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「ガラスの器と静物画 山野アンダーソン陽子と18人の画家」東京都オペラシティアートギャラリー dokug(ur)a論的美術論 第二回

芸術のことをよく知らない素人の蝉倦俊歩が直面したアートを感じたままに(適当に)語る、特にためにならないエッセイ。

第二回「ガラスの器と静物画 山野アンダーソン陽子と18人の画家」東京都オペラシティアートギャラリー

開催期間: 2024年1月17日(水)-3月24日(日)

会場までの道(飛ばしてもよい雑感)

初台駅で降りるはずが、降り損ねて幡ヶ谷駅で降りる。小雨が降ってはいたが、初台駅に向かって首都高速新宿線沿いを歩くことにした。

地図上では新宿に近いが、幡ヶ谷付近は静かで小さな街といった印象だった。ちょうど昼時だったので道の途中で何か昼ご飯を食べようと思うも、インドカレー屋、ラーメン屋、アジア料理屋などがあったもののどれもしっくりこない。

昼ご飯について思索しながら10分ほど歩いていると、いつの間にか初台駅に到着。東京の駅は本当に近い。
地上に顔を出すささやかな駅出口の真ん前に、新国立劇場、東京オペラシティタワーがそびえ立つ。コントラストのためかやけに巨大に見える。

駅の周囲は、劇場の区画を除けば、住宅街ではあるものの、劇場沿いの道にはかろうじていくつかの飲食店が建ち並んでいた。色々と物色したのちに、道の角の立ち食い蕎麦屋で昼ご飯を食べることにした。
コロッケ蕎麦を頼んだ。格別うますぎるということもないが望んでいたものそのものという安心感があった。客が途切れないのも何となく理解できた。

店内はとても狭く、目の前の巨大な劇場や芸術に少しそぐわないようにも思われたが、ある意味では生活の美の空間と言えるかもしれないなどと、それっぽいことを感じた。

また、並びのイベントスペースでは「あやぽんず」なる配信者さんのイベントを実施しており、活動することはその人自身とファンにとって大切なことだなと思うなど。

新国立劇場の前を通り過ぎ、東京オペラシティタワーの方へ向かう。ここでオペラシティ付近に飲食店があることが判明し、むしろこっちで何か食べればよかったかと思うが、よく見るチェーン店ばかりだったので思い直す。

展示会場は建物の三階だった。入り口に着いた時に、もしや来たことがあるのではと思い出す。おそらくかつて谷川俊太郎展をしていた場所だ。

「ガラスの器と静物画 山野アンダーソン陽子と18人の画家」

ガラス作家である山野アンダーソン陽子氏が各々の画家からの言語表現での情報を元にガラス食器を製造する、出来上がったガラス食器を元にして各々の画家が絵を描く、というようなプロジェクトの成果物を展示するという趣旨の展示会だった。
なので、会場にはガラス食器の実物と、それに対応する絵画が展示されているのだが、さらには、画家のアトリエに置かれたガラス食器の写真も展示されており、一つの具象(ガラス食器)へ注がれる、ガラス作家、画家、写真家の三つの表現を展示しているとでも言えようか。

個人的にはとても面白い展示だった。
おそらくガラス食器だけが並べられていたのでは私は興味を持たなかったと思う。

画家の言語として表現されたイメージ、それを元にしたガラス食器としての具象化、そして画家による再具象化(絵画化)という過程を見ることができるようだった。

言い換えれば、元となるイメージが、ガラス作家、画家という続いている2つのフィルターを通った後の、それぞれの出力を見ているようだった。
(写真家の視点も含めれば実は三つと言えるかもしれない)
それぞれの画家のフィルターを経由した出力が千差万別であるのも面白かった。

気になった作品

マリーア・ノルディン「Plateau」
オレンジ色のハイヒールがドリンキンググラスを踏みつけている。
ドリンキンググラスは力強く見え、少しも割れないのではないかと思わせる。

イルヴァ・カールグレン「the difference is spreading #1」「the difference is spreading #2」
元となったグラスは四角いグラスと円筒形のグラス。絵画はグラスから反射した光そのものを描いたように見え、観点が面白いと感じた。

カール・ハウムド 「Still Life With Books and Grass」
立て置かれた5冊の本の前にマティーニグラス。シンプルな静物画だがなぜか目を引く。本のオレンジやベージュが朝の光に照らされているようにくっきりとしていて鮮やかだからだろうか。

レベッカ・トレンス「Fellowship/Hexagram 13, T'UNGJEN(I)」「Fellowship/Hexagram 13, T'UNGJEN(II)」
木炭のみで描かれた白と黒の絵だが、奥行きと物語を感じる。特に(I)の方は絵画の中でガラスの器だけが浮き上がるように白く暗示的だった。

小林且典「静物学」三作品
時を隔てて描かれた、全く同じ角度の水差しの絵が三つ。時が経つごとに水の量が増えていっており、基線は青からブラウンに変わっている。三つの絵が揃うことで一つの作品として完成しているように感じた。

アンナ・カムネー「The Naked Dive」「Alien」
この画家だけは異色で、器ができる前に絵を描いたとのこと。実物に自分のイメージを縛られたくなかったのかもしれない。乱雑に折り畳まれたシーツのようなものに包まれた器が描かれていたが、絵画自体が器が収められている容器・箱のように見えた。

日の終わり

東京オペラシティタワーの喫茶店に入って、メモを参考にその日の感想を学習ノート(実物)に手書きで記したのだが、思っていた以上にするすると文章になったので驚いた。(本文章は手書きの文章から毒気を抜いて加筆修正したものだ。)
これからしばらくは美術館や展示会などを巡って自分なりの鑑賞をしていこうかと思うなどした。

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