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たったの一音おもてなし

冷蔵庫が壊れた。
夕食で余ったごはんは、タッパに入れて保存することにしている。
冷めたところを見計らって、冷蔵庫に入れようと扉を開けたら、庫内の灯りが、すうっと消えた。ろうそくが燃え尽きるみたいにすうっと。
冷蔵庫のご臨終に立ちあってしまった。
無機物でもご臨終は悲しいのだと知った。

悲しんでばかりもいられない。
ことは冷蔵庫だ。ほかの家電とは話が違う。
いま庫内に入っているアイスクリームは一夜明ければどろどろだろう。
肉類は急いで大根と煮ることにして、救える食材はどうにかすべく焼いたり煮たりしてもりもり食べた。
翌日デンキ屋さんを巡らねば。

隣の駅には、有名デンキ店が3軒ある。
品揃えや接客を総合的に評価して期待度で順位をつけ、下から順に回ることにした。
最後のお店で買う決断ができるだろうという目論見だ。
できるかぎり情報収集をしてから納得して買いたいタイプなのだ。
我ながらやっかいである。

買い物は、商品を求めることがゴールではある。
その前段階の買うときの店員さんとの会話が「これを買うわたしの判断は正しい」と思わせてくれる、と思っている。
そのあと押しも含めて、わたしにとっては買い物のうちだ。

1軒目。冷蔵庫売り場で性能を比べながら、いったりきたりしたけれど、店員さんはわたしの横をバンバン素通りしていく。わたしきょう透明人間なのかなー。それとも忙しいのかなー。そういうことなら次に行こう。
2軒目。同じように冷蔵庫に貼られた札を見比べながらうろうろしはじめたらちょうどよい頃合いに「おわかりにならないことありますか?」と声をかけられた。
ど「冷蔵庫が壊れちゃったんですよ」
店「わ!!」
この一音だけで、
「この店員さん信用できる」
と思った。
そら、大変だ!という共感と、どうにかしなきゃの意気込みまで、かすかに見える。
わたしの直観はすばらしく、そのあと「納品早くないとだめですよね?」と候補にあげたいくつかの在庫状況を調べつつ、納品日を確かめてくれる。
ああ、なんて寄り添いっぷりなんだ。
冷蔵庫の幅やら高さやら、野菜が10日間新鮮やら、ビールが急速に冷えるやら、消費電力がこんなに減りましたやら、情報の洪水で頭がオーバーヒートしかかってるところに寄り添われると、イチコロだった。
「この人から買いたい」

で、そのまますんなり買えたらよかったのだが。
これと思えたモノが納品されるのは、5日後になることがわかってしまった。
5日間も冷蔵庫なしで暮らせというのか。ムリだ。

肩を落として、最後のお店に行った。品揃えと接客でわたしランキング1位のお店である。
頼む。「これを買うわたしの判断は正しい」と思わせてくれ。
やってきた男性店員は、なにを尋ねても短い単語で返す人だった。
商品知識が少なすぎる。
しばらく来ないうちに、接客が寂しくなってしまってる、このお店。

しかし、である。
その接客が薄味のお店では、目当てに思ったモノが翌々日に納品できることがわかってしまった。
背に腹は代えられない。だって、いまごろアイスクリームがドロドロなのだ。
・・・買ってしまった。
「わ!!!」のおにいさんに心の中で詫びながら。

次になにか壊れたら、はじめから「わ!!!」のお店を訪ねて、ほかのお店なんか見向きもしないんだ。
たったの一音で「アイスクリームドロドロ問題解決チーム」にジョインを表明してくれた凄腕おにいさんから買うんだ。

#nojimaさんサイコー
#おもてなし
#サービス

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