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運命は生み出すもの?受け入れるもの?

生命は授けられ、やがて奪われるものではあるけれど、しかし生きているあいだは、受け止める側にそれを決して手放さず自分なりの色や形にしたいという強烈な意志があって、だからこそこの世界に固有の像を結ぶことができる。

私という運命について 白石一文


運命ってなんなんだろう。

生きるってなんなんだろう。

“真っ当な”生き方ってなんなんだろう。

この本は、そんなクエスチョンが随所に散らばっているように見える。

面白いなと思ったのは、運命や既に定められているような宿命に対し、
正反対の解釈を持った人たちがいること。


明日香にとって、“ほんとう”は、自分の力では及ばない、決定された運命だと思っている。
生まれることも死ぬことも、一切が私たちの力が及ばない既に決定されたことだ。だからこそ、それが確かなこと、信じられる唯一の“ほんとう”だ。

大切なのは、悲しい出来事を乗り越えて、そんな出来事なんかよりもっともっと大きな運命みたいなものを受け入れることなんだと思います。

聞こえはいい。
起こったことを、自分の運命だと捉えて受け入れる。

だけど、それって無力すぎる。

自分の人生に起こることをただひたすら受け入れる人生に、果たして自分が生きる意味はあるのだろうか。

明日香と真逆の考えをするのは、純平だ。

生きるってのは、他の誰のものでもない徹頭徹尾自分のものだろう。
人は、決定し、選択することでしか生きられないし、そこに初めて自分という人間のフォルムが生まれる。
フォルムのない人生なんて真実の人生じゃないし、それは生きていないのと同じことだ。


どちらも正しい気がするし、足りない気がする。

確かに自分の人生を振り返っても、“こうなるしかなかった”と感じる運命じみたものは存在するし、この世に生を持つことも、死ぬことも、私が決められるものじゃない(自殺しない限り)。

だけど、そういうものだけを受け入れるのが私の人生だとしたら、そんなのは嫌だ。

生まれては死に、その繰り返しでしかない私たち人間だったとしても、生きている間は“わたし”であっていいはずだ。

というか、選べないものが多すぎるからこそ、選べるものが“わたし”を作ったり、存在意義とか人生の意味とか、そういうよく分からないものの像を結ぶことができるんじゃないのか。

物語の最後の方は、ニーチェを思い出したりしました。

恋愛というよりは、人生に対する深い考察ができる本だと思います。

ぜひお手に取ってみてください。


Written By あかり

アラサー女

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