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日進月歩で解明される脳ーミニ読書感想『できない脳ほど自信過剰』(池谷裕二さん)

脳科学者・池谷裕二さんの『できない脳ほど自信過剰』(朝日新聞出版、2017年5月30日初版)が面白かったです。『週刊朝日』の連載エッセイをまとめた論考集の第二弾。アラカルト的に、どこからでも楽しめる一冊です。それぞれの掌編は最新の科学論文を題材にしている。脳に関する謎の解明は、日進月歩で進んでいるんだと実感できます。


どこからでも読めるし、人によって学べるパートは異なります。たとえば「我慢すると忍耐力が下がる」。「自我消耗」という概念を学びました。

 自制心や意志力は有限のリソースなのです。この意味では、筋力に似ています。使えば疲弊する筋肉と同じように、精神力も無限に出し続けられるわけではありません。何かをがんばった後は、やる気や忍耐力、ときには道徳観さえ削がれます。これは「自我消耗」と呼ばれる現象です。

『できない脳ほど自信過剰』p43

これは本書には書かれていませんが、発達障害の疑いがある我が子を見ていると、発達障害は認知のズレやクセが強いことで、この自我消耗を起こしやすいのではないかと感じます。いわゆる「普通」と異なることで、あるいは自分の衝動性を抑えるために、精神力の消耗が激しいと感じる。

「内部動機」と「手段的動機」も面白かった。「『好きだから』が一番!」の章。イェール大学のウルゼスニフスキー教授は、いわゆる外発的動機を手段的動機と表現、定義したと言います。

 一方、手段的動機は具体的な目標に向かうものです。「出世したい」「金持ちになりたい」「賞を取りたい」などです。内部動機との決定的な違いは、他に代替方法があること。これらの目的を達成するためには、他にも手段があることに注意してください。名声や収入のためならば、方法はいくらでもあります。「研究をする」ことは、目的に至るための手段の一つにすぎません。これが「手段的動機」と博士らが呼ぶ理由です。
 一方、内部動機には代替がありません。自然の神秘を解き明かす研究をしたいのならば研究者になるしかないのです。

『できない脳ほど自信過剰』p142

発達障害の「こだわり」に目を向けると、それは内部動機に近いエネルギーを感じます。ある物事になにはともあれ強い感情を持つこだわりは、他人の目とか、他者評価とか、そういう手段的動機を誘引する要素には目もくれないパワーがある。

著者はこのように、一つの論文から溢れるような学びを引き出してくれる。この勢いがあれば、いつの日か、発達障害の全容が解明されるのではないか。それによって、脳の特性を活かす療育や教育の方法が編み出されるのではないか。そんな期待が広がる一冊でした。

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