(議会)や若者会議(議会)の取り組みはもちろんのこと、パブリックコメントやタウンミーティング、各種審議会など、既存の市民参加手法に子どもや若者の参画を盛り込んでいくことも求められます。

石巻市では、児童館「子どもセンターらいつ」の指定管理者の選定プロセスに子どもが参加し、意見反映を行いました。これも画期的な方法です。

子ども政策の担当部署だけのものではない。

こども家庭庁と聞くと、子ども政策を所管する「こども未来課」「子育て支援課」あるいは「教育委員会」が取り組むものという印象を持つ方もいるかもしれませんが、これも誤りです。

こどもや若者に関わる事柄は幅広く、全庁的な取り組みとして昇華させていかなければいけません。しかし、こどもや若者の声を聴くことは、従来の市民参加手法よりも、より高度なものだと考えています。

こどもや若者は必ずしも自分の意見を伝えることに慣れていませんし、大人たちにいきなり「なにか意見して!」と言われても、普通だったら緊張してうまく意見が言えないでしょう。

こどもや若者が意見を言いやすい場づくりをするファシリテーターの存在や、こどもや若者が自分の考えを整理したり、それを相手に伝えるトレーニングにも取り組んでいかないといけません。

また、「意見」というとOpinionと思うかもしれませんが、子どもの権利条約第12条での「意見」は英語でViewsです。つまり、子どもの視点を取り入れていくことが権利として保障されていて、それは必ずしも言葉にできる意見だけでなく、様々な表現の仕方があることも忘れてはいけません。

自治体計画のなかでこども若者参画のグランドデザインを。

こども家庭庁の創設以前から、私どものNPOは全国さまざまな自治体からの相談に乗ってきました。それは事業レベルのものもあれば、もう少し高い視点での計画レベルのものもありました。

これまでの経験を踏まえると、なんらかの計画と連動して、こどもや若者の参画や意見反映についてKPIを定めながら、推進していくことが必要ではないかと考えています。というのも、グランドデザインの整備が行われないまま、子どもや若者の参画を進めていくと、場当たり的な取り組みになってしまうことと、現場側での混乱も見られるように感じています。

例えば、こども参加を強く進めたい首長が「こどもの意見を聴いていけ!」と全庁に呼びかけると、各部署がそれぞれの事業のなかでこども若者の意見を聴く取り組みをはじめるために動きます。そうすると、あの部署もこの部署も地元の学校に行って、生徒さんを何人かだしてくれませんか?と相談に行きまくることになります。

とくに中学生や高校生に関して言えば、ただでさえ部活や勉強で忙しいのに、あれこれ声がかかって大変になるし、学校側も窓口をひとつにまとめてくれ!と行政アレルギーが発症してしまいます。これはある自治体で実際に起こった話です。

ですから、もう少し戦略的にこども若者参画を進めていく必要があり、そのためには総合計画や地域福祉計画、子ども若者プランなどの具体的な行政計画に落としていくほうが良いのではないかと考えています。

例えば、その良い事例として、町田市は子どもマスタープランとユニセフの子どもに優しいまちづくり事業を連動しながら推進しています。とくに日本ユニセフ協会と協働してつくった、子どもにやさしいまちづくり事業のチェックリストは神がかっています。みんな読んだほうが良いです。

町田市では、子どもマスタープラン内で、子どもが意見を発信できる場や機会の確保や、こどもの意見発信の力を育むためのコミュニケーション能力の開発にも取り組んでおり、重層的にこども参画を政策化しています。

また、これらをチェックリストで評価していく仕組みも持っており、こどもや若者の意見反映や参画の評価を行うことで、政策のPDCAサイクルをまわしていくことも重要な要素だと考えられます。

意見を聞くだけでなく、こども若者活動を促すのも大事。

こども若者の意見反映と聞くと、こどもや若者に意見を伺うことばかりになってしまいそうですが、彼らのアクション(活動)を促していくことも重要ではないかと考えています。

意見を言うだけでは、こどもや若者をお客さんにしてしまいかねないし、主体という意味では、社会をともにつくっていくアクションも求められます。主体的な活動(Action)と声を聴くまちづくり(Voice)の両軸をまわしていくことが肝です。

実際に活動をすることで、自分たちで社会やまちを変えることができるんだ!という社会変革感や、自分たちで自分たちの社会を変えていくという意識醸成にも繋がっていきます。

例えば、尼崎市ではスケートボードパークをつくりたい!と、動いた若者たちが自分たちでNPO法人を立ち上げ、社会実験費を集めるためのクラウドファンディングを実施しました。尼崎には、ユース交流センターと呼ばれるユースセンターがあって、この職員(ユースワーカー)たちが活動を伴走しているのも大きな要素でしょう。

ただ単に意見を言うだけではなく、実際に活動していくことはロビイング活動にもなって、結果的にこども若者の思いをカタチにすることにも繋がります。こうしたアクションがたくさん生まれるまちにしていく支援や後推しも重要な政策です。

私たちNPO法人わかもののまちも、高校生が自分でまちを変えていく場として、様々な自治体(今年度は、静岡市、名古屋市、菊川市、磐田市など)と協働し、高校生まちづくりスクールのフレームを提供しています。

ここからがスタートです。

ここまでいろいろと書いてきましたが、こども家庭庁が創設されるのは、来年4月です。これまで、ほとんどと言っていいほど、こどもや若者の声を聞いてこなかった日本が、こどもや若者の声を聴くのは義務だ!と言いはじめているので、そんなにすぐにうまくいくわけがありません。

しかし、我が国のこども若者政策においては、確実に大きな一歩を踏み出しました。行政や政治の世界だけでなく、すべての人に関わることであり、みんなが自分ごとになって取り組んでいくことが求められます。

微力ながらわかもののまちづくりの中間支援団体として、こども若者の意見反映や参画が進んでいくように頑張っていく所存ですので、どうぞご気軽にご相談ください。


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