タック2

<増刊号ponto>新宿二丁目、LGBT対談からおいしい一粒♡大塚隆史さんとエスムラルダさんの若かりし頃の回想!

 新宿三丁目のバー「タックスノット」で、去る11月、店主で造形作家の大塚さんと、ドラァグクイーンのエスムラルダさんに、新宿二丁目について、LGBTIAQについて、三大巨根について(笑)、セクシャルオリエンテーションやジェンダー、女装から結婚制度までたっぷり語っていただきました。ポント本紙に掲載しきれなかったお二人の回想をお楽しみください。

    夕刻のタックスノット、対談は大塚さんの一人語りで始まる。
    エスムラルダさんはカウンターでメイク中。

大塚 ぼくの学生の頃は、今みたいに「新宿二丁目はホモの人が集まる場所」という情報さえ知られていなかった。名画座と呼ばれる、少し前の映画を二本立て、三本立てで安く見せる映画館が、ゲイの人たちが集まる場所の一つで、大学に入って初めてできた、ゲイ友だちのキューピーちゃんと、ぼくもよく行ったのよ。映画館が込んでいるときは、後ろの方で立って観るの。するとどこからともなくお尻のあたりに手が出て来て(笑)、ゲイの人と出会って、映画館を出てセックスする、みたいなことが普通でした。

 でもぼくもまだ、自分がゲイだということを全面的に受け入れられていたわけではなかったから、エッチしても名前も明かさないでそそくさと別れる、ということが多かった。ところがある時、キューピーちゃんが映画館で会った人とお茶をして、新宿二丁目という場所に連れて行ってもらった、と。それをぼくにね、三点リードした感じで話すのよ。

「タック、二丁目って知ってる~~~?」。
「く、くやしい~~! 連れてって~~!!」みたいな。

 それで連れて行ってもらったのが、「パル」というお店。その後「クロノス」というお店を始めるクロちゃんが、ぼくのことをかわいがってくれて、パルを本丸に二丁目を知るようになり、友だちも増えていきました。

 二丁目では、一夜の相手を見つけるために、バーからバーへ回遊する人が多い。聞いた話だけど、戦後はバーが、銀座に数軒、浅草に数軒……とパラパラしかなかったから、お金のある人は気に入った若い子を連れて、バーからバーへ回遊する遊び方だったんですって。ぼくたちの時代には、すでに新宿二丁目だけでバーが二~三百軒あって、お気に入りの店をみつけては、一晩に数件を回遊していました。

♡ ♡

 もっと時代が下ってインターネットが出てくると、店の雰囲気やクオリティも、行かずに知ることができるようになるのよね。そもそもネットで人と知り合えるなら、わざわざバーに行かなくてもよくなる。バーに通う人は、ゲイの世界にどっぷりつかっている、というある種の偏見があって、自分が同性愛者だと受け入れられない人にとっては、バーに通ったら普通の生活には戻れない、というような、知らないからこその恐れもあったみたい。

 発展場という、その場限りで見ず知らずの人とセックスできる場所があって、そっちは行ってもいいけれど、バーには行かないという人も多い。ぼくからしたら、見ず知らずの人と、セックスだけをするための場所に行くなんてすごい、と思うけど、下半身の関係だけで済ませられるなら、自分を守ることができる、という考え方もあるんだよね。

 バーに通う人の中にも、昼の生活は秘密にしていたい、という人はたくさんいる。昼の顔と夜の顔を使い分けて、二丁目で発散した後、昼はまともな自分に戻る、というような。ぼくの店では客どうしが本名も何の仕事をしているかも知り合っている。でもぼくが二丁目に出てきた三〇~四〇年前は、そうじゃなかった。夜のことは皆が知っているの。あの人が誰と寝て、どんなセックスをしたのか、翌日には皆が知っているのに、昼間何をしているか、本名も一切わからない。昼と夜の生活がくっきり別れているのが二丁目という街だった。

 そして昔はもっと濃い人ばかりだった気がするの。二丁目にくること自体ハードルが高くて、それを越えざるを得ないどうしようもなさを抱えている人が来ていたのだと思う。屈折して、意地が悪いような人も多かったけど、それでも二丁目へ来てバーッと発散して、心のバランスをとっている、ゲイだというだけで仲間になれる一体感があった。

 インターネットが普及してからは、街の情報をいくらでも知ることができるようになって、同性愛者という本当に重たかった荷物も、少しずつだけど軽くなってきている。だから日帰り旅行の気軽さで二丁目にやってこれるようになったのではないかしら。昔は本当に、この人はこういう風にしか生きられないんだろう、と思うような独特な人がたくさんいたけれど、最近はゲイだか一見分らないおとなしめの風貌の人も二丁目に来ているよね。

♡ ♡ ♡

    エスムラルダさん、ベースメイクを終了。
    つけまつげと口紅とウィッグはまだですが、回想に入ります。

エスムラルダ アタシは物心ついた頃から男の子が好きだったんですが、受け入れられず、問題を先送りにしていたんです。でも大学に入ると、周りがどんどん男女のカップルになっていき、このままでは一生一人ぼっちだ、と。

 そこから情報を集めるようになり、橋本治さんの『桃尻娘』や雑誌「SPA!」の新宿二丁目特集を読んで、二十歳の五月の末に、初めて二丁目へ。で、まずは若い人がたくさん入っていく店に入ってみました。それが、当時若いゲイの登竜門と言われた(笑)「BAR ZIP」。

大塚 『同窓会』という、ゲイを描いたドラマの舞台よね。

エスムラルダ とにかくおしゃれな空間で、気圧されてしばらくぼーっとしていたんですが、そのままでは埒が明かないと思い、一人で来ているお兄さんに声をかけたんです。そのお兄さん、最初は爽やかな印象だったんですが、しばらくしてお友達がどやどや入ってくると、「ちょっと~この子今日初めてなんだって~」と、いきなりオネエ化(笑)。グループの中には、十八歳だけど七〇人とやったという子もいて、「これはなんて大変な世界なんだろう」と。

大塚 その場を逃げ出した?

エスムラルダ 逃げるように、終電で帰りました(笑)。 

 そうはいっても同性が好きなことは変えられず……。数か月後に出会った本がきっかけで、とある真面目なゲイリブ団体にコンタクトをとりました。

大塚 え!! そうだったの?

エスムラルダ はい、最初は、そこに所属していたんです(笑)。ただ、当時そのグループには急進的な部分があって、自分の中で葛藤が生まれてしまい……。半年ぐらい経った頃、ゲイ雑誌の文通欄を通じて、大学のゲイ友だちやドラァグクイーン仲間のブルボンヌさんと知り合ってからは、彼らと過ごすことの方が多くなりました。

大塚 当時は守るべきものがたくさんあったのだと思うのね。ぼくは、二丁目の中ではリベラルな方だと思っていたんだけど、リブ団体に「大塚さんはゲイを搾取している」と言われたことがある(笑)。今、ゲイが立たされている状況を変えるために社会に立ち向かうべきときに、現状を受け入れてバーで享楽的に過ごしている人々はいかがなものか。大塚さんはゲイの力を削いでいる、と。それを聞いたときには、その姿勢で世の中を変えていくのはシンドイんじゃないか、と思ったよね。

エスムラルダ ラジカルでしたよね。でもアタシはやっぱり、その団体と出会ってよかったと思っています。一度にたくさんのゲイ友達ができたし、「ゲイであることは悪いことではない」と最初に叩き込んでもらえたので(笑)。「異性を好きになるのが正常で当たり前」という長年の思い込みを解くには、あれぐらい強いパワーが必要だったんです。おかげで、親にカミングアウトすることもできました。

大塚 カミングアウトはいつ?

エスムラルダ 二十歳の八月の終わりですね。そのとき父は単身赴任中だったんですが、姉は立ち聞きしていました(笑)。ちなみに母は三日間、夜な夜なアタシの耳元で「あんたの思い込みよ」って呪文のようにささやいていたんですが(笑)、四日目には気持ちの整理をつけたらしく、「そういうことなら結婚もしないんだろうし、料理も覚えなきゃね」と。

大塚 え~!! 気持ちの整理早いわねぇ(笑)。

エスムラルダ うちの母、悩みが三日しかもたないんです(笑)。

大塚 遺伝?(笑)。

エスムラルダ はい。アタシは最近、どんなに悩んでても、一晩寝たらリセットされちゃう(笑)。

大塚 早い時期にゲイリブに関わった人は、闇を抱えて、社会に復讐するぐらいの気持ちで、社会と闘う拠り所を得ようとしていたのだと思うのね。「ゲイを搾取している」なんて言われて驚いたけど、ぼくももともと、アメリカのリブの本を手に入れたことで、自分を受け入れることができたから、ゲイリブ出身だと思っているの。この店は、同性愛者が同性愛者だと、自分を受け入れることを応援する場でありたい、と思ってる。

エスムラルダ 大塚さんは「スネークマンショー」などのメディアを使った、日本における柔軟なリブの第一人者ですよね。

大塚 ぼくのスタンスはいつも個人でしかないのね。ぼくのリブは、この店から一人とか二人とか少ない人数に対して、何かを手渡すことができれば、というくらいのもの。人間そんなに大きなことはできないからね。

エスムラルダ 「何か」というのは、ゲイとして前向きに生きていくための気づきとか力といったものですよね。それはとても大事なことだと思います。

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